【クローズアップ】改正物流効率化法が示す物流リスク 輸送力不足が迫る荷主側の意識改革

 ドライバー不足と輸送力の制約が深まるなか、物流を「頼めば運んでもらえる」時代は終わりつつある。改正物流効率化法は、運送会社だけでなく荷主にも、荷待ち時間の短縮や荷役の効率化、積載効率の向上を求める制度だ。大企業だけでなく中小荷主にとっても、物流の実態を把握し、運送会社との取引条件を見直すことは避けられない課題となった。限られた輸送力を前に、運送会社から「選ばれる荷主」であり続けられるか。物流を外注費ではなく、事業継続を支える経営基盤として捉え直す姿勢が問われている。

運送会社が選ぶ時代へ
揺らぐ荷主優位

 2030年度に向け、営業用トラックの輸送能力が大きく不足する可能性がある。国は23年の検討会資料で、30年度に営業用トラックの輸送能力が34.1%、輸送t数換算で9.4億t相当不足する可能性があるとの試算を示した。足元では、官民の対策を踏まえた再検証も進んでいるが、輸送力不足が企業経営上の大きなリスクであることに変わりはない。

 この数字が示しているのは、物流をこれまで通りの前提で維持することが難しくなりつつある現実である。ドライバー不足は一時的な人手不足ではなく、人口構造や労働環境に根差した構造問題となっている。

 こうした輸送能力の低下は、荷主と運送会社の力関係にも影響をおよぼしつつある。これまでは、荷主が運送会社を選び、必要なときに必要な輸送力を確保できることが当然視されてきた。しかし、ドライバー不足が構造化し、運べる車両と人員が限られるなかで、その前提は揺らぎ始めている。運送事業者は、限られた輸送能力をどの荷主に振り向けるべきかを、これまで以上に慎重に判断せざるを得なくなっている。

 この構造変化のなかでも、大企業であれば、代替となる運送事業者を探す交渉力や、条件を積み増す資金力を持つ場合もある。しかし中小荷主は、代替となる運送会社を確保すること自体が容易ではない。運送能力の総量が限られるなか、必要に迫られて新規パートナーを探しても、余力がないと断られる場面が今後増えていく可能性がある。仕入れが届かず、製品が出荷できず、顧客との納期を守れなくなる。こうした事態は、もはや大げさな想定とは言い切れない。

 運送業界は長年、他産業に比べて労働時間が長く、賃金が低いという不均衡を抱えてきた。ドライバーの労働時間は全産業平均より約20%長い一方、年間所得は約20%低い。この待遇では若年層の新規参入は進みにくく、既存のドライバーも高齢化と離職が進む。

 さらに、軽油価格の高止まりや社会保険料の増加、賃上げ圧力などにより、運送会社のコスト負担は増し続けている。そうしたなかで運賃を据え置けば、運送会社は収益を確保できない。

 加えて、日本の物流には、積載効率の低さや帰り便の空車走行といった非効率も残る(【図1】参照)。トラックに十分な貨物を積めないまま走る便や、復路で荷物を確保できない便が生じれば、限られたドライバーと車両を有効に使えず、運送会社の収益も圧迫される。

図1

 歴史を遡れば、1990年代の貨物自動車運送事業法や貨物運送取扱事業法による経済規制の緩和以降、物流業界は激しい価格競争に晒されてきた。これまでは、荷主企業が強い立場を背景に、長時間の荷待ちや無償の附帯業務を物流事業者に求めることで、物流コストを抑えてきた側面は否定できない。しかし、もはや物流事業者の自己犠牲的な努力だけで現場を支えることは難しく、業界は限界点を迎えつつある。

 運送会社が荷主を選別する動きは、感情論ではなく経営合理性の帰結として強まっていくとみられる。この現実を直視し、自社が「運んでもらえる荷主」であり続けられるかどうかが問われている。

荷主も問われる改正物流効率化法

 こうした構造変化に呼応するかたちで、物流効率化法が改正された。今回の改正は、これまで物流現場側の改善努力に偏りがちだった効率化の課題を、荷主・着荷主・物流事業者を含むサプライチェーン全体の責務として位置づけ直した点に意味がある。

 改正物流効率化法では、2025年4月から、すべての荷主や物流事業者などに対して、物流効率化に向けた努力義務が課された。そのうえで、26年4月からは、一定規模以上の荷主や物流事業者が特定事業者として指定され、中長期計画の作成や定期報告などの義務を負う仕組みが本格化した。

 すべての荷主に課された努力義務の中心は、荷待ち時間の短縮、荷役など時間の短縮、積載効率の向上である。貨物を発送する発荷主だけでなく、貨物を受け取る着荷主も対象となる。つまり、運送契約を直接結んでいない企業であっても、受け取り現場で長時間の待機や非効率な荷役を発生させていれば、物流改善の当事者となる。

 そのうえで、第一種荷主、第二種荷主それぞれの立場ごとに算定した取扱貨物重量が年間9万t以上となる荷主は、「特定荷主」と位置づけられる。特定荷主は、経営判断に関与できる幹部を物流統括管理者として選任し、中長期計画の作成、定期報告といった追加義務を負う。対象は取扱貨物重量の大きい企業が中心になるとみられ、一般的な中小荷主がこの基準を超えるケースは限られる。

図2 ただし、9万t基準を超えない多くの中小荷主も、無関係ではない。物流統括管理者の選任や中長期計画の提出といった特定荷主向けの追加義務までは負わないとしても、荷待ち・荷役など時間の短縮や積載効率向上に関する努力義務は、規模を問わずすべての荷主に課されているからだ。

 また、特定荷主に該当しない企業であっても、長時間の荷待ち、契約にない附帯業務の強要、運賃や附帯作業料金の交渉への不適切な対応などは、トラック・物流Gメンによる働きかけや要請の対象となり得る。トラック・物流Gメンは、荷主・元請事業者などによる違反原因行為の情報収集や是正指導を担う行政の専門部隊である。関係資料によると、九州運輸局の事例では、省庁職員とトラック協会を合わせて約40名体制でパトロールが行われ、25年度は450件を超える指導実績が積み上がっているという。

 行政から是正を求められれば、取引先からの信認を損ない、既存取引の継続や新規受注にも影響がおよびかねない。行政指導や法的な罰則を待つまでもなく、市場の側ではすでに選別が始まっている。改正物流効率化法は、こうした市場の変化を行政の側から後押しする制度といえる。

中小荷主の実務対応
求められる物流の可視化

 では、荷主の経営者は、現時点でどのような物流課題に向き合う必要があるのか。改正物流効率化法への対応を考えるうえで出発点となるのは、自社の物流の実態をどこまで把握できているかという点である。

 たとえば、自社の出荷・納品現場で、トラックは何分待っているのかという問いに、数字で即答できる荷主は少ない。到着から積み込み、あるいは荷卸し開始までの時間を記録していない場合もあれば、記録があってもドライバー任せで、社内には共有されていない場合もある。こうした状況では、どの現場で、どの時間帯に、どれだけの待機が発生しているのかを把握できない。

 荷待ちは改正物流効率化法で問題視される代表的な行為であり、運送会社が荷主との取引を判断する際の重要な材料にもなる。実態を数字でつかまなければ、改善の出発点そのものが見えないのである。

 まず取り組むべきは、直近の配送実態を確認することだ。どの配送先で荷待ちが何分発生しているのか、どの業務が契約外で行われているのか、運送会社からの値上げ要請にどのように対応してきたのか。これらを数字で棚卸しすることが出発点となる。エビデンスをもたないままでは、運送会社との価格交渉も感情論に陥りやすい。数字をもって初めて、改善に向けた対等な協議が可能となる。

 一方で、実態を把握した後の改善策をシステム導入だけに委ねることにも注意が必要だ。物流DXを支援するある事業者は、「システムを入れれば効率化できる、という発想だけでは不十分だ」と話す。効率化によって生まれた利益を現場に還元する仕組みがなければ、現場の協力は得られにくい。「現場にとっては、仕事が増えるだけに見えてしまう。そうなれば、せっかく導入したシステムも運用が定着せず、形骸化する」と警鐘を鳴らす。

 同時に、現場で発生している作業の範囲を契約上どう位置づけているかも問われる。検品、ラベル貼り、荷役などは、走行に対する対価である「運賃」とは別に、「料金」として区分される業務にあたる。ところが多くの現場では、こうした作業が従来の商慣習の延長で、ドライバーに無償で委ねられてきた。

 これまで「いつものこと」として処理されてきた作業であっても、契約書に明記されていなければ、運送会社にとっては無契約・無償の負担となる。法制度と取引環境が変化するなかでは、どこまでを運送会社に依頼し、その対価をどう設定するのかを契約上明確にしておく必要がある。

 さらに、燃料費や人件費の上昇を背景に、運送会社から運賃改定の申し入れを受ける場面は今後増えていくとみられる。その際、担当者レベルで判断を保留したまま、回答が数カ月先送りされるような状態では、運送会社との信頼関係を損ないかねない。

 もちろん、申し入れられた値上げに必ず応じなければならないわけではない。しかし、合理的な理由なく協議を拒むこと、あるいは協議のテーブルにすら着かないことは、行政による働きかけや要請の対象となり得るだけでなく、運送会社から取り引き継続を見直されるきっかけにもなる。

大企業主導で進む共同配送
競争領域から協調領域へ

 共同配送や帰り便活用の可能性にも目を向けたい。こうした取り組みは、現時点では大手小売業などが主導するかたちで実装が進んでいる。九州でも、トライアル、イズミ、コスモス薬品など競合関係にある小売各社が、「九州物流研究会」などを通じて物流面で協調し、互いの配送網や帰り便を活用する動きが見られる。

 たとえば、互いの物流センターや店舗配送ルートを補完する取り組みはすでに始まっている。従来、物流は各社が個別に構築する競争領域と見なされてきたが、輸送力不足が深刻化するなかでは、競合企業であっても空きスペースや帰り便を融通し合う発想が重要になっている。

 また、トライアル側からは、業種の異なる企業同士が繁忙期の違いを生かして物流資源を融通する可能性についても言及があった。たとえば、食品小売と家具・住関連では、物流量が増える時期が異なる。食品小売は盆や年末に物流量が増える一方、家具・住関連は新生活シーズンに需要が集中しやすい。こうした繁忙期のずれを生かしてトラックや倉庫、人員を補完し合えば、物流資源を通年で効率よく活用できる。

 もっとも、こうした取り組みは現段階では一定の物量や調整力を持つ企業が中心であり、中小荷主が単独で同じ仕組みを構築するのは容易ではない。それでも、共同配送や帰り便活用は、今後の物流リスク対応において注目される取り組みである。競合と手を組んででも「荷物を安定して運べる状態」を守ることが、これからの荷主に求められる経営判断となる。

運んでもらえる荷主へ
物流を経営課題に

 物流は、事業継続を支える基盤である。運送会社に選ばれる荷主であり続けることは、単なるコスト管理の問題ではなく、企業の競争力そのものに関わる。

 24年4月からは、トラックドライバーの時間外労働の上限規制が本格適用され、1人のドライバーが1日に運べる距離や量には、これまで以上に明確な制約がかかっている。改正物流効率化法は、経営者が物流を経営課題として直視する姿勢を、法の側から後押しする制度である。

 しかし、本質は法規制への対応だけにあるのではない。運送能力が限られるなかで、荷主が市場から静かに選別されていくという現実にある。物流を外注費ではなく、事業を支える生命線として捉え直せるかどうかが、いま荷主企業の経営者に問われている。

【岩本願】

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