机上での支援から、いずれ現場へ 建設業はAIでどう変わる?(後)

AI活用の焦点は「時間を何に使うか」

安心計画㈱事業推進本部・インサイドセールス・マーケティング室主任・桐寛子氏(左)、事業推進本部長・岡原光輝氏(右)
安心計画(株)事業推進本部・インサイドセールス・マーケティング室主任・桐寛子氏(左)、事業推進本部長・岡原光輝氏(右)

 安心計画によると、「タノモシカ」を導入した工務店のなかには、商談後のメモ整理や提案準備に1~2時間程度かかっていた作業を、音声データのアップロード後、5~10分程度まで短縮した事例があるという。こうした取り組みの効果は、単なる作業時間の短縮だけではない。

 Web集客でも、写真や日時などの情報を指定すれば、ハッシュタグを含むSNS投稿文を作成できる。専任の広報担当者を置く余裕がない工務店にとって、情報発信を継続するための負担軽減につながる。また、営業人材の育成にもAIを活用する。営業音声ロープレ機能ではAIが顧客役となり、営業担当者との会話を再現。その内容を分析してフィードバックすることで、上司やベテラン社員が付きっきりで指導する負担を減らすことができる。

 住宅業界の人手不足を考えるとき、「採用を増やす」ことだけでは解決できない。限られた人材がどの業務に時間を使うのかという視点が重要になる。AIに任せられる定型作業を減らし、そこで生まれた時間を顧客との対話や提案、現場管理など、人でなければ担えない仕事へ振り向ける。そのための業務再設計こそ、工務店DXの本質といえる。

「AIを使う」から
「AIをつくる」組織へ

 一方、Lib Workでは、AIを利用するだけでなく、社員自身が業務に必要なツールをつくる段階へ進んでいる。中心となるのが、瀬口氏自身が委員長を務める「AI推進委員会」だ。外部コンサルタントの支援も受けながら、約3年前から社内のAI人材育成を進めてきた。

(株)Lib-Work-代表取締役社長・瀬口力氏
(株)Lib Work 代表取締役社長・瀬口力氏

    社員が自社業務に合わせたAIエージェントや業務支援ツールを構築できるよう、教育と実践を重ねている。その成果の一つが災害対応だ。地震発生時には、社内スタッフが約30分で災害対応専用の受付ウェブページを立ち上げ、その後住宅の被害状況や顧客からの問い合わせを一元管理する顧客管理サイトを立ち上げたという。

 瀬口氏は、「これからは、AIを使ってどのように成長するかを考える時代ではありません。AIを使わなければ、企業が生き残れない時代になります」と話す。パソコン上で行う情報の照合や確認、定型的なチェック作業などは可能な限りAIに任せ、人は顧客とのコミュニケーションや建築現場など、人間にしかできない業務へ集中する。

 安心計画が目指す「専門知識や複雑なプロンプトがなくても、現場でAIを使える環境」と、Lib Workが進める「社員自身がAIを業務に組み込める組織づくり」。それぞれのアプローチは異なるが、両社に共通するのは、AIによって定型業務や作業負担を減らし、その分、顧客対応や提案、現場業務など、人にしかできない仕事へより多くの時間を充てようとしている点だ。

地域工務店の技術をAIで支える

 住宅建築は、施主との信頼関係を基礎とする仕事である。施主自身もうまく言葉にできない希望を汲み取り、家族構成や生活スタイル、将来設計まで踏まえて住まいを提案するには、人による共感や判断、細やかな対応が欠かせない。

 瀬口氏も、AIやDXそのものを目的とは捉えていない。「地域の工務店には、家づくりに対する強い思いや優れた技術があります。それにもかかわらず、IT化やDXの遅れ、人手不足を理由に廃業へ追い込まれてしまうのは、あまりにも悔しいことです」と話す。

 地域工務店が培ってきた技術や経験を、デジタル技術によって残し、共有し、生産性向上につなげる。自社で実証した仕組みを外部へ提供し、業界全体で活用できる環境をつくるという発想は、「マイホームロボ」にも表れている。

 中小工務店におけるAI活用は、一部の先進企業が生成AIを試す段階から、日常業務のなかへ組み込む段階へ移りつつある。今後問われるのは、どの業務をAIに任せ、そこで生み出した時間をどこへ振り向けるのかであり、個々の職人や設計者、営業担当者がもつ知識を、組織や業界全体の資産として次代へつなげられるかである。

BIMとの連携で設計業務の進化へ

 さて、ここまで安心計画とLib Workによる生成AI活用による工務店支援の取り組みについて紙幅を割いてきたが、ここで改めて、建設業界全体におけるAI活用へと話を戻してみよう。生成AI活用による事務・間接業務の効率化の各種取り組みについてはすでに触れたが、こと建築設計の分野では、BIM(ビム)とAIとを連動させることが、非常に相性が良いようだ。

 本誌でも過去に何度か取り上げたことがある「BIM」(Building Information Modeling)とは、コンピュータ上の3次元の仮想空間のなかで、模型のように建物を組み上げる設計手法のことである。設計された3次元モデルは、建物を構成する材料や設備機器などのそれぞれの部材ごとに、「製品情報」「位置情報」「数量情報」「価格情報」などの個々の属性データが付加されており、それらを設計図や3次元モデルとリンクさせてデータベース化することで、設計から施工、維持管理までのあらゆる工程でこれらの情報を一元的に管理することが可能となっている。建築ビジネスの業務を飛躍的に効率化しつつ、建築デザインにイノベーションを起こす画期的なワークフローだといえよう。

 なお、BIMを土木分野において適用したものは「CIM(シム)」(Construction Information Modeling/Management)と呼ばれ、国土交通省では「BIM/CIM」として一体的な普及を推進。20年4月には「2023年までに小規模を除く全ての公共事業にBIM/CIMを原則適用する」方針を決定し、23年度からは国交省の直轄業務・工事での原則適用が始まっている。こうして現在、設計・施工・維持管理の各段階で情報をデジタルに一元管理する基盤が整備されつつある。

 このBIMのデータが、AIの学習・生成の材料として注目されている。たとえば竹中工務店では、AIとBIMが融合した新世代の構造設計システム「BRAINNX」を独自開発した。これは、これまで同社で利用してきた一貫構造計算プログラム「BRAIN」に、3つのAI機能およびBIMとの連携機能を搭載した新世代の構造設計システムで、AI機能が構造計画の試行錯誤と構造計算の単純な繰り返し業務を大幅に削減し、BIM連携機能が設計者と施工者のスムーズな意思伝達を実現するもの。構造設計者がクリエイティブな業務に注力することができ、発注者に対して付加価値の高い提案を提供することが可能となる。大林組でも、熟練技術者のノウハウを学習したAIと数理最適化を組み合わせ、鉄骨造建物の断面設計を自動で行うプログラムを開発した。さらに、スケッチや3Dモデルから複数のファサード(外観)デザインを自動生成する技術でも成果を上げている。

 これまでの設計業務は、経験の浅い技術者が試行錯誤を重ねる部分が大きく、そこが生産性向上のボトルネックとなっていた。それが、BIMとAIとの連動により、AIが過去の設計データから解を提示することで、設計者が検討・判断に集中できるようになれば、設計期間の短縮と品質の向上を同時に達成することも可能だ。BIMが蓄積するデータが増えるほど、AIの提案精度は上がる──。そのため、BIMとAIは、相互に価値を高め合う関係にあるといえるだろう。

フィジカルAIの登場で
施工現場の省人化も

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 ここまでは、生成AIの活用によって建設業界にもたらされる、机上における間接業務の効率化について触れてきた。だが、今後のAIのさらなる進化により、建設現場におけるAI活用の可能性も示唆されている。それは、画像・音声・動画・各種センサなどを統合して現実世界を理解するマルチモーダル化に加えて、その理解に基づき行動を生成し、物理的なタスクを遂行する「フィジカルAI」の登場によるものだ。あたかも、ターミネーターシリーズで"シュワちゃん"が演じるアンドロイド「T-800」のようなAIロボットが登場し、施工の現場で生身の人間に成り代わって、労働力として働いてくれるというような未来の到来が予感される。

 今年6月30日、経済産業省の赤澤亮正・経済産業大臣は閣議後記者会見で、改訂した「AIロボティクス戦略」の公表について言及した。同戦略は、AIを搭載して自律的に判断・行動するロボットの社会実装と産業競争力の強化を目指す政府の国家戦略で、少子高齢化による深刻な人手不足の解消や、新たな成長産業の育成を目的として策定されたものだ。今回の改定では、2040年のAIロボットの導入台数目標として約1,000万台を掲げるとともに、飲食・食品製造と医療を追加し、合計18分野への社会実装を強力に進めていくとしている。ここでいうAIロボットとは、これまでの「あらかじめ定義された動作を繰り返す機械」としてのロボットから、「環境を認識・判断し、行動を選択する自律的なシステム」へと進化したロボットだ。そしてこのAIロボットが社会実装されていく18分野のなかには、「建設・土木」と「建築」が含まれている。

 「建設・土木」および「建築」分野のロードマップでは、2030年までに3万台、40年までに62万台のAIロボット導入を目標としている。「建設・土木」では、30年までの「短期」で調査・測量・検査、土工、維持管理(点検)、清掃・除草・除雪を先行領域として技術開発を進め、共通データ形式や評価手法の標準化を図る。そしてその後の「中長期」には、建設・土木向けのロボット基盤モデルを開発し、現場データをAIが学習しやすいかたち(AI-Ready)に整備したうえで、熟練オペレーター相当の自動操作や、複数の建設機械が協調する施工を目指していくとしている。また、「建築」では、墨出しや測定、検査、記録、水平および垂直搬送を「短期」で、多様な施工条件に適応可能な自律作業技術の確立や、多種多様な工種について、熟練技能者と同等の作業効率・品質などを実現する高度な自動作業技術、人とロボットの役割分担や連携を含めた建築現場全体の作業最適化、施工の自動化を想定したBIM活用方法の確立を「中長期」で目指していく。今後、フィジカルAIの登場および浸透により、建設業界は劇的に変わっていくだろう。

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 今後、建設業界において短期的に進んでいくのは、生成AIによる間接業務の効率化である。見積書の作成、日報・議事録の自動作成、図面・規格・法規の検索、施工計画書の下書きなど、いわゆる「書類仕事」の時間が劇的に削減される。とくに中小企業では、技術者が現場と書類の両方をこなし、夜間に事務作業を抱えるケースも多い。ここに生成AIが入れば、1人あたりの処理能力は確実に上がる。先の安心計画とLib Workの事例が示すように、こうした業務効率化の波は、もはや大手ゼネコンだけでなく中小工務店の日常業務にまで確実に波及しつつある。また、施工・安全管理の面では、AIカメラによる危険検知、AIによる進捗管理、画像解析による出来形検査、さらにBIMとの連携なども進んでいくだろう。

 そしてその先の中長期を見通すと、AI活用により、現場の姿まで大きく変わってくる。国交省が24年4月に策定した「i-Construction 2.0」では、2040年度までに少なくとも3割の省人化を目指している。これは「人が減る」ことを前提とした目標であり、現場のオートメーション化なしには達成できない。AIロボティクス戦略のロードマップに示された通り、30年頃までに調査・測量・検査や土工の分野でロボット導入が進み、40年には建設・土木で62万台ものAIロボットが現場に入ってくる。さらにそのためには、設計や施工の情報がデータとして整備され、AIが利用できる状態になっていることが前提となる。先に触れた住宅プランのデータベース化やBIMデータの蓄積、そして社員自身による業務ツールの開発──。こうした地道な取り組みが、現場に届くロボットとAIとを結びつける土台となる。

 そして、さらにその先にあるのは、設計から施工、維持管理までをデータでつなぐ「建設生産システムのデジタル化」だ。BIMでつくられた三次元モデルにAIが施工計画を重ね、自動化された建設機械がその計画に基づいて施工する。現場で計測したデータは即座にモデルへとフィードバックされ、維持管理の点検データまで一貫して利活用される。建設現場はまさに、現実世界で認識・判断・行動できるフィジカルAIの最前線となる。

 建設業界を取り巻くAI活用のうねりは、デジタルの次元を超えて、いずれは現実世界まで波及しようとしている。大手ゼネコンによる全社的なAI導入、BIMとAIが融合する設計現場、安心計画やLib Workが切り拓く中小工務店の業務再設計、そしてロボティクス戦略が描く未来──。今後、この変化の波に乗れるかどうかで、業界内のプレイヤーだけでなく、地域工務店に至るまで、明暗が分かれてくるだろう。

(了)

【坂田憲治/内山義之/若松大生】

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