韓国経済ウォッチ~THAADミサイル配置の行方(後)
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日韓ビジネスコンサルタント 劉明鎬(在日経歴20年)
では、THAAD(サード)ミサイルの配置が急遽議論されるようになった背景には、何があるだろうか――。
米国は、表面的には北朝鮮の脅威を上げているが、日本と韓国を米国のミサイル防御体制に組み入れ、おそらく中国とロシアを牽制したいというのが本当の狙いだろう。米日韓の同盟を強めることで、東北アジアで膨張しつつある中国に対抗しようとしているではなかろうか。
その足かせになっていた日韓の慰安婦問題が、昨年の12月28日に日韓が電撃に合意することによって解決された。その後、北朝鮮が2月7日に衛星(韓国政府では長距離弾頭ミサイル)を発射することによって、朝鮮半島で緊張が高まっているため、米国はこのチャンスを逃さず、THAADミサイル配置を実現させようとしている。それでは、THAADミサイルは、米国にはどのようなメリットがあるだろうか。
まず米国としては、韓国への武器の販売である。米軍は韓国に60年間駐屯しており、韓国軍部と米軍とは仲が良く、武器のほとんどが米国製である。一般市民はいざ知らず、軍部はどちらかというと米国寄りなので、韓国の軍部は米国の主張を受け入れやすい環境である。
次に2つ目は、米国は防衛に韓国と日本を巻き込むことによって、軍事費を韓国と日本に負担させる意味合いもある。
3つ目は、中国とロシアを牽制できることである。今回、THAADミサイルの配置に中国が猛反発しているのは、THAADミサイルの一部であるX-バンドレーダーは、中国とロシアのミサイルなどを監視できるからだ。レーダーの監視範囲は1,800kmで、北京、ウラジオストクも監視範囲に入るとのことだ。未来の戦争で一番大事なのはミサイルであるが、敵のミサイルの動向が把握できるということは、とても重要な意味を持つ。
中国は、最初は「THAADミサイルの配置に慎重を期す必要がある」と言っていたが、途中から「THAADミサイル配置に反対する」に変わり、最近は「計画を撤回してほしい」と主張するなど、表現がエスカレートしている。今まで韓国は、政治・外交では米国と足並みをそろえ、経済的には中国と緊密になっていた。そのように、韓国政府はある意味ではバランスの取れた政策を展開してきた。しかし、今回のTHAADミサイル配置の問題は、今の均衡を破ることになりそうだ。
THAADミサイルを実際に採用することになると、一部で懸念しているようなことが表面化しかねない。THAADミサイルのレーダーから収集された情報は日本にも、グアムの米軍基地にも、それからイージス艦にも伝えられる。中国とロシアからすれば、軍事的には韓国は米国と日本に味方したことになる。中国は今でも、不快感を露にしている。2015年に韓国を訪れた観光客のランキング上位は、1位は中国で599万人、2位が日本で184万人、3位が米国で77万人である。また、韓国の最大の輸出国も中国である。輸出相手国1位は中国で1,317億ドル、2位は米国で698億ドル、3位は香港で314億ドルである。このように、韓国と中国との経済関係は深くなりつつある。しかし、THAADミサイル配置を議論するようになってから、中国のマスコミの論調は韓国にとても批判的である。
これは、まず中国観光客の減少をもたらす懸念があるうえ、中国政府は非関税障壁などを使った経済制裁を発動するかもしれない。中国は過去に政治問題で、経済制裁を実施したことがある。このような懸念を反映し、中国関連の株式は値を下げている。
これまで見てきたように、THAADミサイルは韓国の経済だけでなく、政治・外交に甚大な影響をおよぼす問題であるため、じっくり議論して決める必要があるだろう。(了)
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