2024年11月21日( 木 )

種子法廃止の恐怖~国民は巨大種子企業のモルモットに?(5)

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不妊・訴訟の増加と国民の抵抗

 第1回の記事で、種子法廃止が多国籍種子企業による支配を強めると指摘した。企業支配による懸念の1つが、健康不安である。

 我が国の野菜の種子は40年ほど前まで国産100%だったが、今では90%が海外生産のF1品種(1代交配種)である。これは少子化と関係があるかもしれない。

 2007年ごろから新聞・テレビで「欧米でミツバチが大量に消えた」との報道がなされるようになった。この現象は、いずれもF1種子による栽培が行われている地域に当たる。男性の精子が70年間で4分の1に減っているのも、F1種子が雄性不稔からつくられていることに起因するとの指摘がある。

 さらに、モンサントが遺伝子組み換え(GM)種子とセット販売する農薬ラウンドアップに使われるグリホサートやネオニコチノイドが精子を減らすとの研究論文もある。普通の稲まで枯らす強力な雑草剤だが、同社はベトナム戦争で多くの奇形児をもたらした枯れ葉剤のメーカーでもある。

 世界の種子市場の66%がすでに6つの遺伝子組み換え企業(モンサント、シンジェンタ、ダウ・ケミカル、デュポン、バイエル、BASF)に占められ、我が国が輸入するF1種子はこれらの企業が生産したものである。主食であるコメも、三井化学アグロのF1品種「みつひかり」がすでに1%を占めている。同社は2012年にモンサントと提携した。

 GM食品はさらに懸念が大きい。GMトウモロコシを食べ続けたマウスが、頭より大きい腫瘍をぶら下げている写真を皆さまも見たことがあるだろう。GMコーンを餌に与えたブタの繁殖実験では、80%が妊娠しないか、疑似妊娠だったとの米国内の報告もある。

 このような状況では、健康は消費者の自助努力で獲得するしかないが、食品表示ルールが、ほぼ「ざる状態」にある。GMの表示義務は主な原材料に占める割合の上位3位まで、かつ5%以上に限られる。これは欧州の0.9%と比べて著しく緩い。しかも、GM大豆が使われていることが多い食用油やしょうゆは、表示義務がない。消費者庁が3月に出した遺伝子組み換え表示に関する報告は、「遺伝子組み換えでない」との表示を事実上認めない内容になっている。

 訴訟で農家が追い込まれる懸念もある。モンサントは未契約の農家でGM種や交雑種を見付けると、無断で栽培したとして農家に損害賠償を求める訴訟を展開している。モンサントポリスと呼ばれる探偵が、監視して回るだけでなく、農家間の密告も奨励している。同社は損害賠償ビジネスを強化するため、年間1,000万ドル・人員75人の訴訟部門を設置している。

 我が国で主食のコメにGM品種が使われていないのと同様、今のところ米国でもGM種は飼料用にとどまっている。しかし、全米小麦生産者協会は最初の食用GM小麦を日本人に食べてもらおうと、2016年3月に記者会見している。毎度の対日要求と同様、人を食った話ではないか。

 しかし、希望が閉ざされたわけではない。国連食糧農業機関(FAO)は「食糧・農業植物遺伝資源条約」をつくり、農業における生物多様性保全の重要性を訴えている。そこには、種子に対する農民の権利も含まれている。日本は2013年10月、この条約を批准している。

 スイスは2017年9月、国民投票で食料安全保障の憲法への明記を決めた。今、韓国で同様の動きが見られる。山田氏は「食糧安全保障法案の制定」を掲げ、「種子法廃止違憲訴訟」を準備する。

 2018年2月、新潟県で種子法に代わる種子条例が県議会の全会一致で可決され、兵庫・埼玉の各県が続いた。種子法に代わる公共の種子を求める意見書が千葉県野田市や神奈川県大和市、山形市、高知県南国市、長野県など全国の自治体から相次いで出されている。
 先の通常国会では、議員立法による種子法復活法案が提出され、継続審議になった。
 生殺与奪の権を握る種子の行方は、我々の態度にかかっている。

(了)

<プロフィール>
高橋 清隆(たかはし・きよたか)

1964年新潟県生まれ。金沢大学大学院経済学研究科修士課程修了。ローカル新聞記者、公益法人職員などを経て、2005年から反ジャーナリスト。『週刊金曜日』『ZAITEN』『月刊THEMIS(テーミス)』などに記事を掲載。著書に『偽装報道を見抜け!』(ナビ出版)、『亀井静香が吠える』(K&Kプレス)、『亀井静香—最後の戦いだ。』(同)、『新聞に載らなかったトンデモ投稿』(パブラボ)。YouTubeで「高橋清隆のニュース解説」を配信中。

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