【検証】「ゴーン国外脱出」~「ゴーンは日本の刑事裁判から逃げた」との論評について(前)
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情報番組「ひるおび」のMCによるコメントは日本のニュース番組のMCをお笑い芸人に託していることの欠点を示していた。お笑い芸人は事象を瞬時にウイットを利かせて伝達する能力には長けているが、複雑な法律問題や闇に隠れた不都合な隠蔽問題を慎重に公正に報道する能力はない。
MCは当然のごとく「ゴーンは日本の刑事裁判から逃げたと」発言し、その前提で、卑劣卑怯であり、その上、フランスでのゴーンが退職金などを請求するニュースのコメントで、「まだお金を欲しがっている、呆れてしまう」とコメントした。ゴーンは人並みはずれた守銭奴であるとの印象を全国ネットで放送した。ゴーンやその家族、そして親しい友人たちはこれを知ったら気分を悪くするだろう。ちょうど、今後の裁判の行方を法理論的に考えていた筆者は流石に聞くに堪えず、テレビのスイッチを切った。
刑事裁判の行方の法的検討
ゴーンが有罪の可能性を知って科刑逃れのために脱走したというのは検察が垂れ流したフェイクニュースでなければ、物事を表面的な印象でしか判断しない人間の無責任発言である。無実を主張する人でも裁判が公正に行われなければ、当然、逃げ出す。ゴーンは残酷で苛烈な人質司法の体験から、日本では公正な裁判が行われないと確信し、15億円もの保証金の没収を覚悟し、隠密行動のプロ集団を巨額の費用で依頼して国外脱出をはたした。
お笑い芸人のMCに今後の重大問題はゴーンの刑事裁判はどうなるのか、であることを理解するのは無理かもしれない。しかも身近で著名弁護士らによって、今後ゴーンの裁判は開かれないというご託宣までいただいたのだから、結果、ゴーンは刑事裁判から逃げたという結論になったのも、無理からぬものがある。
そこで、筆者は裁判官の義務は法と正義に従って裁判を遂行することであり、ゴーン事件について具体的に裁判官はどのような選択肢があるかを法(刑事訴訟法・憲法)と正義(国民の持つ何が正しいかの判断力)に従って論理的に解明し、国民の判断のための情報として提供したい。
法的な現在状況
ゴーン裁判は公訴が提起され弁護人が選任され、公判前整理手続き中であった。本来なら、この後、公判期日が指定され、公判手続きが開始される予定であった。しかし、すでに逮捕起訴時から1年2カ月も経つのに公判期日が指定されていなかった。極めて異常な状況である。これは弁護団の本件司法取引に関する証拠開示の請求に対して検察がこれを拒否し、裁判所がこれに同調して、公判期日の決定合意ができていないためであった。
すでにこれが公正な裁判とは程遠い不正裁判であることを日本のマスコミはまったく報道しないし、著名な弁護士らもこれを見て見ぬふりをした。法的素養がないMCが、ゴーン裁判がすでに不正裁判の過程にあるなど夢にも思わなかったのは仕方がない。
何が不正か。これは刑事裁判の論理的な進行過程をまったく無視した状況であるから不正そのものと断定できる。刑事裁判の開始要件は裁判の開始要件として、検察が証拠として提出する証拠が法的に適正な手続で収集されていることが必要である。不当に長く拘禁された後の自白はその証拠能力が否定されることがその一例である。
本件では国民にはまったく周知されていない仲間裏切り型の司法取引を利用して、ゴーンらの犯罪証拠が収集されたという。従って、弁護団がその証拠そのものも当然ながら、その収集過程に関する証拠一切の開示を求めることは極めて当然である。これを検察は拒否し、裁判所もこれに同調し、挙句、今春に予定されていた公判期日をさらに1年後の来春に延ばす案が打診されていたという。
この状況を知った、ゴーンが日本の裁判に公正を期待することはできないと考え、すべてを犠牲にして脱出をはかったものである。このような具体的な状況をお笑い芸人MCは知っていたのだろうか。
(つづく)
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