2024年12月22日( 日 )

太陽光・風力・水力発電 ここが変われば自然エネルギー社会になる!(2)

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環境エネルギー政策研究所 所長 飯田 哲也 氏

 純国産エネルギーで燃料代ゼロ、環境負担が少ない上に地域活性化にも役立ち、最大の課題だったコストも急落しているが、日本では自然エネルギーがなかなか普及しない。いったい何が課題なのだろうか。自然エネルギーの世界動向や地産地消の取り組み、今後の展望について、自然エネルギー政策専門家の認定NPO法人環境エネルギー政策研究所・所長・飯田哲也氏に聞いた。

環境負担は大きくない

 ――太陽光発電の環境負担や廃棄の問題はどうですか。

 飯田 太陽光発電のうち90%以上のシェアを占めるシリコン系のソーラーパネルは設置後、30~40年の耐久性があります。設備を製造するのにかかったエネルギーは1年程度で元が取れます。

 日本全体の産業廃棄物は約4億トンですが、太陽光発電設備をすべて廃棄したとしても、約80万トンほどです。太陽光発電は、リサイクルできる部分も多くあります。

 比較のために例示すると、日本で自動車は年間500万台廃車されており、そのうち約100万トン強はシュレッダーダストと呼ばれるリサイクルできない最終廃棄物が残り、慎重に配慮して最終処分することが必要です。他方、仮に30年後に太陽光パネル廃棄物が80万トン廃棄されても、その大半はリサイクルされ、リサイクルできない量はせいぜいその1割の10万トン以下でしょう。太陽光発電は、急速に拡大してきた「新しい社会現象」なので、廃棄物の問題も社会的に話題となりますし、もちろんその対処も必要です。しかし廃棄物問題という枠組みで考えれば、問題は自動車のほうが大きいと考えるべきでしょう。

送電線の空き容量問題の真実

 ――太陽光発電は高いといわれています。

 飯田 国内では、2012年に発電に必要な事業認定の権利を取得している場合は、7年後の今、発電所をつくっても初期の40円/kWhで買い取りされます。しかし、太陽光発電のコストが下がっている今、この買取価格はフェアでしょうか。

 太陽光発電のコスト低下のスピードを見極めなければなりません。太陽光の発電コストと買取料金の差額は3兆円の国民負担になります。自然エネルギーが高いといわれている理由の半分は、こうした制度設計のミスでした。経済産業省も数年前に気がついて手を打ち始めましたが、若干、時すでに遅しの感があります。

 ――自然エネルギーが広まるには、何が必要でしょうか。

 飯田 太陽光や風力などで発電した自然エネルギーを、電力を使う場所に運ぶためには、電力会社がもっている送電線につなぐ系統接続が必要です。その送電線への接続自体が、自然エネルギーの新規参入の壁になっています。

 ドイツでは、送電線の整備が必要なときには、送電線を所有している送電会社が基本的に費用を負担します。たとえば、今まで2車線だった高速道路も車が増えて3車線に増やすときには、その費用は高速道路会社が負担し、恩恵を受けるユーザー全体が薄く広く費用負担します。送電線の整備費用もユーザーすべてが薄く広く費用負担することがフェアですが、日本では原則として「原因者負担」、つまり自然エネルギー事業者の負担が重くなっています。電力も高速道路と同じように、公共政策の視点に立つことが必要です。

 最近は、送電線の整備費用の負担は、全事業者が負担する「一般負担」と、個別に負担する「特定負担」の2種類ができましたが、ほとんどの費用が「特定負担」では現状は変わりません。

 北海道の例では、ある事業者による約1,000kW・十数億円規模の水力発電所の連系申請に対して、北海道電力は200億円以上もの送電線の整備費を提示し、その事業者は断念せざるを得ませんでした。自然エネルギーの発電所をつくると送電線の容量が足りないため整備が必要だといわれていますが、本当に整備する必要があるのか、精査が必要です。また、送電線の整備費用を負担すれば、つなげるのならまだ良いのですが、「空き容量がなくつなげられない」というゼロ回答の場合もあります。

 京都大学教授の安田陽氏の調査では、東北電力の系統で実際に使用しているのは、送電線の2~3%で多くても20%程度だということです。2本ある送電線のうち1本は非常時に備えて空けておかなければならないと決まっていることを織り込んでも、余裕がかなりあることがわかりました。

 なぜ、そのような「空いているのに空いていない」ことが生じるのか。それは、電力会社の考え方として、太陽光発電や風力発電を含むすべての発電所が100%の出力で発電して送電しているという、現実にはあり得ない仮定で評価されているからなのです。しかし、太陽光発電も風力発電も、実際の発電量は時々刻々変わりますし、それは火力発電所などほかの発電でも同じです。

 20~30年前からIT技術が進歩し、欧米など海外では実際の電力潮流に合わせて送電線につなぐ方法に変わっています。今年6月頃から千葉で初めて、実際に送電される電力量を基に、系統の空き容量を東京電力が公表しました。千葉の銚子沖で東京電力が風力発電を始めるために行ったといわれています。

 1つの発電所で数億から数十億かかる送電線への接続負担金は、FITの費用負担として国民の電気料金に含まれています。しかし、そもそも整備そのものが必要ないとすれば、過大な国民負担といえます。日本の太陽光や風力などの自然エネルギーの発電コストは、今だに欧州などに比べて高いです。その一因は、こうした接続負担金などのコストが含まれていることがあります。本来なら必要ない過剰な費用と時間をかけている考え方や評価方法も、見直す必要があります。

(つづく)
【石井 ゆかり】

<プロフィール>
飯田  哲也(いいだ・てつなり)

 1959年山口県生まれ。京都大学工学部原子核工学科、東京大学大学院先端科学技術研究センター博士課程単位取得満期退学。認定NPO法人環境エネルギー政策研究所所長。日本のFITの起草者で、自然エネルギー政策では、国内外の第一人者かつ日本を代表する社会イノベータ。国内外に豊富なネットワークをもち、REN21運営委員、自然エネルギー100%プラットフォーム理事などを務め、2016年には世界風力エネルギー名誉賞を受賞。日本でも国・自治体の委員を歴任。著書として、『北欧のエネルギーデモクラシー』(新評論社)、『エネルギー政策のイノベーション』(学芸出版社)、『1億3,000万人の自然エネルギー』(講談社)、『エネルギー進化論』(ちくま新書)など多数。

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