2024年12月22日( 日 )

佐世保児相に突然引き離された親と子(1)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

長崎県・佐世保児相もう一つの「闇」

 佐世保高一同級生殺害事件に関わる精神科医の相談への不適切な対応が問題視されている佐世保こども・女性・障害者支援センターの児童相談所部門(以下、佐世保児相)。同事件と時期を平行して、佐世保児相が、ある男児の一時保護をめぐり、保護者とトラブルを起こしていることがわかった。保護者は、長崎県知事あてに我が子の解放を求める署名運動を展開。事件発生から7カ月が過ぎても児相と保護者の折り合いはつかず、解決の糸口すら見えていない状況だ。なお、佐世保児相は、守秘義務を理由に個別案件への取材には応じられないとして取材を拒否している。

友だちと遊ぶ男児を市職員が緊急保護?

sasebo_sien 発端は、今年(2014年)3月31日日曜日の昼。花見を楽しむ大人もいた自宅近所の公園で十数名の友だちと遊んでいた当時小学2年生(8歳)の男児が、佐世保市子育て応援センターの職員に連れ去られた。「弟がいない!」。母親から頼まれ、弟を公園に迎えに行っていた当時9歳の長女が泣きじゃくりながら母親に電話で危急を告げた。あわてて現場に駆けつけた母親は、一緒に遊んでいた子どもたちの話から、我が子を連れ去った女性が「児童相談所に連れて行く」と言っていたことを知る。そして同日の夕方、佐世保児相から母親の携帯に電話があった。虐待の疑いがあるため、児童相談所で保護しているというものだった。

 以下、男児の保護者の証言および保護者から提供された佐世保児相や関係機関の意見書などの関係書類、児童委員や近隣住民の証言などに基づき、この事件の問題性を報じていく。

 まず、佐世保市職員は一般市民からの通報を受けて現場に向かったとされているが、友だちと遊んでいた男児が緊急に保護され、近くの自宅に足を運ばず、児相に送致される理由がわからない。しかも、男児を受け入れた佐世保児相は、保護者である両親が呼び出されて児相に訪れる前に緊急保護による一時保護を決めていたという。一時保護とは、期間を原則2カ月間に限定して、保護者の同意を要せず児相の権限で行える保護者と子を引き離す措置である。厚生労働省のHPでは、「職権による一時保護をするに当たって、まず留意すべきは、それが非常に強力な行政権限であるという認識を踏まえて適切に運用しなければならない」としており、第一の目的を、「子どもの生命の安全を確保すること」(同)としている。当然ながら、一時保護を決定する権限は市の一部署にはない。

行われていなかった家庭の調査

 驚くべきことに、児相職員はおろか市職員も、男児の家庭を一度も調査せず、保護者への指導も行わず、最終措置と言える一時保護に至っていた。この問題を知った後、実際に男児の家を調べた児童委員は、「男児の引き出しや描いた絵なども調べたが育児放棄(ネグレクト)、虐待が行われている様子は感じられなかった」と話す。この児童委員は、「虐待に関する通報には、誤解や嫌がらせというものもあるため、家庭訪問は必要」との考えを示しており、「(児相は)権限があるのに、証拠をつかまずイメージだけ動いているのではないか」との疑問を抱いている。

 隣家に住む大家も男児の家庭の様子について一度も調査を受けたことがないという。男児の母親から保護のことを聞き、ただただ驚くほかなかった。連れ去られた男児は4人姉弟の長男で、姉1人に弟が2人。上から3人が年子で、一番下の弟が2つ歳が離れている。大家は「教育熱心なご両親で、出かける際はいつも家族みんなでした。子どもたちもみな、ちゃんとあいさつをよくしていました」と印象を語る。仮に虐待があったとすれば、他の姉弟への虐待の可能性も考えられる。しかし、現在に至るまで、市職員および児相職員は1度も男児の家に足を運んでいない。

 虐待防止とは、単に親から子どもを取り上げることだけではないはずだ。まず、虐待を疑う前に、保護者からも話を聞き、必要があれば改善指導を行うべきではなかったか。専門職による入念な調査が行われず、市職員の判断を重視したとなれば、事実上、一時保護を決定づけたのは権限を持たない佐世保市となる。「最初は、児相の言う一時保護の意味がわからず、単に預かってもらっているのだと思っていました」。そこに児相職員から、里親や養護施設への委託という厳しい提案が出された。さらに、パニックに陥った母親に追い討ちをかけるように児相職員からとんでもない言葉が発せられた。

 「お母さん、気をしっかりもってください。まだ、3人いますから」

 母親は、逆にこの一言が正気を取り戻すきっかけになったと語る。血の通っていない言葉を平然と吐く児童職員を前に、「なんとしても我が子を守らなければ」と、両親は危機感を抱いた。その日のうちから徹夜で、インターネットでの情報収集を行い始めた。そして、現在も続いている、行政(佐世保児相、佐世保市)との戦いが始まったのである。

 家庭調査の裏付けなく一時保護が行われたことは大きな問題であるが、次回は、この男児が市職員から虐待の疑いをかけられた要因について説明していく。

(つづく)
【山下 康太】

 

(2)

関連キーワード

関連記事