新型コロナの「飲み薬」が年内に特例承認~米メルクの「モルヌピラビル」
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新型コロナウイルス感染症の軽症患者向けの「飲み薬」が、国内でも年内に特例承認される見通しになっている。この「飲み薬」は、米国の大手製薬会社「メルク」が開発中の『モルヌピラビル』で、同社は日本を含む国際第III相臨床試験(治験)の中間解析によって入院リスクがほぼ半減したとして、近くFDA(米国食品医薬品局)に緊急使用許可を申請する。
同社はFDAの許可を待って、日本を含む世界各国の規制当局に承認申請書を提出する考え。厚労省は、海外で使われている国内未承認薬を通常より簡略化した手続きで承認し使用を認める特例承認制度を『モルヌピラビル』に適用する方針。
『モルヌピラビル』は、「核酸アナログ(リボヌクレオシド類似体)」と呼ばれる化合物。ヒトの細胞に侵入したコロナウイルスは、ウイルスゲノムのRNA配列を複製、翻訳しながら増殖する。この際、ウイルスゲノムのRNA配列と構造が似ている「リボヌクレオシドアナログ」をウイルスに取り込ませることで、「RNA依存性RNAポリメラーゼ」(RdRp)という酵素の働きを妨げて増殖を抑える。
メルクが発表した中間解析では、8月5日以前に第III相治験に最初に登録された軽度から中等度の患者775人のデータを評価した。参加者(被検者)は全員が、60歳以上、肥満、糖尿病、心臓病といった危険因子を最低1つはもっていた。
参加者は、『モルヌピラビル』投与群385人と偽薬投与群377人に無作為に割り付けた(参加者13人の割り付けなど不明)。『モルヌピラビル』群には1日12時間間隔で計2回、5日間投与。偽薬群も同様に偽薬を投与した。
無作為割り付け後、29日間の間に、偽薬群では53人(14.1%)が入院または死亡し、『モルヌピラビル』群は入院または死亡は28人(7.3%)で入院や死亡リスクをほぼ半減させた。とくに偽薬群では8人が死亡したのに対し、『モルヌピラビル』群では死亡者はいなかった。
また参加者の約40%はウイルスの遺伝子配列情報がわかっていたが、『モルヌピラビル』は変異株のガンマ株(ブラジル由来)、デルタ株(インド由来)、ミュー株(コロンビア由来)に一貫して有効性を示した。
『モルヌピラビル』の剤型はカプセル剤。服用後に体内で代謝されてから初めて薬効が現れる「プロドラッグ」呼ばれる薬物。
『モルヌピラビル』の作用機序は、国内で第III相治験が続く新型インフルエンザ治療薬「アビガン錠」(一般名ファビピラビル)と似ているが、「アビガン錠」で懸念された催奇形性の副作用は今のところ指摘されていない。一方、有効性と安全性のエビデンスが乏しいものの、”気軽に飲めるコロナ薬”として期待感が先行するイベルメクチンについては、米国で家畜用イベルメクチンを大量服用して治療や入院が必要になったケースが頻発。FDAは「あなたは馬ではない。牛でもない。大量使用は危険で深刻な害をもたらす恐れがある」と警告する。
国内では皮膚科医が疥癬治療などに使用しているが、コロナ治療薬としては未承認だ。
現在、北里大学病院(神奈川県相模原市)をはじめ東京警察病院(東京都中野区)、聖路加国際病院(東京都中央区)、滋賀医科大学医学部附属病院(滋賀県大津市)、岡山大学病院、広島大学病院など全国21施設で医師主導の第II相治験が進んでいる。
また胃腸薬『キャベジンコーワ』で知られる興和(愛知県名古屋市)も東京医科大学八王子医療センター(東京都八王子市)、りんくう総合医療センター(大阪府泉佐野市)など全国7施設で第III相治験(企業治験)を実施しており、11月中にも治験を終えるという。【南里 秀之】
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