【廃炉は遠き夢】トラブル続きの福島第一原発 11年目の惨状(4)
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福島自然環境研究室 千葉 茂樹
福島原発事故と甲状腺がん
2022年3月5日、福島県立医科大学主催の「東京電力福島第一原発事故に伴う県民健康調査に関する国際シンポジウム」が開催された。このなかで、福島医大の志村浩己教授は、「現時点で、甲状腺がんの発症に放射線の影響は認められていない」と語った。
2022年2月24日のロシア軍のウクライナ侵略にともない、1986年のチュルノブイリ原発事故のことも報道された。そのなかでは、原発事故後、子どもたちに甲状腺異常が多発したことが報道されていた。この甲状腺がんの多発は、1990年ごろに『NHK特集』で取り上げられ、衝撃的だったことを私は鮮明に覚えている。甲状腺は、成長ホルモンを生産するので、その原料であるヨウ素が集まりやすく、とくに、20歳ごろまでは成長ホルモンが多量に生産されるので集まりやすい。原発事故では、放射性ヨウ素(とくにヨウ素131,半減期約8日)が放出される。これが、喉にある甲状腺に集まり、構成細胞が被曝し後にガン化する。成人以降は、成長ホルモンの生産量が少なくなりガン化のリスクも低減する.
福島原発事故においては、2011年3月15日に福島市御山町の県北保険福祉事務所で、約25μSv/hのガンマ線を記録した。場所によってはさらに高線量率であったものと考えられる。この時期、ヨウ素131も飛来していたため、甲状腺がんのリスクが報道されていた。数年後、NHKの番組で、2011年当時「安定ヨウ素剤」を配布するかしないかで悩んだ田村市の保健師の話が報道された。
私の考えを書く。福島原発事故は、かつて人類が経験したことのない大事故で、未経験のことばかりである。健康被害に関しても、今後どうなるか予測できないはずである。よく「科学的知見」という言葉を聞くが、これは研究者が実験や統計データを使って導いた見解であり、データの取り方・扱い方で結果は変わる。ここで大切なのは、データをどのようにとるかである。私は子どものころ、当時の「科学的知見」や「常識」のなかで生きてきた。これには、当時は正しいとされていたが、今は間違っているものが多くある。1つ例を挙げれば、「DDT」や「BHC」で、これらは殺虫剤として広く用いられてきた。私の子どものころは、安全な殺虫剤として、ノミ退治で直接人に吹きかけたり、畳に撒いたりしていた。その後、毒性が明らかにされ、現在では例外を除き使用されていない。私の子どものころ、BHCはどの家庭にもあり、私は素手で扱っていた。これが、科学的知見であり常識で、後日、ひっくり返されることがよくある。
話は戻るが、上記の国際会議で、「原発事故の放射線は、甲状腺がんの発症に影響はない」とされた。はたして、それでよいのだろうか。私は、この話は「水俣病」と類似していると思う。現在、「水俣病」はチッソが排出したメチル水銀(神経毒)が原因と特定されている.しかし、病気が発生した当時は、メチル水銀説に対して、はぐらかすかのような学説を唱える研究者がいた。
私は、福島原発事故も水俣病などと同じで、何十年か後に結果が出ると思っている。福島原発事故では、放射性物質の大半が太平洋上に流れ出し、一部が東北・関東地方を汚染した。その量はチェルノブイリ原発事故ほどではないにしろ、放射性物質は確実に大地にある。だからこそ、調査データをしっかり残しておかなければならない。私自身は、何十年か後の再検証のために、事故直後から徒歩で調査を行っている。
(つづく)
<プロフィール>
千葉 茂樹(ちば・しげき)
福島自然環境研究室代表。1958年生まれ。岩手県一関市出身。専門は火山地質学。2011年3月の福島第1原発事故の際、福島市渡利に居住していたことから、専門外の放射性物質による汚染の研究を始め、現在も継続している。関連キーワード
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