世界進出が加速する韓国の車載電池3社(前)
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日韓ビジネスコンサルタント
劉 明鎬 氏加速するEVへのシフト
脱炭素社会の実現にむけて、EV(電気自動車)へのシフトが世界的に加速している。ヨーロッパではガソリンを使用する車の新車販売を2035年に事実上禁止する方針を打ち出している。また、「ガソリン車大国」のアメリカでも30年には新車販売の50%をEVや燃料電池車などにするとしており、米国のEVへのシフトも予想より早く進むことが予想されている。
ガソリン車の製造においては、これまで「エンジン」という技術上の参入障壁があったが、EVは車載電池を調達し、組み立てれば製造できるので、新たなビジネスチャンスを期待して異業種からの参入が多くなることが予想されている。
その結果、世界のEV市場は拡大し、車載電池の需要が爆発的に伸びているが、EVの普及スピードに電池の生産が追い付いていけるどうかわからないような状況が発生している。EVメーカーにとって、車載電池の安定的な確保は、最重要課題ではあるが、世界的にみても車載電池を量産できるメーカーは限られており、最近では韓国の車載電池メーカー3社に注目が集まっている。
現在、世界で一番大きなEV市場は中国で、世界トップシェアの車載電池メーカーも当然ながら中国のCATLだ。しかし、「三元系電池(ニッケル・マンガン・コバルトを正極に使用する電池)市場」では、韓国電池メーカー3社の世界シェアが半分以上となっている。リチウムイオン電池の昨年の輸出額は、69億9,071万ドルで、対前年比で14.4%増加した。電池の輸出はEV市場の拡大を受け、19年以降、毎年二桁の成長を続けている。
韓国では車載電池は半導体に次ぐ未来の成長産業として期待を集め、業界最大手のLGエナジーソリューション(LGエンソル)は、時価総額においてサムスン電子に次ぐ2位に付けている。
IRA法の狙いと市場への影響
22年8月16日、アメリカで成立した「インフレ抑制法」、通称IRA(Inflation Reduction Act)法は、過度なインフレを抑制すると同時に、エネルギー安全保障や気候変動対策を迅速に進めることを目的として制定された法律である。約54兆円という巨額の予算からわかるように、バイデン政権が最も力を入れている政策の1つでもある。
IRA法の狙いは、サプライチェーンの中国への依存を減らしつつ、米国のエネルギー安全保障を強化するとともに、クリーンエコノミーへの移行によって、数百万の米国内製造業の雇用を創出することだ。ところが、車載電池の場合、原材料精錬の70%以上は、中国で行われているし、とくに、負極材の重要材料である黒鉛の中国での採掘比重は、何と75%に上る。
原材料だけでなく、電池の完成品においても、世界最大の電池メーカーは中国のCATLで、世界シェアの3分の1を占めている。次世代の自動車産業のコアとなる電池のこのような状況に危機感を覚えた米国は、それを打破するため、電池用部品の50%以上が北米で製造された場合に限り補助金を出すことにしている。そのため、自動車メーカーや電池メーカーでは、北米に生産拠点を移したり、拡大したりする動きが相次いでいる。
米国市場では、25年までに建設が計画されている大型の車載電池工場が13カ所ある。そのうち、11カ所が韓国メーカー関連のプロジェクトだ。電池業界では30年には米国の電池工場の70%程を韓国の電池メーカー3社が占めるとされている。そのなかでLGエンソルの北米における生産能力は、数年内に200ギガワットに達すると予想されている。
北米に韓国企業が力を入れる理由は、今後、北米市場が電池市場で一番成長の早い市場だからだ。市場調査会社は、北米車載電池市場は21年の46ギガワットから23年には143ギガワットに、25年には286ギガワットへ成長すると予想している。年平均成長率は何と58%である。
IRA法によって、北米市場では中国企業が排除されることになったので、次なる選択肢として、韓国の電池メーカーが選ばれるようになり、今後、韓国電池メーカーの成長が期待されている。米国は半導体に次いで自動車産業においても、中国が世界的な覇権を握ることを未然に防ぐため、電池生産工場の米国建設、原材料への規制などを設けているのだ。
(つづく)
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