進む日韓関係の進展 経済安全保障でも
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国際政治学者 和田 大樹
昨年以降、日韓関係の改善、進展が急速に進んでいる。
昨年5月に就任したユン大統領は、スペイン・マドリードで開催されたNATO首脳会合で初めて岸田総理と顔を合わせ、それ以降秋のAPECなどを利用して信頼醸成に努め、3月にはユン大統領が東京を訪問して日韓首脳会談が実現し、5月には岸田総理が逆にソウルを訪問して同会談を行った。
そして、ユン大統領は5月のG7広島サミットにも招待され、そこでも日韓首脳会談が行われ、この2カ月あまりで3回目の会談となった。さらに、7月にはエストニアでNATO首脳会合が行われるが、両者ともそれに参加する予定で、そこで4回目の日韓首脳会談が行われる可能性もあろう。
岸田総理もユン大統領も、日韓関係の改善と発展を強く意識していたことは間違いない。米中対立が激しくなり、台湾情勢では緊張が高まり、ロシアはウクライナに侵攻し、北朝鮮は核ミサイルによる挑発を繰り返し、今日ほど日韓が共通の課題に直面し、互いを必要としているときはない。米国のバイデン政権も最近の日韓関係の改善と発展を強く歓迎しており、中国や北朝鮮を念頭に、日米韓3カ国の結束を強く固めたいはずだ。
しかし、筆者はこれまでの日韓関係と違い、岸田総理とユン大統領にとって進められる今日の日韓関係では経済安全保障分野が極めて重要であると考える。
日韓関係というと、島の領有権問題、歴史認識、徴用工などの争点、もしくはドラマや映画などの文化に焦点が集まるが、今後は経済安全保障分野での日韓の協力がいっそう求められる。たとえば、今日、米中の間では半導体覇権競争が激化し、バイデン政権は昨年10月、先端半導体技術が中国によって軍事転用される恐れを警戒し、半導体関連製品の対中輸出規制を発表した。
そして、半導体製造装置で高い世界シェアを有する日本やオランダにも協力を求め、日本も3月末、先端半導体に必要な製造装置など23品目で対中輸出規制を敷くことを発表した。中国は日本に対して同規制を止めるよう強く求めており、日中経済にも不穏な空気が漂い始めている。
また、世界の半導体産業をリードする台湾をめぐって軍事的緊張が高まるなか、台湾のTSMCは熊本に半導体製造工場の建設を進め、ソニーやトヨタなど日本を代表する企業の出資によって創設された新会社ラピダスが北海道千歳市に先端半導体工場の建設を決定するなど、強じんな半導体サプライチェーンの構築が進められている。
そして、同様の動きは韓国企業からも見られる。たとえば、韓国のサムソン電子は300億円あまりを投資し、横浜に先端半導体の開発拠点をつくる計画を明らかにした。今年中には建設を開始し、2025年の稼働を目指しているというが、国際政治が大国間競争という時代に回帰し、経済のデカップリングやデリスキングなどをめぐる動きが激しくなる今日においては、ある国が同盟国や友好国など近い関係にある国と限定したサプライチェーンを構築するフレンドショアリングの重要性が飛躍的に増している。
まさに今、日韓の間でフレンドショアリングを広げていくことが戦略的に求められているのだ。それが岸田ユン時代の日韓関係のキーポイントになっていくだろう。
<プロフィール>
和田 大樹(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
▼詳しい研究プロフィールはこちら
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