2024年12月22日( 日 )

【鮫島タイムス別館(17)】内閣改造で「外された2人」 林芳正と木原誠二の処遇の差に浮かぶ岸田政権の本質

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 内閣改造・自民党役員人事は代わり映えのしない内容に終わった。内閣支持率は横ばいで、政権浮揚効果はほとんどなかった。

 岸田文雄首相は来秋の自民党総裁選に向けてライバルの茂木敏充幹事長を交代させ干し上げるつもりだったが、茂木氏の後ろ盾である麻生太郎副総裁に土壇場で押し返されて断念した。

 人事は玉突きである。この結果、麻生副総裁や茂木幹事長だけではなく萩生田政調会長も留任し、閣内では鈴木俊一財務相、西村康稔経済産業相、松野博一官房長官ら6閣僚が留任。安倍派の後継会長を狙う5人衆は全員留任という留任ドミノが起きた。

 岸田首相は過去最多タイの5人の女性閣僚を起用し、自民党選挙対策委員長に小渕優子氏を起用して「女性活用」を演出したが、小渕氏のほか、加藤鮎子こども政策担当ら初入閣組3人はいずれも世襲議員という白けぶり。さらに副大臣26人と政務官28人は全員男性という間抜けた人事が続き、「女性登用」はパフォーマンスでしかないことをさらけ出したのである。

 刷新感を欠くなかで私が注目したのは「内閣から外された2人」の処遇である。この2人を比較することで、岸田政権の本質が浮かび上がってくる。

 1人目は、首相最側近で岸田派ホープの木原誠二官房副長官だ。妻が元夫の怪死事件の重要参考人として事情聴取されながら木原氏の妻であるという理由で捜査が不自然に打ち切られたことを週刊文春が特報した後、木原氏は取材陣から逃げまくり、世論の批判は過熱した。

 岸田首相は木原氏を留任させる方針だったが、木原氏自身が固辞し、退任が決まった。官房副長官として矢面に立ち続ければ次の衆院選で落選の恐れがあると判断したのだろう。だが、表舞台から姿を消すわけではなかった。自民党の幹事長代理と政調会長特別補佐を兼務するという異例の厚遇で、首相最側近として政権中枢にとどまることになったのだ。

 この人事は、岸田首相がライバルの茂木幹事長と萩生田政調会長の足元に木原氏を見張り役としてねじ込んだと分析されている。その側面もあろうが、私はもっと重大な理由が潜んでいるとみている。

 内閣支持率が低迷し、党内基盤も脆弱な岸田政権の最大の後ろ盾は、米国のバイデン政権だ。岸田首相はバイデン政権にいわれるまま、ウクライナ支援に1兆円を投じ、防衛力の抜本強化を掲げて防衛費を大幅増額し、敵基地攻撃能力を保有する巡航ミサイルを米国から大量購入し、対中包囲網を強めるため韓国との関係改善に踏み切った。バイデン政権にとってこれほど都合の良い政権はない。その岸田首相とバイデン政権をつなぐ日本側の窓口役を担ってきたのが、木原氏なのだ。

 木原氏は疑惑発覚後に記者団の取材を拒否し、首相外遊の同行もとりやめて雲隠れしていたが、8月に米国キャンプデービッドで行われた日米韓首脳会談にだけは同行した。木原氏なしには岸田―バイデン関係は成り立たない。

 日米関係筋によると、木原氏はエマニュエル駐日大使らと頻繁に接触し、岸田政権の内情を報告してきた。今回の内閣改造でも官房副長官の退任が決まっていたにもかかわらず、岸田首相と2人で徹夜で閣僚名簿を作成し米国側に伝えていたという。内閣改造人事にバイデン政権の意向が反映されたことを示唆する事実といえるだろう。

 岸田首相が、官房副長官から退任した木原氏に自民党の要職を用意したのは、木原氏の政権内の地位を保全し、発言力が落ちないように守る必要があったからだ。

 木原氏と対照的なのは、外相を退任させられた岸田派ナンバー2の林芳正氏である。

 林氏は日中友好議員連盟会長も務めた親中派として知られ、ポスト岸田の有力候補でもある。ハト派の歴史を持つ宏池会(岸田派)で若くから岸田首相よりも将来の首相候補として期待されてきた。外相就任後も米国一辺倒の岸田首相とは温度差があった。バイデン政権はこの林外相の存在が煙たかったようだ。 

 岸田首相は林氏には党要職を用意せず、岸田派に戻って派閥をまとめる留守居役を命じたのだった。

 後継の外相に起用された上川陽子氏も岸田派だ。米国上院議員の政策立案スタッフを務めたことのある親米派で、法相などを歴任したが、政治基盤はほとんどなく岸田首相の言いなりだろう。

 岸田首相は内閣改造後の記者会見で「外交は外相や防衛相ら閣僚も大きな役割をはたすが、首脳外交が大変大きなウエートを占める。私自身、首脳外交で大きな役割をこれからもはたしていく」と強調した。ポスト岸田候補の林氏を閣外に放逐して軽量級の上川氏を後継に据え、外交全般を自ら仕切る宣言といっていい。岸田首相による「外交独占」は、バイデン政権にも好都合だ。

 内閣支持率が低迷しても、自民党内で人事への不満が充満しても、岸田首相が政権継続に自信をみせるのは、バイデン政権の全面支持を得ているからである。裏を返せば、バイデン政権が倒れれば、岸田政権も失速するだろう。

 来年は9月に自民党総裁選、11月に米大統領戦がある日米同時政局の年。バイデン大統領は高齢不安が指摘され、トランプ前大統領との一騎打ちは大激戦になるとみられている。岸田政権の命運はバイデン大統領次第といえるだろう。

【ジャーナリスト/鮫島 浩】


<プロフィール>
鮫島 浩
(さめじま・ひろし)
ジャーナリスト/鮫島 浩ジャーナリスト、『SAMEJIMA TIMES』主宰。香川県立高松高校を経て1994年、京都大学法学部を卒業。朝日新聞に入社。政治記者として菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野馨、町村信孝ら幅広い政治家を担当。2010年に39歳の若さで政治部デスクに異例の抜擢。12年に特別報道部デスクへ。数多くの調査報道を指揮し「手抜き除染」報道で新聞協会賞受賞。14年に福島原発事故「吉田調書報道」を担当して“失脚”。テレビ朝日、AbemaTV、ABCラジオなど出演多数。21年5月31日、49歳で新聞社を退社し独立。
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