2024年11月21日( 木 )

【鮫島タイムス別館(19)】岸田政権立て直しには年明け冒頭解散しかないが…

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 岸田文雄首相が起死回生の人気回復策として打ち上げた所得税減税は不発に終わり、内閣支持率は21.3%(時事通信11月世論調査)まで落ち込んだ。首相は年内解散を見送る方針を表明し、自民党内では「このまま来年秋の自民党総裁選まで解散に踏み切れず、総裁選不出馬に追い込まれる」との見方が広がっている。岸田政権はレームダック化し、解散どころかいつ倒れてもおかしくはない。次の衆院選は新しい首相のもとで行われる可能性が高まっている。

 ポスト岸田を狙う自民党の面々は政権末期の匂いに敏感だ。菅義偉前首相はインバウンド推進を狙って「ライドシェア解禁」や「江戸城再建」といった目玉政策を打ち上げ始めた。菅氏が前回総裁選で担いだ河野太郎デジタル担当相もライドシェアの旗を振る。菅氏を親分、河野氏を兄貴分と仰ぐ小泉進次郎元環境相は超党派のライドシェア勉強会を旗揚げした。

 菅氏は二階俊博元幹事長や森山裕総務会長に加え、冷飯暮らしが続く石破茂元幹事長とも連携し、岸田首相-麻生太郎副総裁-茂木敏充幹事長の主流派との総裁選に備え、ライドシェアをはじめとする「規制緩和」を旗印に掲げる戦略だ。

 任期満了にともなう来年秋の総裁選は、国会議員票と党員票が同じ重み持つ。世論調査で「次の首相」トップ3を独占する石破、河野、小泉3氏を手駒に用意しておけば、岸田首相が相手でも、岸田首相が投げ出して茂木氏が後継に名乗りを上げても十分に対抗できるという算段だ。

 麻生氏は、岸田首相では菅氏ら反主流派との総裁選に勝ち切れないと危機感を強めている。ポスト岸田の有力候補として上川陽子外相の名を触れ回っているが、これはダミーで、本命は茂木氏だ。内閣支持率が回復しなければ、来年春の予算成立後に首相を電撃辞任させ、茂木氏を担いで臨時総裁選に挑むシナリオも浮上。臨時総裁選には党員は参加せず、国会議員票と都道府県連票だけで決着がつくため、国民人気が高くない茂木氏でも十分に勝てるという読みである。

 麻生氏は小泉政権時代に規制緩和を主導した竹中平蔵経済財政担当相と激しく対立した。このとき、民間出身の竹中氏を国会議員としてサポートしたのが菅氏だ。双方の対立は安倍政権に持ち込まれ、ナンバー2を争う菅官房長官と麻生副総理兼財務相の暗闘は熾烈を極めた。規制緩和派の菅氏が麻生氏を押し切って加計学園の獣医学部新設を進めたことに反発する政権内部から「総理のご意向」と記された内部文書がリークされたのは周知の通り。菅氏が総裁選を視野に仕掛けたライドシェア論争は、20年にわたる麻生氏との規制緩和闘争の最終決戦といっていい。

 安倍支持層をはじめ右派に人気の高市早苗経済安保担当相も総裁選に向けて始動した。推薦人20人の確保を目指して勉強会「『日本のチカラ』研究会」を旗揚げし、初回は13人が出席。現職閣僚が総裁選出馬への動きを露骨にみせるのは異例で、岸田内閣の求心力低下を映し出す事象である。

 高市氏は前回総裁選に無派閥ながら安倍晋三元首相に担がれ、安倍支持層に熱狂的に支持されたが、安倍氏が急逝した後は党内で孤立感を深めている。最大派閥・安倍派には高市氏擁立へのしこりが残る。後継会長を争う5人衆(萩生田光一政調会長、西村康稔経産相、松野博一官房長官、世耕弘成参院幹事長、高木毅国対委員長)にとって高市氏は目障りな存在だ。

 他方、9月の内閣改造・党役員人事で5人衆が要職に留任する一方、中堅・若手にはポストが回らず、「最大派閥にいても意味がない」との不満が募っている。高市氏の勉強会には安倍派から山田宏、堀井学、杉田水脈の3氏が参加。安倍派が総裁候補を絞り込めず、一部が高市支持に回って分裂し、高市派が結成されるという展開も十分にあり得る。総裁選で第三極としてキャスティングボードを握れば、主流派と反主流派のどちらが勝っても要職にとどまり、発言力を維持できるという読みだろう。

 安倍支持層に人気が高い作家の百田尚樹氏や名古屋市長・河村たかし氏が日本保守党を旗揚げしたことは、高市氏にとって追い風だ。百田氏らが各地で行う街頭演説には大勢の聴衆が集まり、次の衆院選で自民や維新の票を切り崩す可能性が指摘されている。日本保守党の支持層には高市氏入党を期待する声も強い。

 菅氏は日本維新の会にテコ入れして自民党を外から揺さぶり主導権を確保してきた。麻生氏はこれに対抗し、立憲民主党や国民民主党に大きな影響力を持つ連合に接近して連携強化を進めている。高市氏は日本保守党との連携をちらつかせながら自民党内での立ち位置をキープしていくことになろう。

 ポスト岸田レースの号砲が鳴り、岸田政権内部は収拾がつかなくなってきた。政権延命へ体制を立て直すには年明け解散を断行するほかないが、その体力が残っているようには見えない。次の焦点は岸田首相がいつ退陣するかだ。私は来年春の予算成立後の可能性が高いとみている。臨時の総裁選を経て新内閣が発足すれば、ただちに解散総選挙だろう。

【ジャーナリスト/鮫島 浩】


<プロフィール>
鮫島 浩
(さめじま・ひろし)
ジャーナリスト/鮫島 浩ジャーナリスト、『SAMEJIMA TIMES』主宰。香川県立高松高校を経て1994年、京都大学法学部を卒業。朝日新聞に入社。政治記者として菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野馨、町村信孝ら幅広い政治家を担当。2010年に39歳の若さで政治部デスクに異例の抜擢。12年に特別報道部デスクへ。数多くの調査報道を指揮し「手抜き除染」報道で新聞協会賞受賞。14年に福島原発事故「吉田調書報道」を担当して“失脚”。テレビ朝日、AbemaTV、ABCラジオなど出演多数。21年5月31日、49歳で新聞社を退社し独立。
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