【鮫島タイムス別館(20)】政治の浄化のため、野党は身を切る覚悟を
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裏金をめぐる議員の立件へのハードル
政治資金パーティーの売り上げノルマ超過分を収支報告書に記載しないでキックバックしていた自民党安倍派の裏金事件は、東京地検特捜部が政治家をどれだけ逮捕できるかどうかに大きな関心が集まっている。
安倍晋三元首相が急逝した後の集団指導体制を主導してきた5人衆(松野博一官房長官、西村康稔経産相、萩生田光一政調会長、世耕弘成参院幹事長、高木毅国対委員長)がいずれも裏金を受け取っていたとして更迭されたことから、大物政治家が相次いで逮捕される大疑獄事件に発展するとの予想もある。
一方で、政治資金規正法は抜け穴だらけのザル法とされ、安倍派の会計責任者である派閥職員は立件できても、政治家を立件するハードルは極めて高いという見方も専門家には強い。
とりわけ、裏金を受け取った派閥所属議員たちを立件するのは法律上の大きな壁がある。そのカラクリを説明しよう。
政治資金規正法は、政治家個人への寄付を禁じている。このため、企業や団体などは、国会議員が成立した資金管理団体や、国会議員が代表を務める政党支部に寄付している。これら資金管理団体や政党支部の会計責任者を務めるのは、秘書や党職員だ。彼らがお金の出入りを収支報告書に記載して提出し、それが一般に公開され、国民のチェックを受けるという仕組みである。
収支報告書に記載しないか、虚偽を記載した場合、真っ先に立件されるのは会計責任者の秘書や党職員だ。今回の裏金事件では、安倍派の事務職員ということになる。
事務職員が独断で違法行為を判断することは考えにくい。派閥運営の責任者である事務総長の了解を得るのが普通だ。
安倍派の場合、この事務総長の職に就いていたのが、5人衆のメンバーである松野、西村、高木の3氏だった。3氏が事務職員に不記載を指示したり、詳細な報告を受けて了承したりしていたら、立件の可能性が高まる。この3氏は、他の派閥所属議員よりも「逮捕」の可能性が高いといえるだろう。
とはいえ、「指示」や「了承」を示す明白な物証がない場合、立件は難航する。当人が認めない限り「逮捕」に踏み切るのは簡単ではない。そもそも政治資金規正法が秘書ら会計責任者の罪は問いやすくても、政治家の罪は問いにくいようにできているのだ。
野党は「政策活動費」という裏金システムの見直しを訴えるべき
裏金を受け取った議員たちの立件はさらに難しい。なぜなら「政策活動費」という強力な逃げ口上があるからだ。
政治家個人が他者から寄付を受け取ることは禁止されているが、政治資金規正法には抜け道が用意されている。政党が政治家個人に「政策活動費」の名目で寄付することが特別に認められているのである。しかも政治家個人は「政策活動費」の使途を公開する義務はない。要するに「政策活動費」は「政治家が領収書不要で自由に使える裏金」といってよい。これは政治家にだけ認められた合法的な裏金づくりシステムなのだ。
与野党はこの「政策活動費」をフル活用している。2021年の各党収支報告書によると、自民党は17億2,800万円、国民民主党は8,200万円、立憲民主党は5,000万円、維新は5,900万円を計上している。受け取り手は幹事長ら党幹部がほとんどだ。自民党の二階俊博元幹事長は在任5年間に総額50億円近くを手にしていた。
収支報告書で公開されるのは、ここまで。この先、幹事長ら党幹部が政策活動費をどのように使ったかは完全なブラックボックスだ。多くは党幹部や各派閥幹部をはじめ党所属議員に配ったとみられるが、受け取った者たちは領収書なしで自由に使える「裏金」を手にしたといっていい。まさに政党を介在させた「マネーロンダリング」が法律上認められているのである。
裏金を受け取っていた安倍派の議員や秘書たちは特捜部の調べに対し、「派閥から『このお金は、安倍派幹部が自民党から受け取った政策活動費を、派閥所属議員に配布したものであるから、収支報告書に記載しなくていい』と説明されていた」と供述し、違法性の認識はなかったと主張しているという。
もちろんこれはウソだ。実際はパーティー券売り上げノルマの超過分を派閥からキックバックしてもらい、収支報告書に記載せずに裏金化していたのだが、それでは違法行為になるので、合法的な裏金である「政策活動費」だと聞かされていたということにして、立件を免れようとしているのである。
この主張を覆して逮捕に踏み切れるのかどうかが特捜部の腕の見せ所だが、政治資金規正法が(1)政党から政治家個人への寄付は特別に認められている、(2)政治家個人は政党から受け取った政策活動費の使途について報告する義務がない──というザル法であることが、裏金を受け取った政治家の立件を非常に難しくしているのだ。
今回の裏金事件を受けて、信頼回復のための政治資金規正法の改正は待ったなしだが、「政策活動費」という裏金システムを根底から見直し、すべての政治資金の使途について領収書を添付して公開を義務づける抜本改革を主張する声は政界からはあがってこない。なぜなら、野党も自民党ほどではないにせよ、政策活動費に依存してきたからだ。
これでは政治の浄化は進まない。野党は身を切る覚悟で率先して政策活動費の闇をさらけ出し、すべてを透明化すると宣言してはどうか。それを一大争点として来年に予想される解散・総選挙に挑めば、政権交代の機運は一気に高まるだろう。
自民党の敵失により、野党に突風が吹いている。このチャンスを逃すようでは二度と政権交代の好機は訪れないと思うのだが・・・。
【ジャーナリスト/鮫島 浩】
<プロフィール>
鮫島 浩(さめじま・ひろし)
ジャーナリスト、『SAMEJIMA TIMES』主宰。香川県立高松高校を経て1994年、京都大学法学部を卒業。朝日新聞に入社。政治記者として菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野馨、町村信孝ら幅広い政治家を担当。2010年に39歳の若さで政治部デスクに異例の抜擢。12年に特別報道部デスクへ。数多くの調査報道を指揮し「手抜き除染」報道で新聞協会賞受賞。14年に福島原発事故「吉田調書報道」を担当して“失脚”。テレビ朝日、AbemaTV、ABCラジオなど出演多数。21年5月31日、49歳で新聞社を退社し独立。
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