2024年12月22日( 日 )

【鮫島タイムス別館(21)】「泉房穂コール」は沸き上がるか?「救民内閣構想」の可能性と課題

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 自民党が裏金事件で壊滅的打撃を受けているのに、野党は不甲斐なくて政権交代の機運が高まらない。そこで期待を集めているのが、兵庫県明石市を「日本一の子ども支援」の街に生まれ変わらせた泉房穂・前市長だ。

 泉氏は昨年春に市長を退任した後、「明石でできたことはどこででもできる」と訴え、各地の市長選で自公候補に挑む無所属新人を支援し、連戦連勝して存在感を増した。さらに国政への関与にも意欲を示し、政権交代の実現を掲げて「救民内閣構想」を打ち上げた。以下の「7つのステップ」を経て、国政を「上級国民」から「庶民・大衆」のものへ大転換させるシナリオである。

 私は泉氏が市長を退任したのに合わせて共著『政治はケンカだ!〜明石市長の12年』(講談社)を上梓し、泉氏と意見交換を重ねてきた。その立場から「救民内閣構想」の可能性と課題をまとめてみよう。まずは「7つのステップ」を紹介していく。

 (1)世論喚起…裏金事件で自民党への不信は高まり、政権交代の好機だ。世論をさらに喚起していく。

 (2)大同団結…政権交代の成否は、野党各党が「救民内閣」の大義のもとに組めるか否かにかかっている。立憲、維新、国民に加え、れいわや共産、さらには参政党や日本保守党、前原新党も連携したらいい。自民の一部や公明も加えていい。

 (3)候補者調整…各党は比例復活を狙って小選挙区に「かかし」として候補を立て潰しあっている。これを解消するには「予備選の実施」と「比例重複の禁止」が効果的だ。

 (4)政権交代…過去の政権交代は1993年と2009年に起きた。93年は中選挙区制のもとで新党が乱立して自民党が下野し「多党連立政権」が誕生。09年は小選挙区制のもとで民主党が自民党に圧勝した二大政党型の政権交代だった。今回は93年型になろう。

 (5)方針転換…新政権の方針に従わない閣僚や官僚は次々に更迭する。必要な財源は躊躇なく国債発行で調達すればよい。

 (6)国会での可決…新政権の予算や法案が国会の反対で実現しない場合は、小泉政権の「郵政解散」にならって解散総選挙を断行し、国民の信を問う。

 (7)令和の大改革…都道府県を廃止して300くらいの圏域に再編する「廃県置圏」を断行。首相公選制も導入する。

 以上が泉氏の「救民内閣構想」の骨格である。最大の課題は、第一段階の政権交代((1)〜(4)のステップ)を本当に実現できるのかということだ。

 裏金事件を受けた自民党批判で野党各党は一致するが、「(2)大同団結」や「(3)候補者調整」がトントン拍子に進んで「(4)政権交代」に至る道筋はまったく見えない。どの党も「政権交代」より「自党の議席最大化」を最優先にしているのが現状だ。

 最大の難問は「圧倒的な首相候補」が存在しないことである。立憲の泉健太代表も維新の馬場伸幸代表も世論調査の「次の首相」にほとんど登場しない。これでは「大同団結」も「候補者調整」も進まず、「政権交代」のリアリズムは高まらない。

 自公が過半数を割ったところで、野党の一角が切り崩されて連立の組み替えが行われ、自民党は政権中枢にとどまるようでは「救民内閣」は誕生しない。仮に自公政権に代わる「多党連立政権」が誕生しても、強力な首相が不在なら、たちまち内紛で瓦解してしまうだろう。

 やはり「この人を首相に」という具体的なリーダーが不在では、各党が利害を超えて候補者を一本化することも、政権を維持していくことも困難である。「この人を敵に回せば、自分の当選が危うくなる」という状況に追い込まれて、政治家は初めて「大同団結」や「候補者調整」に応じるのだ。

 このことは、新政権発足後に官僚を従わせるための「人事」にも、国会議員を従わせるための「解散」にもあてはまる。首相が国民から圧倒的な支持を得て、初めて官僚も国会議員も「方針転換」を受け入れるのだ。

 泉房穂氏も「圧倒的な首相候補」の出現が「救民内閣構想」に不可欠であることを自覚しているに違いない。今それを掲げれば「自分が首相候補に担がれることを狙っている」と反発され、構想そのものが敬遠されることを恐れ、核心部分を伏せているのだろう。

 泉氏は世論から「泉コール」が沸き上がれば「首相候補」を引き受けるつもりだと私はみている。その場合、地元の政敵で安倍派裏金事件の渦中にいる西村康稔前経産相を落選させるため、衆院兵庫9区(明石と淡路島)から出馬し、政権交代への世論を喚起させるのではないか。

 逆に「泉コール」が沸き上がらない場合は、裏方としてのサポートに徹するだろう。別の政治家の「コール」が沸き上がれば、そのもとに大同団結することを強く訴えるに違いない。

 誰のコールが沸き上がるかは誰にもわからない。「次の首相」に名が挙がるれいわの山本太郎代表かもしれないし、久々に記者会見に登場した田中真紀子元外相かもしれないし、これから急浮上する未知の人物かもしれない。誰にせよ、コールが沸き上がったらその機会を逃さず大同団結する──というリアリズムが泉氏にはある。

 そのコールが全国の津々浦々まで広がれば、党利党略に明け暮れる野党各党も付き従うしかない。「救民内閣構想」の核心は「(1)世論喚起」にある。

【ジャーナリスト/鮫島 浩】


<プロフィール>
鮫島 浩
(さめじま・ひろし)
ジャーナリスト/鮫島 浩ジャーナリスト、『SAMEJIMA TIMES』主宰。香川県立高松高校を経て1994年、京都大学法学部を卒業。朝日新聞に入社。政治記者として菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野馨、町村信孝ら幅広い政治家を担当。2010年に39歳の若さで政治部デスクに異例の抜擢。12年に特別報道部デスクへ。数多くの調査報道を指揮し「手抜き除染」報道で新聞協会賞受賞。14年に福島原発事故「吉田調書報道」を担当して“失脚”。テレビ朝日、AbemaTV、ABCラジオなど出演多数。21年5月31日、49歳で新聞社を退社し独立。
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