静かに、台湾総統選挙を考える
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2024年も寿ぐというのとはほど遠い年明けとなった。
元日夕刻近く北陸・能登地方を襲った大震災、羽田空港での航空機衝突事故、衝撃の新年の幕開けとなった。
外に目を向けると、戦火の終息、和平への道の見えないウクライナ、まさに「ジェノサイド」というべき惨状が続くパレスチナ・ガザ、世界が課せられた命題は重く、この時代を生きる我々1人ひとりが厳しく問われる重苦しい年初となっている。
史上まれにみる「選挙イヤー」と言われる今年、1月13日の台湾総統選挙でその幕が開いた。
「米国は、台湾総統選挙における頼清徳氏の勝利を祝福する。また、台湾の強固な民主制度と選挙プロセスの強さを改めて示した台湾の人々に祝意を表します」
民進党の頼清徳氏の当選が伝えられて時を置かず、米国東部時間13日午前10時48分発でブリンケン国務長官の「声明」がメールで届いた。
「米国は両岸の平和と安定を維持し、強制や圧力から解放された平和的な解決に尽力している。民主主義の価値観に根ざした米国民と台湾の人々とのパートナーシップは、経済、文化、そして人と人とのつながりを越えて、広がり、深まり続けている。我々は、台湾。関係法、3つの共同声明、および6つの保証によって導かれる米国の『1つの中国』政策に基づき、共通の利益と価値観を推進し、長年にわたる非公式な関係をさらに発展させるために、頼博士および台湾の各党指導者と協力することを楽しみにしている。我々は、台湾が自由、民主主義、繁栄を目指すすべての人々の模範となり続けることを確信している」と結ぶ。
短いが米国の立ち位置を集約した重要な国務長官声明である。
中国は即座に外務省報道官談話を発して「強い不満と断固たる反対」を表明、「すでに米側に厳正な申し入れを行った」とした。米国務省がこの声明を発表したことは。 「『一つの中国』原則および中米間の3つの共同コミュニケヘの重大な違反であり、台湾地区と文化・ビジネスその他非政府間関係のみを維持するとの自らの政治的約束に深刻に背き、『台湾独立』分裂勢力に深刻な誤ったシグナルを発するものだ」と指摘したうえで、「台湾問題は中国の核心的利益のなかの核心であり、中米関係において越えてはならない最大のレッドラインだ。『一つの中国』原則は国際関係の基本準則、国際社会の一致した共通認識であり、中米関係の政治的な基礎でもある。中国は一貫して、米国と台湾地区のいかなるかたちの公的な交流にも断固として反対し、米国がいかなる手段、いかなる口実で台湾地区のことに干渉することにも断固として反対している。我々は米側に対して、『一つの中国』原則および中米間の3つの共同コミュニケをしっかりと厳守し、『台湾独立』を支持せず、『二つの中国』または『一つの中国、一つの台湾』を支持せず、台湾問題を中国封じ込めの道具にしようとしないといった約束を確実に実行し、台湾地区との公的な交流を止め、『台湾独立』分裂勢力にいかなる誤ったシグナルも発しないよう促す」と説いている。
なぜ、米中の公式の言説を詳細に引いたかといえば、台湾問題における原則の在りかを過不足なく認識することが、今後の台湾をめぐる情勢を考えるうえで欠かせないからである。言葉を変えれば、今後の台湾をめぐる情勢は、釆国の動向いかんというべきだからである。
「ニューヨークタイムズ」は国務長官声明に先立ってBreaking Newsとして頼氏の勝利を「ln a setback for Beijing」という見出しで伝えた。日本のメディアも、今回の台湾総統選挙は中国にとって 「痛手」となった、今後 「陰に陽に」中国の「圧力」が強まる、ゆえに警戒が必要だといった論調が大方を占める。それ以上に、「台湾総統選の有権者にほぼ共通するのは 『習近平の中国による台湾への武力侵攻があり得る』という危機意識だ。それは誰を支持するかには関係ない。-中略- (頼清徳の総統任期の)4年間、台湾海峡の平和と安定を保つには、危機意識を共有する台湾与野党の真摯な協力こそが重要になる」とまで説く新聞メディアの記者もいる。だがしかし、ここは、静かに、考えてみなければならない。
論点は数多くあるが、そのうちの1つ。各候補の得票率、民進党頼清徳40.05%、国民党侯友宜33.49%、民衆党柯文哲26.46%をじっと眺めていると、今回の頼氏の勝利には、昨秋俎上に上った野党候補の一本化「藍(国民党)白(民衆党)合作」の未達が重要な要因となったことが見えてくる。もちろん単純な加算式で物事が決まるなどとは考えない。2004年総統選挙において、前回2000年選挙で2位となった宋楚瑜氏と3位の連戦氏が 「2・3位連合」によって数的優位をはかる戦術に出たにもかかわらず、陳水扁氏がわずか0.228%の差で野党連合の連戦氏を押さえて再選を果した例もある。
しかし、「米中対立」の先鋭化が米中両国にとどまらず世界のあらゆることを規定する現在、当時とは世界の「基本構造」が大きく変化している。振り返ってみると、海の向こうサンフランシスコでのバイデン大統領と習近平主席の米中首脳会談直後、まさに時を同じくして、「藍白合作」は最終局面で破局に至った。その背後に何かあったのか、深層(真相)に迫るメディアに出会うことはなかった。頼氏が副総統に2020年から台湾当局の駐米代表を務めていた蕭美琴氏を据えたことの読み解きも含め、台湾を報じるジャーナリストが鋭く試されるところだった。
アメリカ人を母親として日本の神戸で生まれた蕭氏は、アメリカ留学後20代で民進党本部の役職に抜てきされた、蔡英文氏の信任厚いことでも知られる人物である。2021年のハイテン大統領の就任式に台湾の駐米代表として米台断交後初めて正式に招待を受けたほか、ペロシ下院議長(当時)の台湾訪問において重要な役割をはたしたとされる。すなわち、蔡総統が進めてきた米台関係強化をより深くするキーパーソンというべき存在である。投票日前夜、頼氏の支持者を集めた決起集会で振られる小旗のなかに星条旗が見えたことに、名状しがたい既視感に襲われたことも付け加えておかねばなるまい。
「藍白合作」破局が、巷間伝えられるように、世論調査における2人の候補者の支持率の「統計学上の誤差の範囲」をどう定めるのかをめぐって合意に至らなかったからだなどと素朴に信じるジャーナリストがいるとすれば噴飯ものというべきである。
まだ過半にも至らない考察の紙幅が尽きる。事実関係と論理をすっ飛ばして結論だけを語らざるを得ない。詰まるところ、すべては米国の「掌中」にある台湾というべきなのである。ゆえに、言行一致するかどうかに始まり、米国の「立ち居振る舞い」こそが、これからの台湾情勢を決する最大の要因として問われてくる筋立てとなる。この基本構造を見失ってはならない。
再々度、我々は、目頭に引いた2つの「声明」と昨秋の米中首脳会談での双方の主張、やりとりを詳らかに復習してみる必要がある。そしてまさに、静かに、考えてみなければならない。そうすれば、台湾海峡の平穏と両岸関係の平和的発展への道が見えるはずである。
本質を見誤ってはならない。事態はそう語りかけている。
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