【トップインタビュー】永続的な経営を可能にするため「人が集う」企業への変革図る
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照栄建設(株)
代表取締役社長 冨永 一幹 氏福岡県を代表するゼネコンとして広く周知されている照栄建設(株)。賃貸マンション建設を中心に事業を展開しているが、住宅市場は今、人口減少や資材コストの上昇など厳しい環境下にある。今後さらに難しい局面を迎えると考えられるなか、冨永一幹代表取締役社長に経営の方向性について話を聞いた。
(聞き手:(株)データ・マックス 専務取締役 児玉 崇)他地域に比べ底堅い福岡の住宅ニーズ
──住宅市場の環境が厳しさを増しています。そのなかで、御社の今期(2024年5月期)の状況はいかがですか。
冨永一幹氏(以下、冨永) 当社の事業は賃貸マンションが6割、残り4割を分譲マンション、テナント、戸建住宅、リフォームなどで構成しています。今期は前期を約20億円上回る170億円超の売上高となりそうです。社会全体が物価高騰の傾向にあるなかで業績を拡大できたのは、当社の総合的な取り組み姿勢が高く評価されたからではないかと考えていますが、それは社員の頑張りによるものが大きいと認識しています。
市場環境が厳しくなっているのはたしかですが、当社が主に展開する福岡県は首都圏や関西圏に比べると、依然として地価や住宅価格が低く、住宅需要が底堅いといえます。東京では近年、50年の住宅ローンを組んで分譲マンションを購入するといったケースも出てきているそうです。なかでも、メインエリアである福岡市の賃貸マンション市場は高い入居率が維持されており、それが当社にとっての追い風になっています。相続税対策としてのニーズはもちろん、投資目的のニーズも依然として強いですね。
人口減の時代 生産性をいかに高めるか
──とはいえ、今後は人口減少が避けられず、住宅市場もそれに合わせて難しい状況になりそうです。
冨永 私は、人口論と経済論は別物と考えています。先般、日本はドイツに抜かれGDP4位になりました。ドイツは人口が約8,000万人と、1億2,000万人の日本より人口が少ない国ですが、そのドイツが日本を追い越したのは国民1人ひとりの生産性が高いからです。そのため、重視すべきなのは人口構成ということになります。今後さらに進む少子高齢化のなかで、企業はどれだけ生産性を高められるか、それを可能とする人材を確保できるかが、日本で今、問われていることではないでしょうか。一概に悲観することばかりではなく、人口減を受け止め、対応できる社会環境をつくり出していくことが求められそうです。
もっとも、そうなると私たち建設産業においても市場が縮小していくわけで、そのなかで企業の淘汰が起こることは間違いありません。しかし、淘汰は企業業績の善し悪しや資金繰りのみが原因となって起こるものでもありません。現状では多くの企業が存在するわけですが、いずれそのなかには人材不足や、事業承継の問題から事業が立ちゆかなくなる事例が増えてくるとみられます。
一方で間違いなく言えるのは、どんなに市場が縮小しようとも、建設ニーズがなくなることはないこと。そして、いくらDXやAIが発展しようとも、建設業は人の力が不可欠であることです。おそらく100年後でも状況は変わらないでしょう。そうしたなかで、永続的な企業経営を行うためには、自社で社員を育成し続けることが何よりも重要になります。なかでも当社で重要な課題と位置づけているのが、次代を担う人材の確保、新卒採用を継続して行うことです。そうすることで生き抜くことを考えています。
自社の「良いところ」を発信できる企業に
──採用については、さまざまな企業の悩みとなっていますね。
冨永 企業経営者のなかには、少なからずこの点についてあきらめてしまっている方がいます。聞けば、そうした経営者の企業においては人材が何年も固定され、人間関係の新陳代謝が少ないことから、企業変革が遅々として進まないそうです。そして、そうした企業の経営者に共通するのが、自社の「良いところ」を語っていないことです。それでは、新入社員を含めた、さまざまなステークホルダーに選ばれる企業になることは難しい。おかげさまで、当社では4月入社の新卒社員を採用することができています。
それは、当社の「良いところ」をしっかりと構築するため、私自身も先頭に立って、あきらめずさまざまな取り組みを必死になって展開しているからだと感じています。
──御社の「良いところ」とは、具体的にはどのようなことでしょうか。
冨永 「良いところ」は、事業規模やその内容はもちろんのこと、社員がやりがいを感じられる仕事や職場づくりのための努力を欠かさないことだと考えています。今の若者たちはお金ではなく、仕事のやりがいで企業を選ぶ傾向にあります。ですから、とくに若い従業員とは、どのような将来像を描いているのかを問い、その実現に向け会社は後押しをするなどと、常にコミュニケーションを行っています。そうした対話のなかで「この会社で働き続けたい」と考えてもらえるようにしているわけですが、その結果、当社では毎年新入社員が集い、全体の8割以上をプロパー従業員が占める状況となっています。
そもそも、新入社員として入社を期待する若者たちは、私たちが生きてきた時代とはまったく異なる考え方を有しています。電気自動車などのエコ商品は高額ですが、彼らはそれらに非常に高い関心をもち、循環型社会といったフレーズを違和感なく受け入れる世代です。このため、彼らを受け入れる私たちもその感性に即したかたちに変わることが重要です。
建前一切なしの「丸はだか採用」
──そういえば、オフィスの雰囲気が以前と比べて大きく変わりましたね。
冨永 彼らの感性に合わせることが重要と考え、SDGsなどに即したものに変更すべく、ここ数年、段階的にリニューアルを続けています。開口部にはエネルギー消費量を抑えるための断熱フィルムを設置し室内の温熱環境を改善するなど、古いイメージ、「昭和感」の払拭に努めています。これも職場環境の改善により、若い世代の従業員のモチベーションを高めるための取り組みの一環です。
新卒採用の話に戻りますが、当社では近年、「丸はだか採用」と銘打った活動を展開しています。会社説明会や選考、インターンシップなど学生と接するあらゆる場面で、真面目に誠実に当社のありのままを見せる、建前一切なしの取り組みです。このような活動は、学生はもちろん、彼らを送り出す学校側にも評価され、最近では高校生を対象にSDGsに関する当社の取り組みについて講義を行う機会をつくれるようにもなりました。このように、若者世代を中心に当社の取り組みを積極的にアピールすることで、周辺の評価を高められるという好循環が形成されつつあります。
──最後に人材育成を行ったうえで、今後強化したい事業は何でしょうか。
冨永 賃貸マンションを中心とする住宅事業だけではなく、事務所や店舗、施設といった非住宅物件や特殊物件の建設する事業ですね。それにより、地域の実情に合ったオンリーワンの価値をもった建物を提案することで、お客さまとの信頼関係をさらに強めていきたいと考えています。そのためには何より人材が大切です。社員が職種を超えて相互に情報交換ができる企業風土を整え、活躍しやすい雰囲気をつくるなど、粘り強く取り組んでまいります。
【文・構成:田中 直輝】
<プロフィール>
冨永 一幹(とみなが・かずもと)
1969年生まれ、福岡県春日市出身。福岡大学大学院人文科学研究科教育臨床心理学専攻修士課程修了。2005年4月に照栄建設(株)入社。07年7月取締役社長室長、16年4月総務部長を経て17年8月1日に代表取締役社長に就任した。
<COMPANY INFORMATION>
代 表:冨永 一幹
所在地:福岡市南区向新町2-5-16
設 立:1972年6月
資本金:7,000万円
売上高:(23/5)148億1,295万円法人名
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