2024年11月21日( 木 )

「円安悪玉論」だけは看過できない~日本経済復活の腰を折るな~(前)

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 NetIB‐Newsでは、(株)武者リサーチの「ストラテジーブレティン」を掲載している。
 今回は7月16日発刊の第358号「『円安悪玉論』だけは看過できない~日本経済復活の腰を折るな~」を紹介する。

 円安進行が止まらない。消費者や中小企業主体の日本商工会議所などの経済団体、少なくないエコノミスト、経済学者などからの悲鳴と批判が巻き起こっている。この「円安悪玉論」を是と見るか非と見るべきか。この問題をおろそかにできないのは、それが政策選択と日本の国益に強く結びついているからである。

円安は購買者から供給者への所得移転、だが一過性

 為替論議は極めて単純、円安は(1)輸出する人(=円を受け取る人・金を稼ぐ人)にプラスに、(2)輸入する人(=円を支払う人、金を使う人)にはマイナスに、と相反する作用があることがすべてである。しかし、その対立が事態を紛糾させる。円安批判は後者の立場に立って展開される。

 円安が困るのは輸入物価が上昇し国民の実質所得を奪うからである。2022年以降、ウクライナ戦争にともなうエネルギー価格の上昇、コロナパンデミックによって引き起こされた供給網の寸断により世界的なインフレが起きたが、日本では同時に進行した円安が物価上昇をさらに押し上げた。2%のインフレターゲットを目標としてきた政府・日銀にとって一時的にせよ目標を達成できたのだが、賃金上昇がともなっていなかったために、労働者の実質賃金は大きく目減りし、消費を抑圧した。また海外生産や輸入品に依存している企業は輸入コストが上昇し収益が圧迫された。しかしこれらは短期・一過性のマイナスである。物価高は円安が止まり前年比の変化がゼロになれば消えていく。

見えにくい円安のメリット

 他方、前者の側に立つ円安メリットは、緩やかにしか現れずまた一様ではない。すべての企業がドル建て輸出をしているだけなら、円安メリットは為替益により円換算の売上額が増え、直ちに利益増加に結びつく。ただし輸出企業が円安になった分だけドル建て輸出価格を引き下げる場合には、円安メリットは値下げによるシェアの増加(=売上数量の増加)が実現するまで現れない。

図表1: 懲罰的円高から恩典的円安へ 、円安が日本大復活の原動力

 他方、円建てで輸出している企業の場合には円安のメリットは、円建て輸出価格の値上げがなされないと実現しない。また工場の海外移転をしてしまった企業は、円安になると海外工場からの輸入価格が上がり、むしろコスト高になる。

 海外法人で稼いだ外貨建ての利益が円に換算されるときに増価するというメリットはあるが、それは時間をかけて徐々に実現していく。さらに円安の恩恵を最も受けやすいグローバルな大企業は、円安メリットを声高には語らない。このように円安のデメリットは明快なのに対して、メリットは極めてあいまいで、かつ見えにくい。よってメディアや経済論壇では、「円安悪玉論」が優勢となりがちなのである。

円安は世界需要を日本に集める

 しかし最も本質的なことは、水と同様に需要も高いところから離れ、安いところに集中するという真実である。円安になり、日本の人件費も、土地も、農産物や工場製品も著しく安くなったことで、在日本企業の価格競争力が著しく高まっている。かつてコストが安い海外に工場を移転した企業は日本に工場を回帰させ始めている。企業家であれ観光客のような個人であれ、製品も人も土地も世界中の需要家が安い日本に群がり、日本の内需を高める。その動きが設備投資、生産、雇用の増加、賃金上昇となって経済好循環をつくっていく。

円安が引き起こす数量増とインフレ圧力に無知な経済学者

 高名な経済学者やエコノミストでも為替経済学の2つの基本に無知である場合が多い。第一はJカーブ効果である。円安の初期には実質所得の減少というマイナスが一気に顕在化する。しかし時間が経つとマイナスは消えていきプラスの生産数量増、設備投資増、生産性上昇と賃金上昇という好循環が長期にわたって続くのである。

 第二の無知は、為替は現実経済を投影するものではなく、将来の競争条件と国際的分業配置をかたちづくる原因になるのだということである。いわゆる履歴効果である。30年前、異常に競争力が強かった日本を弱体化させるため、覇権国米国は超円高を誘導し、その意図通りにあれほど強かった日本のハイテク産業は衰退し、日本に集中していた産業集積は韓国、台湾、中国などの東アジア諸国に移転した。世界一の高物価国になった日本から工場も雇用も資本も海外に流出し、日本産業は空洞化した。また世界水準からみて異常に高くなった賃金や土地に大きな引き下げ圧力がかかり、長期デフレを定着させた。

図表2: アベノミクス以降の改善顕著な経済指標、特に利益・税収・株価

(つづく)

(後)

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