2024年10月10日( 木 )

【クローズアップ】日本・ベトナムのリソースを組み合わせ、顧客にベストな方式を提案

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FPTジャパンホールディングス(株)

 ベトナムのICTリーディングカンパニーFPTコーポレーション(FPT)は、2005年にテクノロジーセクターの日本法人、FPTジャパンホールディングス(株)(FPTジャパン)を設立し、数多くの大手企業を顧客に有している。FPTジャパンが福岡で力を入れている事業の1つがニアショア事業だ。オフショア(海外)とともに顧客への対応部門をニアショア(国内)におくことで、コミュニケーションロスの発生を防ぎ、迅速かつ高品位なサービス提供を実現する。さらに国内外のエンジニアリソースを組み合わせた「ベストショア」と呼ぶスキームで、技術、専門性、コストなど顧客の多様なニーズに合わせた提案を行っている。

ベトナムICT産業を主導 福岡の拠点を拡充中

FPT    FPTは全体で8万人以上の社員をかかえるベトナムICTリーディングカンパニー。事業分野は大きく分けてテクノロジー、テレコミュニケーション、教育の3つで、ベトナムトップクラスの規模で事業を展開している。教育事業を手がけているのも特徴であり、幼稚園から大学まで17万人の学生が在籍し、とくにFPT大学はベトナムでもトップレベルの教育機関に挙げられている。ほか、パソコン、スマートフォンなどデバイスの販売店や薬局チェーンを展開するなどリテール流通事業も行っている。

 FPTの現在の戦略について、チュオン・ザー・ビン会長が投資家に向けた戦略会議において、グリーントランスフォーメーション(GX)、オートモティブ(自動車)、DX、AI、半導体の5分野を強化していくと述べており、さらなる成長に向け子会社を設立するなど体制を整えている。AIではNVIDIAとの提携を発表しており、日本国内に向けたAIサービスの強化も予定している。半導体はベトナムの国家的事業としても注力している分野だ。

 日本法人のFPTジャパンの母体となっているのがFPTソフトウェア。同社はオフショア(ベトナム本国での開発)事業をメインとし、本国に計13の大規模な開発センターを有している。アメリカ、ヨーロッパ、アジア太平洋地域など世界30の国・地域で事業を展開している。売上において日本はアメリカと並ぶ存在で、両国で7~8割を占める。昨年の売上は10億 USドル(約1,450億円相当)を超え、日本市場がトップで約4割のシェアに達しており、日本法人の規模を拡大中という。

 日本事業では、メインはソフトウェア開発でテスト業務とBPO、MSP(マネージドサービスプロバイダ)、保守なども手がける。企業のDX推進のため、ローコード開発にも注目が集まっているという。

 日本法人で一番大きいのはFPTソフトウェアジャパン(FSJ)で、FPTニアショアジャパン(FNS)とともにニアショア(地方での開発)事業を展開している。また、FPTコンサルティングジャパン(FCJ)を設立、顧客の企画・構想策定段階から参画するリソースを拡充し、開発・運用・保守に至るエンドツーエンドサービスを提案している。

 FSJは本社を東京に置くが、FNSはベトナム人の定住しやすさを重視。気候、食べ物などの面でベトナムに近く、自然豊かな環境であることに魅力を感じ、沖縄に本社を設立してスタートした。今年8月時点で沖縄が約180名、福岡が約150名、札幌が70名。福岡の開発センターは座席数が180 席であり、今後300~400名を収容できるよう第2センターの開設を計画している。福岡は魅力的なコンパクトシティで暮らしすく、ベトナムへの直行便があることから人気があるという。福岡にはFPTジャパンの営業およびFCJの拠点もある。

国内外のリソースを合わせ、「ベストショア」を提案

福岡の開発拠点の入居するビル
福岡の開発拠点の入居するビル

 エンジニアについて、ベトナム本国から招聘する人材以外に、日本人はもとより国籍を問わず積極的に採用活動を進めている。共通語は日本語であるが、ベトナム語、日本語、英語が話せる人材など、語学が堪能な海外国籍の人材を多く抱える。

 開発体制の特徴と強みについて、多国籍のエンジニアによるチーム体制でありながら、皆日本語が話せ、読み書きができることという。FPTジャパンは日本企業の商習慣、業務・業界知識に対し、ニアショアというかたちで顧客のニーズに対応する。ベトナム本国の優秀で豊富なリソースを有しており、ニアショアとオフショアのハイブリット体制「ベストショア」でサービスを提供している。

 廣瀬信太郎・FSJニアショア開発事業本部九州ニアショア開発事業部長は、「親日感情の高い信頼できるビジネスパートナーであるベトナムオフショアと日本の業務・商習慣を理解した国内の豊富なリソースを活用し、お客様の課題解決に貢献できるのがFPTニアショアジャパンです」と強みを語る。

 ベトナム本国には、AIなどで専門的な知識をもつレベルの高いエンジニアも多数在籍しているという。現在の体制ではニアショアが約400名で、オフショアに約400名の計800名のエンジニアを抱えているが、今後合わせて2,000名にまで充実させる予定という。日本人社員はそうした拡充計画を最初に聞いたときには驚くが、FPTはこれまでも実際に実現しており、勢いを感じるという。ベトナムという国、FPTのみならずメンバーも積極的であり、控えめな日本人のメンバーも影響を受ける環境とのことだ。

開発のスピード、セキュリティも担保

 案件について、最近増えているのはスマートデバイスの開発だ。以前はOS別にアプリケーションを開発する必要があったが、現在はクロスプラットフォーム化が進み、共通のアプリケーションで各OSに対応したかたちで開発することが多いという。また、企業がDXを進めるなか、ローコード、ノーコードの開発や、クラウド型のERP(統合基幹システム)やAWS (アマゾン・ウェブ・サービス)の開発も多いという。開発手法について、以前はウォーターフォール(開発工程を1つずつ完成させて進める方式)がメインだったが、現在は2週間など短いスパンで実際に動くシステムを構築して顧客に見てもらい、方向性を検証しつつ開発を進めるアジャイルが主流になってきているという。環境の変化が速くなっていることから、仕様変更にも柔軟性のあるアジャイル開発を採用する顧客が増えており、FNSも得意としている。

顧客の開発センターとしての役割も担う

 顧客が自社開発センター構築を検討した際にも、FNS内に専用の環境をつくることを提案し、一緒に立ち上げを行っている。顧客のイズム、作法を意識してノウハウを移転させ、スタート時から高い品質を実現することを目指しているためだ。スタート時は顧客のメンバーが一定期間FNSのオフィスに入り、FNS側のリーダーが顧客とともに開発メンバーへの研修を行い、並行して次のリーダー育成を進めていく。福岡では昨年、準備から立ち上げに至るまで短期間で実現し、顧客から高い評価を得たという。

 開発センターのセキュリティはFPTの標準的な基準に従いながら、プロジェクト専用ルームもあり、高いセキュリティ基準が求められる金融業界、製造業界の要件にも対応できる。

 また、建設DXの推進も注目される。(株)竹中工務店が2021年から運用を開始している「建設デジタルプラットフォーム」のプロジェクトでも主要なベンダーの1つとして参画した。建設業の生産性を上げるための取り組みだけではなくて、建設の仕組み自体を変えていこうという試みだ。また、大末建設(株)とも「建築事業の強靭化」などを掲げてグローバルパートナーシップ契約を締結しており、DXソフトウェアを販売していく計画だ。

システムをめぐる日本企業の課題

 廣瀬氏は日本企業の現状について、労働力の減少によるエンジニアのリソース不足という課題をかかえているとの認識を示す。企業が中期経営計画を策定しても、その実現に必要なエンジニアリソースの確保に苦慮しているという話をよく聞くという。また、企業によっては老朽化したシステムもDXが進まない要因の1つとなっている。開発が属人化しているケース、設計書や仕様書が最新でなく、それらに対応できるエンジニアも足りていないケースも多く聞かれるという。

 日本のエンジニア不足には地政学的リスクの軽減という背景もあると指摘する。一部大手企業を中心にシステム開発部門を従来のオフショア拠点から国内に移転するか、新たなオフショア先を構築しようと動いている。ただ、上記のような国内のリソース不足という課題があるなか、FPTジャパンはベトナムを中心としたオフショア、ニアショアという選択肢を提示する。一方、中国には20万人以上の日本語エンジニアという有力なリソースが存在することから、今年3月に大連に拠点を開設。中国との関係を重視する顧客へのサポート能力強化を念頭に、グローバルに人材を確保し成長を図っている。

ベトナムICTの福岡進出、福岡の誘致、優遇政策

 ITはベトナムが力を入れている産業の1つとされ、エンジニアを年に約5万7,000人育成、輩出し、すでに約53万人の人材がいるという。

 福岡にはほかにもベトナムのICT関連企業の進出が続いている。代表的なところでは、大手のVMOホールディングスの現地法人VMOジャパン(株)(福岡市博多区)が23年に拠点を設立している。また、日本留学者が設立したRIKKEI SOFTの(株)リッケイ(福岡市博多区)もそれに先立つ22年に拠点を設立している。両社ともオフショア開発を手がけ、ブロックチェーンなどの技術やDX支援などに強みをもつ。

 関連企業の集積が進んでいることを受け、関係者らによって今年5月には九州ベトナム情報技術協会(VITAK、会長:ゴ・トゥ・フエンFPTジャパン福岡事業所代表)が発足している。VMOは国際金融機能誘致を目指す福岡県・市の産官学連携組織「TEAM FUKUOKA」の誘致を受けた進出企業の1社でもある。

 福岡は海外人材の誘致の一環として、23年11月に全国初となる「エンジニアビザ制度」を開始した。VMOはその第1号活用企業でもある。福岡市によると、ビザの審査に従来は1~3カ月を要していたが、VMOのケースでは5日で審査が完了した。概ね20日以内に完了しているという。FPTの廣瀬氏も、「顧客から急遽30人のエンジニアを来月から欲しい等の要望を受けた場合でも、審査に1カ月かからないため、ベトナムから高いスキルをもったエンジニアを呼び寄せられるようになった」と話しており、制度導入のメリットを享受できているようだ。

 ベトナムは外資に対して友好的な政策を採っており、外貨獲得、経済力向上に務めるなか、日本やアメリカの企業、とくにIT関連企業は上客として優遇されやすいという。同分野での福岡とのさらなる往来が期待される。

【茅野雅弘】


<COMPANY INFORMATION>
FPTジャパンホールディングス(株)

代 表:ド・ヴァン・カック
所在地:東京都港区三田3-5-19
設 立:2005年11月
資本金:3億円
売上高:(23/12連結)21億7,000万ドル
    (FPTコーポレーション)

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