2024年12月31日( 火 )

福岡城の天守復元 市民アンケートは肯定的、文化庁の硬直した基準が課題(後)

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 福岡城の天守復元について議論をすすめる『福岡城天守の復元的整備を考える懇談会』(ふくふく懇)の活動もいよいよ大詰めを迎えつつある。今後、懇談会はこれまでの議論と市民の意見を取りまとめて福岡市長に報告し、天守復元について提言することになる。
 天守復元に向けて今後の焦点はどこになるのか。市民アンケートの中間報告と、懇談会事務局が文化庁を訪問した報告を基に考える。

 市民アンケートの結果は、福岡城の天守復元について、どちらかというと肯定的であることが分かった。このことは天守復元と福岡城址の活用について、福岡のまちづくりという視点から、さらに市民の間で建設的な議論を進めることが十分可能であることが示されている。

 福岡市民が自らのまちづくりのために積極的に議論を重ね、そのうえで天守復元という選択肢がとられるならば、良いことである。

 だが、ここで大きな障害となると思われるのは、文化財の保護行政を担う文化庁である。

文化庁への報告状況

 第5回ふくふく懇では、懇談会事務局が文化庁を訪問してこれまでの検討内容について報告したことも明らかにされた。その際の文化庁の反応は以下の通りである。

文化庁の見解

〇天守の「復元的整備」でも指図(設計図)や外見写真などが必要であり、天守に関する今の史料だけでは必ずしも十分ではない。
〇国史跡を現状変更する場合、国の許可が必要である。
〇現代の建築物には、すべて建築基準法が適用される。建物を立てる場合は、バリアフリー対策であるとか、事故があればどう対応するかなど、法の要件を満たすことが必要。

 このような文化庁の見解の背景には、文化庁が定める歴史的建造物の復元基準がある。文化庁の基準については既報記事『福岡城の天守再現を考える(2)国史跡として福岡城天守の「復元」は可能か?』をご覧いただきたい。

 文化庁は近世城郭の復元について極めて厳しい基準を設けており、これによると福岡城の天守は「復元」だけでなく「復元的整備」も難しいということになる。上記の文化庁の見解は、それを改めて示したものにすぎない。

 これに対して、ふくふく懇の事務局は次のような見解をまとめている。

復元的整備についての課題について

 文化財行政が「保存から活用へ」シフトし、2020年に「復元的整備」に関する基準が新たに設けられるなど、少しずつ基準が緩和されてはいるが、許可のための審査の実態は従来とほとんど変わっていない。このため、設計図等の存在が不明確な福岡城天守の「復元的整備」は、現状では多大な困難を抱えている。

 現在、「国史跡福岡城跡整備基本計画」においては、城郭整備についての文化庁の方針を踏まえ、「幕末期に存在した建造物、石垣等のうち、意匠・携帯、素材・材料等において真正性を確保できる建造物・石垣等を復元する」とされている。

 しかし、一方では、奈良時代の平城京の「朱雀門」や「大極殿」は、設計図や参考となる絵画・絵図が現存しないものの、豊富な文献や「法隆寺金堂」など、同時代の多くの寺院建築を参考に復元工事が行われている実態がある。

 そのため、福岡城天守の「復元的整備」の実現に向けては、早急な資料の充実と調査を行うことが先決である。

 事務局が指摘するように、文化庁は近世城郭に対して厳しい基準を設ける一方で、奈良時代の平城京のような極めて古い歴史的建造物については、比較的緩い基準で復元を認めている。

数合わせ=品質担保の論理に終始する中央の管理行政

 このようなダブルスタンダードを見る限り、文化庁は全国の文化財の保護を指導する立場にあっても、個別の文化財の適切な活用まで指導する力はないと言わざるを得ない。すなわち、文化庁の文化財保護とは、まるで受験生の入学を許す大学のように、合格率を絞り込むことによって入学する学生の質を担保するのと同じ発想にとどまっている。天守の粗製濫造がなされた時代にあっては、その基準で歯止めをかけることも意義があったかもしれない。しかし、現在日本各地で自分たちのまちづくりのために多角的な視点から慎重な検討を行っている数多の取り組みに対して、文化庁の姿勢は、まるでそれぞれの史跡の性質やまちづくりにおける史跡の意義を理解しない、硬直した管理行政が生み出す生産性のない障壁となってしまっている。

 これまで報告してきた通り、ふくふく懇では歴史学、建築史学の研究成果を土台として慎重な議論が積み重ねられてきた。そのような慎重な姿勢で学術的妥当性が担保される限り、福岡城天守を復元するのかどうかは、最終的に、市民自身が決めるべきことである。少なくとも画一的な管理行政を強いる文化庁の基準よりも、自分たちの街の在り方に真剣に取り組むふくふく懇の議論のほうが、文化財への向き合い方としてずっと真面目である。

 福岡城の天守復元をめぐって今後焦点となるのは、福岡市ならびに市民の意思はもとより、文化庁の硬直した基準に対して、福岡市と市民がどのように対処していくのかという点になるだろう。

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(了)

【寺村朋輝】

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