2025年01月22日( 水 )

嫌われるマスコミとフェイクの時代(前)SNSが生み出す新しい選挙戦略

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『週刊現代』元編集長 元木昌彦 氏

 世界中でオールドメディア(マスコミ)がフェイクニュースばかりだと批判してきたSNSが影響力を増してきている。選挙戦においてもSNSを駆使した候補や党が伸びるという傾向はさらに加速しそうだが、オールドメディアはこのまま衰退してしまうのだろうか。(以下、文中敬称略)

SNSが生み出す新しい選挙戦略

SNS 選挙戦 イメージ    昨年はSNSがオールドメディアを圧倒した一年だった。

 7月の都知事選で当初は泡沫候補扱いだった石丸伸二がSNSを駆使して、既成政党に飽き足らない若者層を取り込み、165万票を集め、立憲民主党の蓮舫を抜いて小池百合子に次ぐ2位に入った。

 10月に行われた衆院選では、国民民主党の玉木雄一郎代表がYouTubeなどのSNSを使って選挙戦を戦い、「103万円の壁」という分かりやすいキャッチフレーズもあって、議席を倍増させた。
 さらに11月の兵庫県知事選では、県議会によって全会一致で不信任された斎藤元彦がSNSを中心に選挙戦を戦って、ほとんどのオールドメディアが予想していなかった再選を勝ち取ったのである。

 アメリカの大統領選でもトランプが、一回目と同様、一部を除いて新聞やテレビを敵視してツイッター(現X)やTikTokなどのSNSを中心に選挙戦を戦った。

 バイデンが途中で退場してカマラ・ハリス副大統領が民主党の候補になり、大方のオールドメディアは「接戦かハリス有利」と予測したが、蓋を開ければトランプが地滑り的大勝をした。

 こうしてみると、もはや新聞やテレビ、雑誌も含めてだが、有権者の投票行動に大きな影響を与えていないと考えざるを得ない。

 TBSNEWSDIG(2024年12月16日〈月〉14:37)は斎藤の選挙戦についてこう報じている。

 《当初は「たった一人で始めた」という斎藤知事の選挙戦だったが、演説会場の人垣と熱気は他の候補とは一線を画すものがあった。人の輪は日を追うごとに大きくなり、やがてうねりとなっていった。

 一方でメディアに向けられた視線は非常に厳しいものがあった。斎藤知事を支持する方々に話しを聞いたが、「テレビに騙された」「あなたたちは嘘を伝えていた」と叱責を受けた。「これが民意だから」「(選挙で)あなたたちと私たちのどちらが正義かわかるはず」と厳しく指摘された。

 斎藤氏に敗れた稲村和美候補が「何を信じるかの戦いになっていた」と漏らすように、事実とは何かを超え、何が正義かをめぐる異様なムードに包まれていた。

 今回の兵庫県知事選挙が持つ意味は単なる一地方の首長選挙にとどまらない。私たちテレビメディアに対して強烈な問いかけがなされた選挙だと思う。果たしてこのままの選挙報道で良いのか? と。》

オールドメディアの影響力の低下

 新聞もテレビも、選挙中の報道は公正中立でなければいけないから、斎藤に不利な報道をするのは難しかったという言い訳をする。だが、メディア研究者の水島久光は朝日新聞(1月7日付)でこういっている。

「選挙報道そのものを妨げる規定は公職選挙法にも放送法にもありません。(中略)テレビは政治的公平を放送法で要請されていますが、新聞にはそうした規定はありません。もっと自由にできるはずです。『事実に基づき真実を探求する』という報道の大原則に照らせば、知事選の最中でもやるベきこと、できることはたくさんあったでしょう。メディアの不作為が、ネット上に憶測を呼ぶ原因となったようにも感じます」

 事実の裏付けがあれば、選挙中でも候補者に不利な報道をするのに躊躇することはない。それなのにメディア側は自己規制して、有権者に必要な情報を報じなかったのだ。

 東大大学院の教授で副学長の林香里は『世界』2月号「マスコミはなぜ嫌われるのか」の中で、斎藤の兵庫県知事選についてこう書いている。

「今回、私も含めて多くの人は、『広報』にお金を払って依頼することが公職選挙法に違反するということを齋藤(原文のママ=筆者注)氏に協力したPR会社の社長の投稿で初めて知ったのではないか。この社長の選挙活動に対する認識の未熟さも驚きだが、メディア側も広報やコミュニケーションのプロフェッショナルとして、理不尽な法のありかたについては改善を働きかけるべきだ。

 もしマスメディアがこれらの課題に向き合わず、現状のままネットを敵視し続けるのであれば、その存在意義はますます希薄化し、市民の『知る権利』に応える役割を失っていくことになるだろう」

(つづく)


<プロフィール>
元木昌彦
(もとき・まさひこ)
『週刊現代』元編集長 元木昌彦 氏『週刊現代』元編集長。1945年生まれ。早稲田大学商学部卒。70年に講談社に入社。講談社で『フライデー』『週刊現代』『ウェブ現代』の編集長を歴任。2006年に退社後、市民メディア「オーマイニュース」に編集長・社長として携わるほか、上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。日本インターネット報道協会代表理事。主な著書に『編集者の学校』(講談社)、『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)、『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)、『現代の“見えざる手”』(人間の科学新社)、『野垂れ死に ある講談社・雑誌編集者の回想』(現代書館)など。

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