嫌われるマスコミとフェイクの時代(中)SNSと選挙戦術の世界的影響
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『週刊現代』元編集長 元木昌彦 氏
世界中でオールドメディア(マスコミ)がフェイクニュースばかりだと批判してきたSNSが影響力を増してきている。選挙戦においてもSNSを駆使した候補や党が伸びるという傾向はさらに加速しそうだが、オールドメディアはこのまま衰退してしまうのだろうか。(以下、文中敬称略)
SNSと選挙戦術の世界的影響
大統領選でSNSを中心に選挙活動を始めたのはトランプであった。オバマの二期目に立候補することを決意したが、彼にはこれといった政策があるわけではなかった。そこで、知り合いの編集者がすすめてくれたツイッターを始めた。
ツイッターを使えば支持者と直接結びつくことができることに気付き、これを使っていくつかの政策を呟き、「いいね」が多かったものを採用していったという。「メキシコとの国境に高い壁をつくる」というのもその中の一つだった。
トランプは不動産王であり人気テレビ番組『アプレンティス』で大衆人気も獲得していた。マスメディアの内情も熟知していた。
支持者と直接つながることができるツイッターなどのSNSを初めて使いこなしたメディア戦略、「Make America Great Again」というキャッフレーズ(トランプはこの言葉を商標登録した)だけで、トランプは第45代大統領に成り上がったのである。昨年の大統領選も同様の戦略を駆使したが、オールドメディアは前回の失敗をまた繰り返し、投票日直前まで「ハリスやや有利」「大接戦」などと報じていたのである。
選挙中、ワシントン・ポストはハリス支持を紙面で主張しようとしたが、所有している大富豪ジェフ・ベゾスが反対してできなかった。だが、ベゾスの読みは正しかったのである。
ニューヨーク・タイムスも、今回の大統領選では存在感が薄かった。
「勝つためには負けるやつが必要だ」
トランプの言葉だ。最初は対立候補のヒラリー・クリントン、二回目はバイデンに代わって出馬したカマラ・ハリス、大手メディア(唯一FOXテレビは除いて)を徹底的にこき下ろした。
有権者を自分の支持派と反対派に分断し、支持者たちにはSNSを使って“直接”語りかける。
世界中でこの選挙戦術が真似され、相手を徹底的に批判し、敵味方に分断させ、支持者を熱狂させたリーダーがいる政党が勢いを増している。そうした中で、オールドメディアが果たせる役割は、年々、少なくなっている。ニューヨーク在住のジャーナリスト・津山恵子は朝日新聞(1月10日付)の「メディア私評」の中でこう書いている。
「ロイタージャーナリズム研究所の『デジタルニュース報告書』(2023年)によると、『先週、ニュースの情報源として利用したものはどれか』という質問に対し、新聞、テレビ、オンラインメディアのどれも『全く利用しなかった』という答えが、米国では12%に上った。この数字はさらに上昇しているだろう」
アメリカ国民の多くはネットメディアでさえ見ることはほとんどないのだ。
今やトランプの右腕といわれる「テスラ」のイーロン・マスクがツイッター(現在はX)を買収したのも、トランプ支持のための「深謀遠慮」だったことは明らかである。こうしてみてくると、オールドメディアの凋落などという生易しいものではなく、多くの人間がメディアというものを読まず必要とせず、自分に関心のあることだけをSNSで探し、自分が支持したい人間だけにつながり、その人間のいうことを丸ごと信じてしまうという現象が世界中どこでも起きているのである。
(つづく)
<プロフィール>
元木昌彦(もとき・まさひこ)
『週刊現代』元編集長。1945年生まれ。早稲田大学商学部卒。70年に講談社に入社。講談社で『フライデー』『週刊現代』『ウェブ現代』の編集長を歴任。2006年に退社後、市民メディア「オーマイニュース」に編集長・社長として携わるほか、上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。日本インターネット報道協会代表理事。主な著書に『編集者の学校』(講談社)、『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)、『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)、『現代の“見えざる手”』(人間の科学新社)、『野垂れ死に ある講談社・雑誌編集者の回想』(現代書館)など。関連記事
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