嫌われるマスコミとフェイクの時代(後)分断を煽るSNS時代の政治手法
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『週刊現代』元編集長 元木昌彦 氏
世界中でオールドメディア(マスコミ)がフェイクニュースばかりだと批判してきたSNSが影響力を増してきている。選挙戦においてもSNSを駆使した候補や党が伸びるという傾向はさらに加速しそうだが、オールドメディアはこのまま衰退してしまうのだろうか。(以下、文中敬称略)
分断を煽るSNS時代の政治手法
1月20日に大統領に就任したトランプは、その前から、デンマークの自治領グリーンランドをよこせ、パナマ運河の管理権を中国から奪取すべしなど、滅茶苦茶な要求を口にしている。
どこまで本気かはわからないが、少なくとも、そうしたアドバルーンを上げることによって、世界がどう動くのかを注視し、できるとなれば恣意的に集めた閣僚たちに「やれ」と指示するのだろう。
先の津山は同欄の中でこうも書いている。
「米紙USAトゥデーは1月5日、『米国人は愚かさに対する戦いを宣言するべきだ』とする同紙コラムニストのコラムを掲載した。トランプ氏がニューオーリンズでの事件(群衆の中にトラックが突っ込み14人を死亡させた。トランプは犯人が不法移民であるかのような発信をしたが、容疑者はアメリカ生まれの元陸軍兵だった=筆者注)を不法移民のせいにし、共和党議員がそれに同調したことを『恥ずべきだ』とする。トランプ氏のお気に入り下院議員で、『カリフォルニア州の森林火災は、宇宙からのレーザービームで起きた』などと陰謀論を唱えるマージョリー・テイラー・グリーン氏についても、『恥ずべきで、議員生命が絶たれるべきだ』と指摘した。
コラムはさらに、『トランプ氏が愚かさを容認できるようにしてしまった。しかし、そうであってはならない』とし、トランプ氏や共和党からの愚かな発言を、繰り返し繰り返し『恥ずべきだ』と否定していかなければならないと締めくくった」
デジタルファシズムとメディアの行方
確かにその通りだ。アメリカの主要メディアはトランプ発言のファクトチェックを熱心にやってきたが、有権者はツイッターなどの不確かなトランプ発言を信じて、オールドメディアに耳を傾けたのはごくごく少数だった。
英国のSF作家アーサー・C・クラークは「技術(テクノロジー)はある地点から、専門家以外には魔法と区別がつかなくなる」といっている。IT革命が進み、ここ数年のAIブームを見てみれば、私のようなITオンチにはまさに便利な魔法としか思えない。
堤未果は『デジタル・ファシズム』(NHK出版新書)でこういっている。
「『今だけ金だけ自分だけ』の強欲資本主義が、デジタル化によって、いよいよ最終ステージに入るのが見えるだろうか。
デジタルは『ファシズム』と組み合わさった時、最もその獰猛さを発揮する。(中略)歴史を振り返ってみると、一部の専門家しか理解していないという『情報の非対称性』が、多くの人間の運命を変えてしまった出来事は少なくない。原子力や未知のワクチン、遺伝子操作に金融学、複雑で呆れるほど長い、国際条約の数々。そして今、急速にピッチを上げる『デジタル改革』が、世界に追いつけ後れをとるなと、牙を隠してやってくる。
わかりやすい暴力を使われるより、便利な暮らしと引きかえに、いつの間にか選択肢を狭められてゆく方が、ずっとずっと恐ろしい」アメリカでロシアで中国で、デジタルがファシズムと結びつき、我こそが世界の盟主だと張り合っている。そうした中で、既成のオールドメディアはただ手をこまねいて呆然と立ち尽くしているように思える。
もはやジャーナリズムは「権力の監視」など放棄して、権力の番犬として生き延びようと考えているとしか思えないのである。その傾向は、今年さらに強まるに違いない。われわれは権力者のいうがままに漂い、破滅していくしかないのか。われわれ一人一人に重要な課題が与えられているのである。
私はメディアといってもたかだか週刊誌の編集長を何年かやっただけで、メディアがどうのジャーナリズムがどうのといえる立場ではない。だが、少なくとも半世紀以上メディアの世界を間近で見てきた。
この連載では、今起きているメディアにまつわる話題を取り上げ、私なりの考え方と問題点を指摘し、読者諸兄の判断を仰ぎたいと思っている。
(了)
<プロフィール>
元木昌彦(もとき・まさひこ)
『週刊現代』元編集長。1945年生まれ。早稲田大学商学部卒。70年に講談社に入社。講談社で『フライデー』『週刊現代』『ウェブ現代』の編集長を歴任。2006年に退社後、市民メディア「オーマイニュース」に編集長・社長として携わるほか、上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。日本インターネット報道協会代表理事。主な著書に『編集者の学校』(講談社)、『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)、『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)、『現代の“見えざる手”』(人間の科学新社)、『野垂れ死に ある講談社・雑誌編集者の回想』(現代書館)など。関連記事
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