【新春トップインタビュー】既存の経営資源を高度化し、さらなる成長を図る

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芝浦グループホールディングス(株)
代表取締役社長兼CEO 新地洋和 氏

 建設・不動産事業、太陽光発電事業、ホテル事業を中心にグループ12社で多くの事業を行う芝浦グループホールディングス(株)。コロナ禍以前を上回る好業績となったホテル事業の拡張を積極的に進めており、湯布院というリゾートエリアにて新機軸の宿泊施設の開発にも取り組む。大規模な開発でも注目を集めていた同社だが、現在は時代に合った、バランス感覚を重視した事業展開を行っている。「既存の経営資源の高度化」を掲げる新地洋和代表取締役社長兼CEOに話を聞いた。
(聞き手:(株)データ・マックス 代表取締役会長 児玉直)

変わる事業環境のなかで

芝浦グループホールディングス(株) 代表取締役社長兼CEO 新地洋和 氏
芝浦グループホールディングス(株)
代表取締役社長兼CEO 新地洋和 氏

    ──この1年、世界情勢や日本の経済情勢が大きく変わりました。そのなかでどのような手を打ちますか。

 新地洋和氏(以下、新地) 以前は金利が低く、収益用不動産の展開もしやすかったのですが、近年の地価と建築費の高騰、金利の上昇でマンションは建てにくくなっています。デベロッパーも建て控えの傾向にあり、規模の大きなマンションや事業用物件を建てているのは多くが大手企業。地場企業も頑張っていますが、クリニックや店舗など事業用物件の建設が大半に感じられます。

 物件の購入にしても、福岡市の中心部で新規の物件を買うとなると相当な資金が必要になっています。賃貸マンションの建設も、事業の収益性が保てて、地価とのバランスが取れる場所でないと成り立ちません。

 そこで新しい事業展開として、今月、米ロサンゼルスの不動産を購入しました。主に国内で行ってきた不動産事業ですが、円の中長期的な先行きも考慮して海外での事業経験を積みたいと考えました。芝浦グループは航空機リース事業での外貨収入があり、不動産購入はその活用という意味もあります。

 ──太陽光発電事業については、今後どう継続していきますか。

 新地 太陽光発電事業を取り巻く環境はFIT(固定価格買取)制度開始当初とはかなり変わってきています。当社の成長に大きく寄与してくれた同事業も、新たな展開を考えなければなりません。新たな試みとしてNon-FIT発電所の開発を計画しています。

 太陽光発電事業を開始した当時から見ると、パネル1枚あたりの発電効率は技術進歩によって飛躍的に高まり、価格は下がっています。そこでNon-FITです。Non-FITが注目されている理由の1つにオフサイトPPAに関する法改正があります。自前の発電施設を持たなくても、再エネ電力を購入して使えるようになりました。発電所と離れた使用場所の双方にメーターをつけることで、送られた電力を使用しているという証明ができます。「再エネ利用」の環境メリットを享受するためにもNon-FITが注目されています。

 また、これまで手がけてきた当社が管理・運営するFIT制度適用発電所についても、20年の買取期間終了後も一定の環境評価がなされると思っていますので、必要に応じて修繕を行いながら事業を継続していきます。

湯布院に新機軸ホテル

 ──貴社グループは多くの事業を手がけていますが、大きな柱は建設・不動産、新エネルギー、そしてホテル事業でしょうか。

 新地 そうですね。今とくに事業拡張を考えているのがホテル事業です。売上高、利益ともコロナ禍以前の水準を超え、過去最高の業績となっています。「ホテルニューガイア オームタガーデン」ではホテル内の直営飲食店を3店舗から1店舗に集約し、宿泊特化型に転換しました。これにより固定費を軽くし、以前より利益を出せるようになりました。

 オームタガーデンの飲食業の縮小には、コロナ禍の影響だけでなく調理師など専門職人の確保という問題も絡んでいます。ホテルで上質な食事を提供することは、今後ますます難しくなるのではないでしょうか。

 ──コロナ禍において、ホテル事業については非常に悩まれていましたが、事業継続で踏みとどまったのは大きかったですね。

 新地 はい。次の展開も進行中でして、現在、湯布院に宿泊特化型ホテルの建設計画を立てています。当グループの既存ホテルは主に都市型なので、リゾートエリアでの展開は初めてのことです。賃貸マンションのような入居者を入れれば終わりという事業ではないので、運営オペレーション能力、ダイナミックプライシングの手腕、開発するシステム、施設のコンセプトなどが宿泊ニーズに合っているかが重要です。

 リゾートエリアの宿泊施設だと1泊2食が一般的でその分価格は高額になりますが、この湯布院のホテルでは食事の提供はありません。泊食分離を採用することで、宿泊客に地元の飲食店をご利用いただき地域経済の活性化を促進するとともに、リゾートエリアとしてはリーズナブルな宿泊料金でご利用いただけます。

 立地は観光通りである湯の坪街道から徒歩圏内です。ホテル一番の特徴は2階まで吹き抜けにした開放的な「宿泊者専用ラウンジ」です。真正面には由布岳が、しかもその先端までが見えます。ここでは地域の食品を使ったおつまみ、それにスパークリングワイン、ウイスキー、焼酎などのドリンクをすべて無料で、セルフスタイルで提供します。宿泊者には夕方ごろからここでゆったりと過ごしてもらおうというコンセプトです。

メガスーパーカー    さらに、ラウンジの真ん中には数億円のスーパーカーを置き、この施設の目玉にしたいと思っています。「メガスーパーカーモーターショー」を事業として行ってきた当社ならではのユニークな試みを、需要の掘り起こしにつなげていきます。施設はやまなみハイウェイという九州屈指のドライビングコースから近いということもあって、車への関心・感度が高い層のお客さまも見込んでいます。

 お客さまには「メガスーパーカーをラウンジに置いている施設ができたらしいね」と興味をもってもらい、宿泊の際には背景の由布岳とスーパーカー、シャンパンを一緒に撮影、宿泊者によるSNSでの広告展開という意図もあります。ぜひSNSに投稿していただきたいですね。ラウンジは宿泊者専用で泊まらないと利用できませんので、この点を非日常感、プレミア感の演出につなげていきます。

 屋上には宿泊者用のオプションとして、アウトドア感覚が楽しめるテラスも設けます。天気が良ければ星空も見えますし、飲食をしつつ夜まで過ごしてもらうことも想定しています。宿泊の軸足が屋外のグランピングだと、直前の天気によるキャンセルリスクが付き物ですが、屋内客室が主体で利用オプションにすることでそういったリスクも抑えられます。

人を中心に既存資源の高度化を図る

 ──今後の事業戦略についてお聞かせください。

 新地 昨年の経営方針発表でも掲げた「既存経営資源の高度化」を重要視しています。グループが現在所有している物件で、何が生かせていて何が使えていないか、改めて問い直そうと社員に呼びかけています。新たな設備投資を行う前にまずは今ある資源について、利用の高度化ができているかどうかを総点検します。

 実例として、「ホテルニューガイア 薬院」周辺に所有する賃貸マンション3棟では、入居者の退去に合わせて、徐々に部屋を民泊用客室につくり変え、家賃以上の収益が見込めるようになりました。薬院のホテルも1階を宿泊者専用ラウンジに変更し、2階をキャビンタイプの客室に改装しました。このように今ある空間の使い方を考えて変えていけば、結果が大きく変わってきます。

 湯布院のホテルラウンジにスーパーカーを置く計画も、既存経営資源の活用にあたります。とくに若年層は発信力のあるものや絵映えするものを求めていて、それを写真に撮ってSNSに投稿する文化が定着しています。飲食をしながらラウンジで車を見て、楽しいと感じる人は少ないかもしれませんが、希少なスーパーカーのインパクトでそうしたニーズに応えられれば、その先に大きな宣伝効果が期待できます。「スーパーカーを使って何か変わったことをやってほしい」と先代も願っていたのではないかと感じることもあり、湯布院の展開を含め、今までにない価値を打ち出していきたいと思っています。

 これらの取り組みの一方、バランスの取れる規模感での事業展開が重要だと、経営層とも話しています。今後は東京での民泊やキャビン型ホテルの展開も計画中です。海外で不動産事業に取り組むのは初めてですし、湯布院というリゾートエリアへの進出も初めてです。社会全体の様子や動き、とくに人々の価値観や世間の考え方に合わせた私たちらしい挑戦を続けていきます。

 ──社内に向けた取り組みはいかがでしょう。

 新地 芝浦グループの人事・福利厚生面では、休日をしっかり増やしていくという計画を昨年末の総会で社員に発表しました。実は湯布院の計画の背景には保養施設として社員に利用してもらいたいという想いもあります。湯布院は福岡や北九州、熊本、大分など芝浦グループの九州の各事業所から2時間以内で行ける好立地です。

 また、幅広い事業領域を持つ芝浦グループだからこそできる「グループ内転籍制度」についても社員向け相談会を3カ月に1度開き、相談日程や受付方法、連絡先などを相談会開催の都度積極的にアナウンスしています。社員が自分から相談してくれるのが理想ですが、言い出しにくい気持ちも十分理解しています。そのため、経営側から積極的に声をかけるよう心がけています。なかには、想いを吐き出したら落ち着いたというケースもあり、この活動の意義を実感しています。

 社員の言葉を聞く仕組みとして、グループ各社の新入社員を対象に、最初の3カ月~半年の間、毎月30分のヒアリングを行うメンター制度の導入も計画しています。芝浦グループホールディングスの社員がメンターとなり新入社員の発言を待つのではなく、積極的に尋ねるようにしています。ネガティブなメッセージや黄色信号が発せられたときには、問題解消のために働きかけます。このように、所属会社の上司とは別のチャネルを設けることは非常に重要です。

 昨年に引き続き、今年もまた人材確保についての課題、人と向き合う1年になると思います。人は経営の要であり、経営者として人と向き合う姿勢を示し続けなければと、強く感じています。

【文・構成:茅野雅弘】


<COMPANY INFORMATION>
代 表:新地洋和
所在地:福岡市中央区那の津3-9-1
設 立:2009年3月
資本金:7億450万円(資本準備金を含む)
売上高:(24/7単体)77億9,300万円


<プロフィール>
新地洋和
(しんち・ひろかず)
1979年生まれ。北九州市出身。2002年、芝浦特機(株)入社。(株)ニューガイアおよびニューガイアエナジー(株)代表取締役を経て、17年、芝浦グループホールディングス(株)代表取締役社長就任。22年10月、同社代表取締役社長兼CEO就任。

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