国・県を挙げた魅力発信へ期待 処遇改善を進め人材確保へ(前)
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西日本圧接業協同組合 理事長
全国圧接業協同組合連合会 会長
松本一彦 氏第3次担い手3法が2025年度に施行予定だ。建設業、なかでも専門工事業界において、担い手確保が急務となっている。主に鉄筋ガス圧接継手を手がける岡山以西の中国、四国、九州、沖縄各県の会員で構成される西日本圧接業協同組合(以下、西圧協)の理事長で、このたび、その上部団体で北海道、関東、中日本、関西、西日本の5つの協同組合で構成される全国圧接業協同組合連合会(以下、全圧連)の会長に就任した松本一彦氏に、職人不足への対応策について話を聞いた。
担い手3法に期待
西日本圧接業協同組合 理事長
全国圧接業協同組合連合会 会長
松本一彦 氏──業界団体としての取り組みについて、お聞かせください。
松本 全圧連は、第7次構造改善計画(2020~24年度)が今年3月で終了し、25年度から5年間を第8次構造改善計画としてスタートします。「信頼できる技術集団を目指して」をテーマに、圧接業界はどのように変化していくのか、希望と新たな挑戦が待ち受け、大きな飛躍を目指してまいります。そのためにも、職人不足が喫緊の課題であり、担い手をいかに確保していくか、さらには育成をしていくかが、一番大事だと思っております。
我々の仕事も他産業と同様に機械化が進んでいます。しかし、すべてが機械化できるものではなく、やはり人による技術が必要になります。若手職人を採用してこの技術を習得・継承させることによって、今後の日本のインフラ整備の一端を担う専門工事団体としてあり続けなければなりません。
建設業界は、24年4月より時間外労働の罰則付き上限規制が適用となり、「働き方改革」への意識変化にともない、建設業法・入札契約適正法・公共工事品質確保促進法の3法改正による第3次担い手3法が同年6月に成立しました。
今回の法改正の背景にあるのは、日本の就労人口が減少するなかで、他産業より賃金が安く労働時間も長いことで建設業界の人手不足がとくに顕著になり、ひいては社会インフラ整備や防災減災・災害復旧に尽力する担い手不足が懸念されることがあります。同法の概要は、「労働者の処遇改善」「資材高騰にともなう労務費へのしわ寄せ防止」「働き方改革と生産性向上」であり、25年末からの施行に向けて、中央建設業審議会が「労務費の基準」を作成し勧告を行う予定です。
そのなかでも、まずは土木・建築の双方に関係する職種である「鉄筋」と「型枠」業界についての基準労務費の検討が開始されており、全圧連もすでにヒアリングに参画して国主導で基準労務費の作成に入っています。重層下請構造の建設業界においては、処遇改善に向けた適正な労務費を確保し、受け取った労務費を原資として技能者へ適正な賃金を確実に支払えるようにしていくことが求められています。基準労務費による標準見積書を作成することで、能力に応じた適切な労務費の確保と賃金の支払いを行うべく、関係団体に理解を求めて対応していかなければなりません。現在、国が制度づくりを行っており、その確立が今年の一番の目玉となるでしょう。
課題は若年者採用
──専門工事業を含む建設業界の課題について、お聞かせください。
松本 課題は、やはり若年入職希望者が少ないことでしょう。その原因は、先ほども述べましたが、他産業と比べて収入が低いうえ、労働時間も長いことにあります。週休二日の学生時代を過ごしている今の高校生や大学生が就職の条件面でとくに重視しているのは休日で、最低でも年間120日を基準にしていると聞きます。他産業ではもはや完全週休二日制が当たり前になっていますが、建設業界全体では4週6休が約44%で半分にも満たず、4週8休に至っては公共工事で18%、民間工事で5%ほどという国交省の統計も出ています。業界として完全週休二日制の導入はまだまだ進んでおらず、いまだ日給月給制の企業も多いのが現状です。一方で、社会保険加入問題にしてもそうですが、国交省が進める政策に沿って実行している企業ほど受注競争が厳しくなっているというジレンマもあります。
──若年入職者および職人不足への対策をお聞かせください。
松本 若年入職者の獲得には、週休二日制および安定した月給制、その企業に入ってからの将来設計、つまりライフプランが見えるかどうかが大事だと考えています。たとえば当社(栄進工業(株))では、採用の際にライフプランを提示しております。入社後何年でこのような資格が取れ、その場合には資格取得手当の付与や家庭を持ち子どもが生まれた場合の諸手当など、細やかに示しています。また、全圧連としてもキャリアルートを明示しています。
ほかには、(一社)建設技能人材機構(JAC)に加盟し、インドネシアやベトナムなどを対象国として現地に赴き説明会を行い、採用につなげています。人材確保において、外国人にも頼らざるを得ない状況です。当社でも毎年高卒採用を行っておりますが、それと併せて昨年よりミャンマーからの人材を受け入れています。しかし、今の日本は諸外国に比べて賃金面のほか、さまざまな条件が劣っており、募集をすれば簡単に入ってくるということはありません。今後、外国人就労者についても圧接技術を継承してくれる担い手としても育成していくことが求められますので、日本の若者だけではなく外国人に対しても、選ばれる魅力のある建設業界であることが不可欠です。
西圧協では、技能者のレベルを向上させるために、技能大会を毎年開催しております。企業ごとに選手を選抜し、学科および実技で競うもので、選手らは日々訓練を重ねて挑みます。自身の会社を代表して参加しますので、各人のモチベーションアップにつながっていると思います。また、大会はほかの選手の良いところを学べる場でもあり、回を重ねるごとにレベルは間違いなく向上しています。優勝者はもとより、それぞれが技術を身に付けたことが自身の誇りになるでしょう。また、選手に技術を教える指導員強化にもつながります。
ほかに西圧協では技術の標準化を図るため、指導員による同業他社の現場の安全面を含めたパトロールなども実施しており、他社の良いところなどを自社に吸収するなど、好影響をもたらしています。青年部と技術員で技術委員会を立ち上げ、定期的な勉強会を開催しております。技能大会は現在、西圧協のみが行っていますが、今後、関東圧接業協同組合など4団体にも大会開催を促すとともに、いずれは全国大会なども開くことができればと思っています。
2024年ガス圧接技能大会 (つづく)
【内山義之】
<プロフィール>
松本一彦(まつもと・かずひこ)
1966年1月生まれ、熊本県天草市出身。84年3月、熊本県立天草高等学校卒業。同年4月、栄進工業(株)に入社。2006年3月に同社統括営業部長、10年3月に専務取締役を歴任し、13年3月に代表取締役に就任。社外でも、西日本圧接業協同組合の理事長(12年5月就任)や、全国圧接業協同組合連合会の会長(24年5月就任)などの要職を務める。月刊まちづくりに記事を書きませんか?
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