【連載】コミュニティの自律経営 広太郎さんとジェットコースター人生(25)
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元福岡市職員で、故・山崎広太郎元市長を政策秘書などの立場で支えてきた吉村慎一氏が、2024年7月に上梓した自伝『コミュニティの自律経営 広太郎さんとジェットコースター人生』(梓書院)。著者・吉村氏が、福岡市の成長時期に市長を務めた山崎氏との日々を振り返るだけでなく、福岡県知事選や九州大学の移転、アイランドシティの建設などの内幕や人間模様などについても語られている同書を、NetIBで連載していく。
政務調査費騒動
(1)平成19年(2007)12月18日 政務調査費返還請求住民訴訟(対象:8会派29議員)
(2)平成21年(2009)6月15日 返還命令取り消し事件
(3)平成22年(2010)1月18日 支払い請求事件この当時は政務調査費の不正使用が次々と暴かれ、マスコミを賑わせていたが、福岡市議会も例外ではなかった。小さな不正が綻んで、議員辞職に至る例もありで、手をこまぬいていると議員が身分を失うことにもなりかねず、制度の適正運用の要請も含め、議会事務局職員としても腹をくくって議員と向き合わなければならなかった。
そういうなか、郵便切手を大量購入して、後に現金化し他の目的に流用するという事例が生じ、マスコミにも取り上げられていた。実費弁償の原則にも悖る一方で、虚偽の報告も重なった。議長に報告し代表者会議を経て返還を求めたが応じないため、市長による返還命令に至った(政務調査費制度は議会の自律性を担保するため、市長の関与は抑制的な建て付けだったが、やむを得なかった。当該議員は所属会派を除名となったが、返還命令の取り消しを訴え提訴に至った)。
(2)議会側としては、時効も踏まえ、早期の債権回収が重要であり、福岡市が有する返還請求権と当該議員が有する政務調査費請求権を相殺し、債権回収を図った。政務調査費の重要性を踏まえれば実に悩ましい判断だったが、返還の見通しもないなか、議員におもねらず、果断な対応だったと思う。この件も訴訟に至った。
(3)もちろん、いずれの案件も後に市が勝訴している。この手の訴訟対応はおそらく全国的にも例がなかったと思うが、調査法制課がほぼ自力でやった。衆議院法制局派遣組がいて、法制執務能力は執行部を凌ぐ力量だったと思う。僕はこのころ、在籍5年目で異動の話があったが、政務調査費返還に関する住民訴訟案件(1)も抱えていて、辞退した。
この事件では実に不愉快なこともあった。この種の案件は機動的に動ける次長職が正副議長や各会派間を走り回ることになるが(この件はとくに悪質だったので、僕自身が強い姿勢で臨んではいた)、件の議員の同僚議員から、「お前のことは人事に報告している」「お前はしまやかす(終わらせる)」と恫喝された。強面の長老議員なので、心中穏やかならざるものがあった。パワハラもいいとこで、腹に据えかねるところもありで、よほど法務局の人権相談所に話してみようかと思ったりしていた。
このころは、体調は復調していたし、軽い向精神薬の服薬のみだったが、議会棟のエレベーターに立つのは不安だった(議会事務局への異動以降、行政棟のエレベーターは一切使っていなかったし、そもそも行政棟に立ち入ることもほとんどなかった。経営補佐部長で挫折し、広太郎さんの落選以後も居残り、人目に触れることに抵抗があったし、議会事務局‐正副議長室‐各会派の控え室‐議場を走り回っていれば次長職は務まった)。しかし、何よりこのころは、外での活動も充実しつつあったので、乗り切れたのだと思う。
議会事務局研究会
議員と議会事務局職員が自治体議会改革の車の両輪であるために、議会事務局の体制強化が不可欠であり、議会事務局も改革の客体ではなく主体になるべきと、平成21年(2009)3月、駒林良則・立命館大学議会事務局研究会法学部教授の呼びかけで「議会事務局研究会」が発足していた。伊万里市議会の盛泰子議員からのお誘いを受けて、平成22年中途から参加させていただき、平成23年3月の最終報告では、「議会改革時代の議会事務局のミッション」を寄稿させていただいた。このころ学んでいたドラッカー思想の知見やファシリテーションなどを駆使して、活動した。挫折を乗り越え、一皮むけてきた時期だったかもしれない。
〇平成23年(2011)6月11日「第1回議会事務局研究会シンポジウムin京都」
★もやい九州の仲間の近松和博さんのサポートを得ながら、初めての本格的なコーディネーターを務めた。好評をいただき、同様のお役が回ってくるようになった。〇平成24年(2012)6月16日「第2回議会事務局研究会シンポジウムin大阪」
★パネラーとして登壇したが、尊敬する元鳥取県知事/元総務大臣の片山善博さんの隣の席で、大感激だった。そして、このときは僕の還暦の誕生日だった。有志の発案でサプライズの誕生会を開いていただき、赤のチャンチャンコならぬ赤いポロシャツに、それぞれの思いがこもった色紙をいただいた。忘れられない思い出である。〇平成24年(2012)11月2日 第7回マニフェスト大賞地方議会部門
「優秀賞及び審査委員会特別賞を受賞」
★ローカル・マニフェスト運動には関わっていたが、まさか議会事務局の活動で受賞できるとは思わなかった。ずっと背中を追いかけてきた北川正恭さん/当時早稲田大学マニフェスト研究所長に褒めていただき、記念撮影にも納まって大満足だった。このほかにも、いろいろ声がかかって、市役所退職後も全国あちこち駆け回った。
〇平成28年(2016)8月18日「伊万里市議会議員研修会公開講座」『今、地方議会に求められるもの~議会基本条例の意義』
★議会改革の学識経験者ツートップである廣瀬克哉さん/現法政大学総長、江藤俊昭さん/現大正大学教授をお招きしての講演会。当時伊万里市議会議長だった盛泰子さんの肝いりでの議員研修会がフルオープンで開催されて、コーディネーターを務めさせていただいた。栗山町議会基本条例の制定から10年目を迎えての研修会でもあり、この会場には、全国初の自治基本条例であるニセコ町まちづくり基本条例制定の理論的指導者である元北海道大学教授/九州大学名誉教授の木佐茂男さんが参加されており、質問もいただいて、大汗をかいた。〇平成29年(2017)3月11日 議会基本条例10年シンポジウム『九州から問う 議会改革』
★栗山町議会基本条例制定10周年記念の一連の取り組みのしんがりとして、当時東京財団研究員/元栗山町議会事務局長の中尾修さんの要請を受けて取り組みを企画・開催し、総合司会を務めさせていただいた。(つづく)
<著者プロフィール>
吉村慎一(よしむら・しんいち)
1952年生まれ。福岡高校、中央大学法学部、九州大学大学院法学研究科卒業(2003年)。75年福岡市役所採用。94年同退職。衆議院議員政策担当秘書就任。99年福岡市役所選考採用。市長室行政経営推進担当課長、同経営補佐部長、議会事務局次長、中央区区政推進部長を務め、2013年3月定年退職。社会福祉法人暖家の丘事務長を経て、同法人理事。
香住ヶ丘6丁目3区町内会長/香住丘校区自治協議会事務局次長/&Reprentm特別顧問/防災士/一般社団法人コーチングプラットホーム 認定コーチ/全米NLP協会 マスタープラクティショナー
著書:『パブリックセクターの経済経営学』(共著、NTT出版03年)『コミュニティの自律経営 広太郎さんとジェットコースター人生』
著 者:吉村慎一
発 行:2024年7月31日
総ページ数:332
判サイズ:A5判
出 版:梓書院
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