【連載】コミュニティの自律経営 広太郎さんとジェットコースター人生(26)
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元福岡市職員で、故・山崎広太郎元市長を政策秘書などの立場で支えてきた吉村慎一氏が、2024年7月に上梓した自伝『コミュニティの自律経営 広太郎さんとジェットコースター人生』(梓書院)。著者・吉村氏が、福岡市の成長時期に市長を務めた山崎氏との日々を振り返るだけでなく、福岡県知事選や九州大学の移転、アイランドシティの建設などの内幕や人間模様などについても語られている同書を、NetIBで連載していく。
第7フェーズ 2011.4~2013.3
中央区役所/区政推進部長へ
議会事務局次長職は在職7年を数え、異例の長期在職となっていた。定年退職まであと2年、異動があるなら今年だと思っていたが、中央区役所区政推進部長への異動となった。考えてみると、異動先が内示までわからなかったというのは、最初の異動(博多区役所→都市計画局交通対策課)とこの最後の異動だった。いつも希望したり、呼ばれたり、不本意な異動というのはなかったということになる。福岡市は博多商人のまち「博多」と黒田如水公以降の武士のまち/城下町「福岡」の双子都市構造が大きな都市の個性であり、福岡市職員として博多区役所でスタートを切り、中央区役所でゴールを迎えるというのは、幸せなキャリアであったと思う。しかも、中央区役所での最後の仕事が、大濠まつり/黒田25騎の武者行列(僕は黒田利高役)であったことは望外の喜びだった。
区政推進部長は総務担当部長ではあるが、元々は地域支援部として発足したものであり、肝は地域支援課を所管していることだった。地域支援課には地域支援係長が4人いて、一人3~4校区を担当していた。平成12年(2000)4月の経営管理委員会の「コミュニティの自律経営」の提言から10年、平成16年(2004)4月の町世話人制度の廃止、自治協議会制度の発足から7年を経過していた。今、自治協議会制度がどこにいるのか、全くわかっていなかった。数年前に補助金制度などの一定の見直しが行われていたが、それなりに自治協議会制度が定着しつつあったころかもしれない。吉田恵子区長と一緒に全公民館/自治協議会を廻った。僕自身の関心は公民館の建て替えも進行しつつあるなかで、コミュニティの拠点として位置づけられた公民館と自治協議会の関係性だった。公民館にも人物はいるし、自治協議会にも人物はいたが、組み合わせ次第だし、中央区14校区、当然だったが、それぞれだった。区政推進部長は各校区の自治協議会の会長さんたちのお付き合いが中心になってしまって、どこか隔靴掻痒になるので、地域支援係長にお願いして、これはと思う自治会長を紹介してもらって、一緒にお酒を飲んだりした。さすがに地域には人がいるなと思ったが、そこまでだった。今となっては食いつきが足りなかったと、ほぞを噛む思いである。
中央区選挙管理委員会事務局長
区の総務担当部長は区選挙管理委員会事務局長を兼務する。選挙は、若いころに投・開票事務の従事経験の一方で、候補者側の経験もあった自分が、まさか区とはいえ、選挙管理委員会事務局長を拝命することになるとは。しかも公務員としてのラストステージで。運命のいたずらに驚いた。これで、選挙については、図らずもオールラウンドプレーヤーになった?最初の年に統一地方選挙。これは異動直後なので、お膳立てはすべて終わっていて、告示日から投・開票までベテランがうまく廻してくれていたので、邪魔にならないように見守るだけだった。驚いたのは、選挙管理委員会の専任スタッフはわずかで、短期集中する事務量はとてもこなせないのだが、OBが自分の仕事が終わったあとや土日に自主的に集まってきて、手伝ってくれること。それが順送りになって選挙事務が回っていることだった。
そして2年目、参議院選挙は翌年で、年内の衆院選はないとの見方が強かったが、前官房副長官の古川貞二郎氏の西日本新聞「堤論」を読んで、僕は年内解散・総選挙を確信した。なので、事務局スタッフに無駄骨覚悟で準備を始めるよう指示した。これは図に当たって、師走の衆議院選挙となり、1週間のフライングは役に立った。不在者投票や郵便投票などの実務を見させてもらったが、郵送でのやり取りなので、かなりまどろっこしいものだった。ここら辺はカイゼンの余地多々ありだろう。オフィス街の中央区なので、不在者投票に来られる方もいらっしゃって、ほかの区では経験できないことだったかもしれない。この衆議院選挙は、政治改革に身を投じたものとして、初めて本格的な政権交代を実現した民主党が政権を失い、しかも解散に打って出たときの総理が日本新党出身で、僕が最も期待していた野田佳彦氏であったこと、その後の悪夢のような安倍政権が続くきっかけとなった選挙で忘れられない。それも一切の選挙運動が禁じられる選挙管理委員会事務局長のときなのだから、皮肉としか言いようがない。
Facebook 公式ページ「情報発信中央区」の開設
平成23 年(2011)11月22日、福岡市役所初の公式Facebook ページ「情報発信中央区」がスタートした。当時(今も?)Facebook にはまっていた僕は、区役所の情報発信ツールとしてのFacebook の可能性に注目していた。担当を区の広報を所管している企画振興課にお願いしたが、Facebook を利用している職員は少なかった。いろいろ心配していたが、8月には当時Facebook 課があった武雄市役所の樋渡啓祐市長を訪問し、懸念を一掃してもらった。そのとき秘書課スタッフとして同席してくれていたのが、今や武雄市長の小松政さんであり、江北町長の山田恭輔さんである。強力な援護をいただいて、案ずるより産むが易しということで、僕の投げかけから半年後の11月22日スタートとなった。
今も発信を続けてくれており、フォロワー数は3,394人。決して多くはないが、現在はあのころと違って、LINEもインスタもSNS乱立の時代ですから致し方なし。福岡市役所で最初の公式Facebook のページを立ち上げたのはちょっと自慢である。
定年退職
平成25年(2013)3月31日、合計33年務めた福岡市役所を退職した。2度目の退職だが、今度は定年退職でそれなりの感慨もあった。また、退職後は福岡市を離れて働くことにしていたので、本当の福岡市役所/職員とのお別れだった。区政推進部長時代は、個々の職員との会話の時間がちゃんと取れないので、その代わり?ほぼ毎日、部職員全体に『ドラッカー365の金言』を中心に、ドラッカーの箴言をひとつ紹介し、自分の思うところを書き添えたもの(……自画自賛で恐縮だが、毎朝これを読んで、今日も一日頑張ろうと思っていたと言ってくれている職員もいた)をメールで一斉送信していたので、最後の日もさよならメールを送った。残念ながら、控えを残していないので、どういう気持ちで定年退職を迎え、どういうメッセージを部の職員に送ったのか、今となっては確かめようがないのは残念だ。タイムカプセルを開いてみたかったかな?
当時のメールを受け取ってくれた職員の記憶では、「自分の将来と可能性を誰よりも自分が信じ期待すること」というメッセージがあったと、先日教えてくれた。心の底からそう思い、とくに若い職員にいつも言っていたことなので、大いに納得。
退職時の確信 ~政治・行政の究極的な役割は市民の力を引き出すことにある~
この言葉は、今となっては、広太郎さんから教えてもらった一番大切なメッセージである。
これを聞いた当初は、もちろん異論があろうはずはなく、それはそうだろうと、その深さを吟味せず納得していたつもりだった。しかし、定年退職の2、3年前からファシリテーションによる対話の場の必要性や可能性が喧伝され、いわゆるファシリテーターの方々ともたくさん接することとなっていた(恵まれたことに、福岡には田坂逸郎さん、加留部貴行さん、山口覚さんなど、全国屈指の有能なファシリテーターが存在していた)。場数を踏んでいるうちに、ファシリテーターがやっていることは、結論への誘導ではもちろんなく、その場に参加している人が全て適任者との前提で、その場の参加者の思いや力を引き出し、その場に新たな気づきや力が生まれていることだと気が付いた。そして市役所のミッションこそが、これなんだと確信した。どうしてもノイジーなマイノリティに目が向かいがちな行政であるが、サイレントマジョリティの賢明さ、その力を引き出すことの大切さを改めて気づかせてくれた。
おかげで僕は、「政治・行政の究極的な役割は市民の力を引き出すことにある」という言葉を心の底から確信を持って公務員生活を終えることができた。そして、そのことに、ある種感動すら覚えていたし、幸福感にも満たされていた。やがてこのことは、僕の人生のセカンドカーブに大きな影響を与えつづけることになる。その後経験する介護の世界でも共通のものであり、コーチングの学びでも同様、あらゆる場面で「引き出す」ことの大切さを教え続けてくれている。
(つづく)
<著者プロフィール>
吉村慎一(よしむら・しんいち)
1952年生まれ。福岡高校、中央大学法学部、九州大学大学院法学研究科卒業(2003年)。75年福岡市役所採用。94年同退職。衆議院議員政策担当秘書就任。99年福岡市役所選考採用。市長室行政経営推進担当課長、同経営補佐部長、議会事務局次長、中央区区政推進部長を務め、2013年3月定年退職。社会福祉法人暖家の丘事務長を経て、同法人理事。
香住ヶ丘6丁目3区町内会長/香住丘校区自治協議会事務局次長/&Reprentm特別顧問/防災士/一般社団法人コーチングプラットホーム 認定コーチ/全米NLP協会 マスタープラクティショナー
著書:『パブリックセクターの経済経営学』(共著、NTT出版03年)『コミュニティの自律経営 広太郎さんとジェットコースター人生』
著 者:吉村慎一
発 行:2024年7月31日
総ページ数:332
判サイズ:A5判
出 版:梓書院
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