【連載】コミュニティの自律経営 広太郎さんとジェットコースター人生(28)

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 元福岡市職員で、故・山崎広太郎元市長を政策秘書などの立場で支えてきた吉村慎一氏が、2024年7月に上梓した自伝『コミュニティの自律経営 広太郎さんとジェットコースター人生』(梓書院)。著者・吉村氏が、福岡市の成長時期に市長を務めた山崎氏との日々を振り返るだけでなく、福岡県知事選や九州大学の移転、アイランドシティの建設などの内幕や人間模様などについても語られている同書を、NetIBで連載していく。

コーチングとの出会い

 還暦を超えた身での往復100km、2時間の車通勤は、次第に負担となってきたが、それ以上に辛かったのは、毎日のように続く職員との面談だった。ほとんどが離職の希望だったり、職場内のトラブルの事情聴取だったり、仲裁だったり。みんなギリギリのところでやっているので、ちょっとしたことが大ごとになる。公務員時代はどんなに揉めたところで、離職はまずなかったが、介護業界の流動性が極めて高いこともあって、ちょっとした揉め事も離職に直結する。1人の離職は、ただでさえギリギリの要員でこなしている職場を疲弊させ、離職の連鎖に直結する。内心、離職は致し方なしとは思っても、欠員となる職場の状況からすると何とか踏みとどまるように説得するしかない。

 僕のポケットにはお金も人も入っていないのに、しかも答えがほとんど当事者のなかにあるのに、何とか自分が解決しようと悪戦苦闘した。僕には、決定的に聴く力が欠けていることにも気が付いた。次第に自分自身のなかでのストレスも重たくなってきて、随分久しぶりにかかりつけ医だった心療内科でお薬を処方してもらったりもした。

 こうなってくると往復100 kmの通勤も辛くなる。「やっぱり市役所のお世話になって、通勤が楽で手慣れた仕事をやっておけば良かったかな」とネガティブな思考の循環も回り始めていた。このストレスから解放されるためにも、コミュニケーションを根本から学ばなければならないと痛感し出していた。

 以前から、NLP(神経言語プログラミング)には関心があり、単発のセミナーは受講していたが、腹を据えて学ぼうと、平成27年(2015)3月から10回連続講座「NLPプラクティショナー」を、10月には「ファウンデーション/ストレングスセミナー」、2016年3月から「NLPマスタープラクティショナー」の10回連続講座を受講。またmyコーチの丸本さんの紹介で、大好きな奈良の地、しかも東大寺のお水取りの期間に開催される「寧楽さろんスペシャルセミナー」にも2016~2017年と2年続けて参加し、次第に「ファウンデーション(自己基盤を整える)」にも興味関心が広がり、2017年末からは岡山で開催されるFBC/WEST主催「FBC実践講座」の「ファウンデーションコース」「コーチングコース」を2年がかりで受講した。その合間の2018年、2019年の夏にはさらに憧れの地、明日香村での「対話セミナーin飛鳥」にも参加するなど、セミナーまみれで財布の底はすっからかんに抜けたが、得たものは大きかった。

 何より自分を知ること、理解することの大切さ、それが、他者理解につながり、他者への貢献も生まれる。空海が空海密教の核心としたものがまさに、「如実知自心」=ありのままの自分を知ることであったし、般若心経の「観自在」も同じである。おかげで今、週に一度の臨済宗/萬松山/承天禅寺さんの早朝座禅で「今ここ」を堪能している。

 この一連の学びでつながった「&Reprentm」の國弘望さんと安増美智子さんは、今僕のmyコーチである。丸本昭さん以降、歴代myコーチとセッションを続けているが、このコンビはなかなか辣腕である。

 ゴミの山と化していた、地下のアジト(書斎)の整理と再構築が、この10年来の片付かない課題だった。そして永年の懸案だった本の出版構想も浮上しつつあった。そこで彼女たちは、僕の「褒められたがる」「観られたがる」という資質をテコに、71回目の誕生日の6月16日に、出版構想と地下のアジト再構築披露会を開くという目標設定を投げてきた。これは効いた。この10年間、何度も挫折し、今回も挫折しそうになっていたことを今回はやり抜いた。おかげで約束通り、6月16日に出版構想とアジトの再構築披露会を無事に開催できた。そして、今、快適な地下のアジトで、本の出版に向けての執筆活動は順調に進んでいる。

 さらにこれには尾ヒレがついた。大好きな奈良でのコーチングの先生大川郁子さん、学びの仲間の久吉猛雄さんとの語らいで、「本はいつでき上がるのか、目標を決めましょう」と来た。目標は決めずにゆっくりやろうと思っていたが、年内が目標だから、奈良/東大寺のお水取りのときに出版報告会をやりましょうと、言ってしまった。まだ一文字も書いていなかったのに。モチベーションはいくらあっても困らない。コーチングの「引き出す力」恐るべし。

卒業証書 平成30年(2018)4月27日

 「あなたは入職以来事務長として、持ち前の人なつっこさと巻き込み力でさまざまな取り組みを重ね、ありがとうの文化を育み、当法人の発展に大きく貢献されました。その功績をたたえるとともに、暖家の丘の心を体得した者として卒業生の称号を得たことを証します。」

〈ありがとう基金の創設〉

 退職にあたって、規程以上の退職金をいただいたので、そのなかから拠出して、「ありがとう基金」をつくってもらった。「暖家の丘の心」である「『ありがとう』で伝える感謝の心」が、より法人内の職員に定着し、広がるよう、「認めて、褒めて、励まし合う運動」に発展することをその目的とし、ありがとう大賞の発表・顕彰を行う経費にあてる。これは今でも、年末に実施していただいているらしい。

 後任の事務長が見つからないままだったが、往復100kmの通勤は体力的にも限界だったし、何より高齢の両親の介護も必要になってきたので、ちょうど丸5年を区切りに、事務長職を引かせていただいた。快くご理解いただき、送り出してもらった。盛大な卒業式、職員の皆さんの心のこもったメッセージや動画を胸に心置きなく田川の地を離れた。後に理事を委嘱され、年に何度か、香春岳、福智山、英彦山などの筑豊の山々を眺めに、八木山峠、烏尾峠を越えてのドライブを愉しんでいる。

 ジェットコースターはまだゴールに辿り着いていないが、これから先は、第4章、第5章に譲り、第1章をここで閉じさせていただく。

(つづく)


<著者プロフィール>
吉村慎一
(よしむら・しんいち)
1952年生まれ。福岡高校、中央大学法学部、九州大学大学院法学研究科卒業(2003年)。75年福岡市役所採用。94年同退職。衆議院議員政策担当秘書就任。99年福岡市役所選考採用。市長室行政経営推進担当課長、同経営補佐部長、議会事務局次長、中央区区政推進部長を務め、2013年3月定年退職。社会福祉法人暖家の丘事務長を経て、同法人理事。
香住ヶ丘6丁目3区町内会長/香住丘校区自治協議会事務局次長/&Reprentm特別顧問/防災士/一般社団法人コーチングプラットホーム 認定コーチ/全米NLP協会 マスタープラクティショナー
著書:『パブリックセクターの経済経営学』(共著、NTT出版03年)

『コミュニティの自律経営 広太郎さんとジェットコースター人生』
著 者:吉村慎一
発 行:2024年7月31日
総ページ数:332
判サイズ:A5判
出 版:梓書院
https://azusashoin.shop-pro.jp/?pid=181693411

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