【連載】コミュニティの自律経営 広太郎さんとジェットコースター人生(31)
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元福岡市職員で、故・山崎広太郎元市長を政策秘書などの立場で支えてきた吉村慎一氏が、2024年7月に上梓した自伝『コミュニティの自律経営 広太郎さんとジェットコースター人生』(梓書院)。著者・吉村氏が、福岡市の成長時期に市長を務めた山崎氏との日々を振り返るだけでなく、福岡県知事選や九州大学の移転、アイランドシティの建設などの内幕や人間模様などについても語られている同書を、NetIBで連載していく。
◇印が広太郎さんの草稿 ◆印は僕が見てきた景色の対比である。
大規模事業点検
◇12月の初議会での質問の多くが、私が公約に掲げた大規模事業の点検に関わるものでした。私は議会終了後ただちに点検体制の検討に入り、正月を挟んで平成11年1月7日10人の若手の部課長からなる市長直属の事業点検プロジェクトチームを発足させました。さまざまな既成事実やしがらみに取り巻かれているであろうプロジェクトを、鋭い問題意識と若い斬新な感覚で点検して欲しいという気持ちを込めてのスタートでした。しかし、彼らの苦労や苦悩は想像以上のものがありました。それほどに一度動き始めた仕事を途中で点検したり、ましてや変更したり、やめたりすることは途方もないエネルギーを必要とします。点検はまず、点検の方針、点検対象の検討を行い、4月20日、100億円以上の「市街地整備等の基盤整備」として(1)アイランドシティ整備事業、(2)地下鉄3号線建設事業、(3)香椎駅周辺土地区画整理事業、(4)九大移転先関連事業、(5)渡辺通・春吉地区市街地再整備構想。40億円以上の「都市施設」として(6)鮮魚市場の再整備、(7)国際会議場、(8)武道館機能を有した市民体育館、(9)グリーンヴィレッジ構想、(10)自然動物園構想の5事業ずつ、計10事業を選定したことを発表しました。また、(1)社会経済状況や市民ニーズの変化などにより事業の意義、必要性が薄れていないか。(2)事業目的に即した効果が期待できるのか。規模、機能は適切か。(3)効率的な計画となっているか。採算性はどうなのか。(4)厳しい財政状況や市民ニーズを踏まえ事業の実施時期、実施期間は適切か。これらを点検の柱として位置づけ、併せて市民意見を募集し参考としました。点検結果は9月に素案を公表し、議会や関係者の意見を聞いたうえで、最終的には12月に事業の方向性について発表させていただきました。この事業点検では上記の視点で検討したものを継続、変更、縮小、凍結等、事業の方向性について私が判断するという方法をとりました。
点検結果で再検討とさせていただいた武道館機能を有した市民体育館、自然動物園構想、グリーンヴィレッジ構想の3つの事業についてはあらゆる角度から検討を行い、「武道館機能を有した市民体育館」は建設計画案を中止し、歴史もあり市民になじみの深い九電記念体育館を九州電力から無償譲渡いただき、市の体育館として活用させていただくことになりました。多額の投資を行い、新たな体育館を建設することなく、市民に新たな体育館を提供できることになり、まさに私が提唱してきた「つくる」行政から「活かす」行政の象徴的な取り組みができたと思います。また、残念ながら自然動物園構想とグリーンヴィレッジ構想は取りやめさせていただくことといたしましたが、地域活性化に向けて地元の期待も大きなものがあり、今後地元の皆さんとしっかり現実的な地域振興策について取り組んでいくつもりです。
今回の事業点検によって1,000億円を超える事業費の削減を行いました。どれだけ削減したかということはもちろん大切なことですが、一度決めたことであっても時間の経過とともに随時、事業を多面的に見直し、より現実的に、効率的で完成度の高いものに仕上げて行く、そして時には、大胆に反転するという仕事のやり方の転換のほうが、長い目で見た場合市政におけるインパクトとしては大きかったのではないかと思っています。こうした手法は、これまでの行政ではある種タブーに等しいものがありました。しかし、新たなスタートを切るうえで、このようなタブーに挑戦したこともまた大事なことでした。今後はこのような大規模な事業については、普段の見直しや点検が行われるような計画スキームを定着させたいと思っています。また、市民の皆さんへの情報開示と説明責任を踏まえた事業評価の仕組みも構築して行きたいと考えています。
◆この大規模事業点検は、前年(平成9年/1997)から始まって注目を浴びていた北海道庁の「時のアセスメント」に発想を得ていた。なので、公約にも「福岡版 時のアセスメント~大規模事業一斉再点検」としていた。そもそも「時のアセスメント」という言葉は、「時代の変化を踏まえて公共事業を評価し直すような仕組みをつくりたい」との道職員の投げかけに、作家/倉本聰氏が発案したもので、平成9年の北海道庁仕事始めで、堀達也道知事が道職員への新年挨拶で初めてこの言葉を使って、一挙に注目が集まったといわれている。北海道庁の検討体制は、対象施策を所管する部局長と副知事の間で行う、道庁内部での検討だった。
広太郎さんは、12月7日の市長初登庁時の記者会見で、財政再建の柱として(1)大規模事業プロジェクトの一斉点検と見直し、(2)経営管理室(仮称)の設置を表明し、「ただちに市長直属の再点検プロジェクトチームを編成し、再点検の視点や目標、期間、対象などのフレームを定め、取り組みます。その内容については情報を公開し、学識経験者や市民の意見を反映させるための委員会の設置も検討していきます。国際会議場などの未着手事業は当面凍結の措置を執り、再点検を行ったうえ、事業の選別を行います」としていた。記者会見での質問に対して、市長は、「大型プロジェクトの実態をつかむ必要がある。第三者的にスタートすると行政は防衛に走るので、むしろ、内で正確に把握することが大事だと考えている。そのうえで学識経験者を入れ意見を聞くなどの段階を踏むべきと考えている」と答弁している。もう一本の柱である「経営管理室」の設置について、「企業経営に精通した民間人からの人材を公募する」としていたので、柱の2つとも外部というのはいかがなものかとの意見もあったように記憶している。それぞれの大規模事業は当然のことながら、それなりの時間をかけて地域を巻き込み、議員の後ろ盾を得て進んできたものであり、第三者という弾除けがないままの再点検作業は、チームの部課長メンバーに多大なプレッシャーを与え続けたことは容易に想像できる。
8月に「経営管理委員会」が立ちあがったので、学識経験者の立場を含め、委員への意見聴取が検討されたが、経営管理委員会としては、個別事業の是非には関わらないということで、実現しなかった。
秋ごろだったと思うが、チームの座長だった渡辺正光/後の副市長(故人)さんが、僕の席を訪ねてきて、「このままじゃ、目に見える成果が出せない」と訴えてこられたが、僕も経営管理課の業務で忙殺されており、力なく「頑張ってください」と返事するしかなかった。
中間とりまとめの時点での凍結の判断は、いずれも市長の政治判断だったと、後に聞いた。
<平成11年(1999)>
1月7日 事業点検プロジェクトチーム発足
4月20日 事業点検方針公表(国際会議場についてはコンペの中止を発表)
5月17日〜6月7日 市民意見募集
8月 中間取りまとめ
9月 各会派に事業の方向性に関する(素案)を説明
第一会派自民党、第二会派福政会から意見書の提出
9月10日 市民意見・提案のまとめを公表
12月21日 事業点検結果の公表、市民意見・提案に対する考え方を公表
<平成12年(2000)>
2月1日 市政だよりに概要掲載(つづく)
<著者プロフィール>
吉村慎一(よしむら・しんいち)
1952年生まれ。福岡高校、中央大学法学部、九州大学大学院法学研究科卒業(2003年)。75年福岡市役所採用。94年同退職。衆議院議員政策担当秘書就任。99年福岡市役所選考採用。市長室行政経営推進担当課長、同経営補佐部長、議会事務局次長、中央区区政推進部長を務め、2013年3月定年退職。社会福祉法人暖家の丘事務長を経て、同法人理事。
香住ヶ丘6丁目3区町内会長/香住丘校区自治協議会事務局次長/&Reprentm特別顧問/防災士/一般社団法人コーチングプラットホーム 認定コーチ/全米NLP協会 マスタープラクティショナー
著書:『パブリックセクターの経済経営学』(共著、NTT出版03年)『コミュニティの自律経営 広太郎さんとジェットコースター人生』
著 者:吉村慎一
発 行:2024年7月31日
総ページ数:332
判サイズ:A5判
出 版:梓書院
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