FIP制度と蓄電池が切り拓く電力ビジネスの可能性 九州で際立つ出力抑制がもたらす妙味

FIPと蓄電池の基本

 再生可能エネルギー(再エネ)の市場が変化するなか、2022年に始まった「FIP(フィード・イン・プレミアム)制度」が新たな選択肢として浮上している。FIT(固定価格買取制度)の後継として、市場価格にプレミアムを上乗せするこの仕組みは、蓄電池との組み合わせで収益機会を広げる可能性がある。FIPの仕組みは明快だ。発電した再エネ電力を市場で売却し、その価格にプレミアムが加わる。FITが固定価格で安定性を提供したのに対し、FIPは市場変動に連動する柔軟性が特徴。

 たとえば、24年度の電力市場では、昼間のピークで1kWhあたり50円超、夜間は10円以下という場面もあった。蓄電池があれば、低価格時に充電し、高値時に放電して差額を利益に変えられる。これが売電タイミングの最適化だ。さらに、出力抑制時でもプレミアム計算で低価格帯(0.01円/kWh)が調整されるため、一定の収益が確保される点も見逃せない。

FIPプレミアム単価
FIPプレミアム単価

出力抑制がもたらすチャンス

 九州での展開はとくに注目だ。経済産業省のデータによると、23年度の九州電力管内の出力抑制は約1.76TW時で全国最多。太陽光発電の普及で供給過多となり、抑制が常態化しているこの地域では、FIPのプレミアムが相対的に高まる。Tensor Energyの分析でも、九州は市場価格が極端に低い時間帯が多く、プレミアム効果が顕著とされる。蓄電池を活用すれば、抑制で売れない電力を貯め、需要ピーク時に売却できる。空き地や屋根を使った太陽光と蓄電池の導入なら、年間数百万円の収益も視野に入る。

 国の支援も追い風だ。「需要家主導型再エネ電源併設型蓄電池導入支援事業」で、設置費の3分の1程度を補助し、25年度も予算が予定されている。初期投資のハードルが下がるのは大きな利点だ。さらに、九州電力管内の24年夏の電力逼迫を考えれば、蓄電池によるピークカットは系統安定化にも役立ち、副次的な価値を生む。

5年で投資回収の試算も

 ただし、リスクも冷静に評価する必要がある。市場価格の変動は予測が難しく、プレミアムが安定した収入を保証するものではない。蓄電池の初期投資は1kWhあたり10~15万円程度で、メンテナンスや寿命(通常10~15年)もコスト要因となる。

 九州では現在、出力抑制が多い状況だが、系統インフラの改善によって抑制が減少すれば、プレミアムの優位性が薄れる可能性もある。市場動向を見誤ると赤字リスクが生じるため、専門家の支援や事前のシミュレーションが欠かせないだろう。FIPと蓄電池は電力ビジネスの新たな道を開くものの、万能薬ではない。九州のような地域特性を生かせば機会はたしかに存在するが、市場分析と資金計画を慎重に進めることが求められる。ある事業者の試算では、10年の事業計画に対し5年で投資回収が可能との見立てもあるが、可能性を冷静に探りつつ、リスクを過小評価しない姿勢が持続的な成果のカギとなるだろう。

【児玉崇】

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