【鮫島タイムス別館(35)】「減税派は出ていけ」と叫んだ立憲民主党の創始者・枝野幸男の真意
立憲民主党の創始者である枝野幸男元代表から衝撃的な発言が飛び出した。夏の参院選をにらんで立憲党内に広がる消費税減税論を「参院選目当てとしか言いようがない」と激しい口調で糾弾し、「減税ポピュリズムに走りたいのなら、別の党をつくってください」と言い放ったのである。
「減税派は立憲民主党から出ていけ」ということだ。立憲の創始者が減税派を「ポピュリスト」と切り捨て、離党を勧告したといっていい。
それだけではない。枝野氏は「私のつくった党は、ポピュリズムに走らない」「まっとうな有権者の、まっとうな声を受ける」とも言った。
これはさらに過激な発言である。有権者を「まっとうな人」と「まっとうじゃない人」に分け、「まっとうな人」つまりは「減税に反対する人」だけが応援してくれたらいいと開き直ったのだ。
安倍晋三元首相はかつて、街頭演説で自らにヤジを飛ばした一団を指差して「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と叫び、首相が国民を分断していると批判を浴びた。安倍氏を忌み嫌った枝野氏が今、同じ轍を踏んでいる。
そもそも枝野氏が立憲民主党を立ち上げたのは、前原誠司氏が率いる民進党が、小池百合子東京都知事が旗揚げした希望の党への合流を決めた際、リベラル色の強い枝野氏らが排除されたからだった。その枝野氏が今度は減税派を排除しようとしているのだから、立憲結党の根本が揺らぎかねない事態である。
けれどもこの発言は枝野氏個人の問題には終わらない。二大政党制のもと、選挙で幅広い支持を獲得して政権交代を目指す立憲民主党の基本戦略そのものの大転換につながるからだ。
枝野発言の背景には、自民・立憲の両党内で密かに検討が進む大胆な政界再編の構想がある。自民党と立憲民主党が政権を競い合う二大政党制に見切りをつけ、財政規律を重視する「緊縮財政派・増税派」と、景気対策を重視する「積極財政派・減税派」で永田町を再整理するシナリオだ。
自民党は派閥裏金事件で衰退し、昨年の衆院選で与党は過半数を割った。立憲民主党が増税イメージで埋没し、減税を掲げる国民民主党に支持率で追い抜かれている。とはいえ、自民党の主流派である石破茂首相、森山裕幹事長、林芳正官房長官も、そして立憲民主党の主流派である野田佳彦代表や安住淳衆院予算委員長も、財務省に極めて近い「緊縮財政派・増税派」だ。そこへ財務省も加わり、減税派に対抗する自民・立憲の大連立構想が密かに練られているのだ。
手本は、民主党政権にある。当時の野田首相は自公と消費税増税の3党合意を結び、税率を5%から8%へ、さらには10%へ引き上げる道筋をつくった。このときの財務相は安住氏、経産相は枝野氏だった。野田、安住、枝野各氏は当時、民主党内で消費税増税に反対していた小沢一郎氏を抑え込むため、財務省と結託し、さらには自公と手を握ったのである。以来、財務省とは濃密な関係を維持してきた。
枝野氏はその後、変節する。立憲代表時代に共産党やれいわ新選組と野党共闘を進め、消費税減税を公約に掲げたのだ。
ところが代表辞任後、一転して「消費税減税は間違いだった」と明言し、減税派を「ポピュリズム」と糾弾しはじめた。立憲低迷が続いて政権交代へのリアリズムが高まらず、国民民主党の台頭を許すなかで立憲党内にも減税派が再び台頭。そこで意を決して先祖返りし、自民党内の「緊縮財政派・増税派」との連携に活路を見いだそうということだろう。
冒頭の枝野発言には続きがある。終盤国会の最大の焦点となる内閣不信任案について「不信任が通って、衆院が解散したら、1カ月半の政治空白ができる」「今はアメリカとの交渉が重要だ。不信任案は出さない」と明言したのだ。
内閣不信任案の提出には衆院議員51人以上が必要だ。単独で提出できるのは立憲だけである。自公与党が過半数を割り、参院選が目前に迫るなか、提出されれば可決される可能性が極めて高い。そうなると、内閣総辞職か、衆参ダブル選挙になる。総辞職の場合、自民党内には国民民主党の玉木雄一郎代表を首相に担ぐウルトラC構想が浮かんでいる。ダブル選挙になっても躍進するのは国民民主党だ。立憲には何もいいことはない。
それならば内閣不信任案を出さなければ良い。口実は「トランプショックの国難に与野党で対処するため政治空白をつくらない」ということだ。参院選は石破自民党と戦うものの、その後は休戦協定を結んで「大連立」協議に入る――。これはもはや「石破応援団」というほかない。
私はかなり前から政局の本命は「大連立」と指摘してきた。けれどもこの枝野発言ほど本音を包み隠さず語ったものはない。大連立構想を密かに練り上げている自民党の森山氏や立憲の野田氏・安住氏らは手の内がばれて頭を抱えたのではなかろうか。
トランプショックと減税阻止を大義名分に大連立へ突き進む。二大政党制に終止符を打つ政界再編を、立憲支持層は受け入れるのか。立憲だけでなく、日本政界全体が大きな岐路に立っている。
【ジャーナリスト/鮫島浩】
<プロフィール>
鮫島浩(さめじま・ひろし)
ジャーナリスト、『SAMEJIMA TIMES』主宰。香川県立高松高校を経て1994年、京都大学法学部を卒業。朝日新聞に入社。2010年に39歳の若さで政治部デスクに異例の抜擢。12年に特別報道部デスクへ。数多くの調査報道を指揮し「手抜き除染」報道で新聞協会賞受賞。14年に福島原発事故「吉田調書報道」を担当して“失脚”。テレビ朝日、AbemaTV、ABCラジオなど出演多数。21年5月、49歳で新聞社を退社し独立。著書に『朝日新聞政治部』(講談社、22年)、『政治はケンカだ!明石市長の12年』(泉房穂氏と共著、講談社、23年)、『あきらめない政治』(那須里山舎、24年)。
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