ザイム真理教103万円プロレス興行

 NetIB-NEWSでは、政治経済学者の植草一秀氏のメルマガ記事を抜粋して紹介する。今回は「社会保障支出を圧縮し、消費税減税を否定する勢力と所得課税・法人課税強化を主張する勢力の両者が、議論を正面から闘わせることが重要だ」と論じた5月19日付の記事を紹介する。

 〈103万円の壁〉よりもはるかに重要なのが〈106万円の壁〉と〈130万円の壁〉。正確には〈106万円の沼〉と〈130万円の沼〉。106万円は従業員51人以上の企業のケース。130万円は従業員51人未満の企業のケース。106万円には残業代や通勤交通費などを含まない。130万円には残業代や通勤交通費などを含む。この水準を超えると社会保険料負担が発生する。何が起こるのか。収入が増えると手取りが減るのだ。これを〈沼〉と表現する。

 その106万円、130万円の基準を撤廃する法律案が提出された。これを政府はどう表現しているか。「パートの労働者が社会保険に加入しやすくなるようにする制度改正」と表現している。まさに詐欺師の手口。〈損をする話〉を〈得になるような話〉であると語る。

 〈106万円の沼〉に嵌(はま)ると〈手取りが16万円減る〉。〈130万円の沼〉に嵌(はま)ると〈手取りが27万円減る〉。だから、人々は気をつけて〈沼〉に嵌らないように行動している。当たり前のこと。政府の提案は〈すべての人が沼に嵌るようにします〉というもの。〈パート労働者が沼に嵌りやすくなるようにします〉と言っているようなものだ。

 金額による区分と、企業規模による区分を撤廃する。〈ほとんど人が沼に嵌るように〉制度を変える。この〈沼に嵌らない〉ための方法はただ一つ。〈週に20時間以上働かない〉こと。これが唯一、〈沼に嵌らない〉方策になる。

 圧倒的多数の人は〈沼に嵌らない〉道を選択することになるだろう。政府は〈壁〉があるから〈働き控え〉が生じて労働力不足が深刻化していると主張してきた。その労働力不足を緩和するために〈壁〉を取り払うと言ってきたのではないか。しかし、肝心要の〈106万円〉と〈130万円〉の基準が破壊されると、多くの人が〈沼に嵌る〉ことになる。

 沼から脱出するには、週労働時間を20時間未満にしなければならなくなる。結果として労働供給は一段と減少することになると考えられる。それだけではない。多数の中小零細企業が倒産することになる。

 労働者が社会保険に加入するとき、社会保険料負担は企業と労働者が折半になる。106万円の沼で16万円、130万円の沼で27万円の社会保険料が巻き上げられると記述したが、同じ金額の負担が企業の側にものしかかる。この企業負担で多くの中小零細企業が倒産することになるだろう。財務省は世の中を大企業と無産労働者の二種類で構成しようとしているのだと思われる。

 それからもうひとつ。労働者が社会保険に加入すると「将来の年金給付が増額される」と喧伝されている。しかし、これほど疑わしいことはない。現に、いま論議されている〈基礎年金のかさ上げ〉とは一体何か。就職氷河期世代の年金給付の所得代替率(年金額の現役時代所得に対する比率)が低くなりすぎるから基礎年金の金額のかさ上げが必要で、「そのための資金を厚生年金の積立金から流用する」というもの。

※続きは5月19日のメルマガ版「植草一秀の『知られざる真実』」「ザイム真理教103万円プロレス興行」で。


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植草一秀の『知られざる真実』

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質疑応答 午後4時半~5時15分
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〔講師〕
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〔参加費〕
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〔お申し込み先〕
専用フォームあるいはTEL、FAXにて
専用フォーム
TEL:092-262-3388
FAX:092-262-3389
主 催:(株)データ・マックス

※当セミナーの詳細な内容は告知記事にてご確認ください。

<プロフィール>
植草一秀
(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーヴァー研究所客員フェロー、野村総合研究所主席エコノミスト、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)=TRI代表取締役。金融市場の最前線でエコノミストとして活躍後、金融論・経済政策論および政治経済学の研究に移行。現在は会員制のTRIレポート『金利・為替・株価特報』を発行し、内外政治経済金融市場分析を提示。予測精度の高さで高い評価を得ている。政治ブログおよびメルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。

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