肥後木材(株)
代表取締役社長 佐藤圭一郎 氏
木材関連業界が今、転換期を迎えている。大口の需要先であった新設住宅着工の縮小が進んでおり、それに代わる需要先確保など業界の在り方に変革を迫られているからだ。それは、全国屈指のスギ・ヒノキの生産地である熊本県においても例外ではない。そこで、県内有数の木材市場の運営などを手がける肥後木材(株)の佐藤圭一郎社長に、事業の現状と課題、今後へ向けたビジョンなどを聞いた。
好調な原木市場事業
──御社の事業は、どのような状況にあるのでしょうか。
佐藤 当社は現在、原木市場と製品市場、プレカットの主要3事業のほか、山林事業などを展開しています。原木市場については、熊本県はもちろん、宮崎県や大分県、鹿児島県などから原木を受け入れ、本社と人吉支店でそれぞれ月2回定例市を開催し、製材所などに販売しています。人吉支店では年2回、銘木市も開催しており、取扱量はそれぞれ年間約10万m3におよんでいます。私が当社に入社した2009年よりも、取扱量は大きく増えています。その理由は、原木が以前に比べ大径化していること、産地における機械化が進み出荷がスムーズに行えるようになったことなどが挙げられます。そもそも原木市場の事業は、いかに素材を集めるかの競争ですから、新たな産地の開拓に努めたことも、原木市場の事業が好調に推移していることの要因の1つです。
──原木価格の状況も影響しているのでしょうか。
佐藤 原木価格は1年の間で上下するのですが、1m3あたりの平均価格は現在約1万4,000円で推移しており、最も安かった時期の同8,000円台に比べて、倍近い価格で推移しています。これまで原木の需要先は住宅用製材がほとんどであり、原木価格は住宅市場の動きに連動することが常でした。ところが、現在は海外への輸出向けや合板製造向け、バイオマス発電の燃料向けなど、需要先が多岐におよぶようになりました。たとえば、当社においても輸出向けは10年前にはほぼゼロでしたが、現在は取扱量全体の2割を占めるまで増えており、商社など輸出企業に販売しています。
住宅市場低迷を反映
──製品市場事業とプレカット事業は、いかがでしょうか。
佐藤 住宅市場の低迷の影響を強く受けています。製品市場の事業は、スギやヒノキを中心とする住宅向けの製材品、具体的にはAD材(自然乾燥材)やKD材(人工乾燥材)などを、本社で毎月、九州各県の製材所から製品を集めて市場を開いて販売するなどしています。ただ、新設持家着工の低迷が、それらの需要と価格を押し下げています。プレカット事業については当社の場合、各地の材木店ルートを通じてハウスビルダーや工務店に販売するケースが多いのですが、こちらも住宅着工の低迷を受けており、とくにほかのプレカット工場との競争が激化し、物件数の減少と加工単価が低下していることが目下の課題となっています。
JAS工場の認定取得へ
──改善に向けて、どのような取り組みをされているのでしょうか。
佐藤 製品市場の事業については「乾燥事業部」を立ち上げ、JAS(日本農林規格※)認定取得のため、今年3月に木質バイオマスボイラーとともに工場建屋や乾燥加工設備を完成させるなど、1年後に予定しているJAS材出荷のための準備を進めています。狙いは大きく2つあり、1つ目は内製化です。
25年4月の改正建築基準法の施行にともない、建築物に用いられる木材に品質・性能の明示が求められるようになったことから、JAS材への需要が高まるものと見られます。JAS工場の認定取得は、その動きに対応する商品を充実させ、新たな販路の開拓を目指すもの。これまで取引がなかったお客さまからも、すでに引き合いがきています。なお、原木から出るバーク(樹皮)は、これまで有償で処分していましたが、これらをボイラーの燃料として自社で活用できるようになるのもメリットの1つです。
※農林水産省が定めた食品や農林水産品の品質を保証するための国家規格。木材の場合、等級、寸法、含水率などの基準に基づくため、一定の品質・性能が担保される。なお、認定工場の基準をクリアするには、安定した品質の製品を生産している、製造施設などの設備面が一定の基準に達している、品質管理や品質保証、クレーム対応等の管理体制が一定の基準に達していることなどの認定の条件がある ^
製材所の支援も狙い
──もう1つの狙いとは。
佐藤 それは、当社から原木を購入して製品を出荷していただいている製材所の方々に、新たな事業機会を創出することです。現在、製材所は大変厳しい経営環境に置かれています。原木価格が高水準にある一方で、製材品は住宅市場の低迷により価格が低下傾向にあり、さらに燃料代、光熱費、修繕費、人件費など経費の増大から収益性が悪化しています。そのため製材所からは以前より、乾燥設備などの導入が資金や敷地、人手などの面から、難しいとのご意見をいただいていました。
そこで当社が乾燥加工設備を増強し、製材所に代わって製品の乾燥を行い、より品質が高いKD材を生産することでグリーン材にはない新たな需要を開拓し、製材所に収益性の改善を図っていただこうとしているわけです。当社は原木を製材所の方々に販売し、製品を生産し続けていただけなければ、事業の持続性維持が困難になります。この取り組みを成功させることで、当社は製材所の方々との関係性を深めていこうとしているわけです。
中大規模木造に期待
──プレカット事業については、いかがでしょうか。
佐藤 中大規模木造建築物(木造非住宅)の普及に強く期待しています。そこで当社では17年に当社敷地内に、ATAハイブリッド構法(※)でプレカット材の倉庫(延床面積963m2)を建築。今年3月に完成したJAS認定取得予定の工場建屋(2棟、モルダー工場)も同構法によるものです。当社は施工部門も有し、木造金物構法にも対応していますので、倉庫や店舗、介護施設、公共施設など木造低層建築物の受注も強化する考えです。このほか、取引のある建設事業者が受注した案件についても、ご要望があれば建て方工事や木工事などにも対応します。
JAS工場の認定を取得することは、中大規模木造案件への対応にもつながります。また、こうした取り組みは、ただ単に右から左へと製品を流通させるのではなく、利害関係者から当社をより必要と認識していただけるようにするための「中間流通機能」の充実も目指すものです。今後は、信頼できる製材所や建設事業者と協業し、品質の高い構造材を安定供給できる体制づくりを確立していきます。
※富山県滑川市に本社がある(株)ATAが開発した、一般流通材、トラス(切妻、片流れ、水平の屋根に対応)、オリジナルの金物により、最大スパン38m、延床面積1,000m2以下の柱のない大空間を実現できる構法。構造計算、CAD設計も実施し構造的な強度と安全性を確保する ^
創業時から続く昼食提供
──ここまでのお話で取引先への強い配慮が感じられますが、社員の方々に対する配慮も充実させておられますね。
佐藤 私は4代目の社長ですが、就任当初から「今よりも成長した姿で100周年を迎えるのが私の使命」と言い続けています。このビジョンを実現するための取り組みの1つとして、社員の健康促進を目指す「健康経営」などにも力を入れています。そもそも、そうした配慮は私の祖父である2代目社長(佐藤徳郎氏)から受け継がれてきたもので、たとえば社員や取引先の方々へ市場開催日の昼食の提供を創業時から継続しています。
さまざまなステークホルダーの方々に幸せに感じていただける事業、環境づくりに積極的に取り組み、世の中から必要とされる存在価値のある企業であり続けられるよう努めてまいります。
【田中直輝】
<COMPANY INFORMATION>
代 表:佐藤圭一郎
所在地:熊本市東区平山町2986-11
設 立:1958年3月
資本金:2,200万円
TEL:096-389-0022
URL:https://www.higomoku.com/
<PROFILE>
佐藤圭一郎(さとう・けいいちろう)
1980年熊本市生まれ。熊本大学工学部を卒業後、広島県に本社がある企業で7年間、木造住宅の現場監督を経験。2009年に肥後木材入社。11年取締役、13年常務。2015年5月に4代目の社長に就任し、現在に至る。趣味は魚釣り。

月刊まちづくりに記事を書きませんか?
福岡のまちに関すること、建設・不動産業界に関すること、再開発に関することなどをテーマにオリジナル記事を執筆いただける方を募集しております。
記事の内容は、インタビュー、エリア紹介、業界の課題、統計情報の分析などです。詳しくは掲載実績をご参照ください。
記事の企画から取材、写真撮影、執筆までできる方を募集しております。また、こちらから内容をオーダーすることもございます。報酬は別途ご相談。
現在、業界に身を置いている方や趣味で建築、土木、設計、再開発に興味がある方なども大歓迎です。
また、業界経験のある方や研究者の方であれば、例えば下記のような記事企画も募集しております。
・よりよい建物をつくるために不要な法令
・まちの景観を美しくするために必要な規制
・芸術と都市開発の歴史
・日本の土木工事の歴史(連載企画)
ご応募いただける場合は、こちらまで。不明点ございましたらお気軽にお問い合わせください。
(返信にお時間いただく可能性がございます)