学歴詐称疑惑での不信任可決で伊東市長が市議会解散~市民の代表たる首長の責任は
静岡県伊東市の田久保真紀市長は10日、市議会を解散した。自身の学歴詐称疑惑が大きな問題となり、不信任決議が可決されたことを受け、11日までに「市議会を解散するか、自身が辞職するか」の選択を迫られ、解散を選択した。異例の対応に「大義なき解散」との批判も少なくない。
学歴詐称疑惑は怪文書から
今回の市議会の解散に至る経緯を整理したい。田久保氏は、伊東市議を2期務め、5月の市長選で初当選した。当選直後の6月に「大学を卒業していない」とする文書が市議会議員に届いた。これをきっかけに6月議会で質問が行われ、メディアも大きく報じた。
田久保氏は当初、「怪文書だ」として取り合わない姿勢を示したが、その後の会見で「(卒業ではなく)除籍になっていたことが分かった。公選法上の問題はない」と説明した。しかし市議会などからの反発を受け、市長を辞職して出直し選に出馬するとしていた。
ところが7月末の会見で辞意を撤回。「厳しい声は多いが、与えられた使命を全身全霊傾けたい」と述べ、続投を表明した。
田久保氏の続投表明に市民も議会も納得できる話ではない。議会は一連の問題で、田久保氏の辞職勧告決議を全会一致で可決。地方自治法が定める百条委員会による調査委員会を開き、本人の証人尋問を行ったが、田久保氏は改めて学歴詐称疑惑を否定した。市議会は1日、不信任決議を全会一致で可決。議長は田久保氏が示した「卒業証書」について、偽造有印私文書行使容疑で伊東警察署に告発状を提出した。
こうした議会の動きに対抗しての今回の解散だが、解散通知書を受け取った中島弘道議長は「大義なき解散に怒りしかない」と憤りを示している。まさに「大義なき解散」であろう。40日以内に市議会議員選挙が実施されることになる。
市議選が行われれば多額の市の予算が使われる。もちろん市民の税金である。さらに地方交付税交付金は国からで、全国民にかかわりがあるといえる。本来なら学歴の虚偽が発覚したのであれば辞職し、市民に謝罪するのが筋である。ところが田久保市長はそうではなく、解散を選んだ。
解散できなかった石破首相
つい先日も、伊東市長と同様に解散を模索した人物がいた。石破茂首相である。
先月末、東京都内の某ホテルにある日本料理店で石破首相と小泉純一郎元首相、山崎拓元自民党副総裁らが会食した。石破首相の側近サイドからは、小泉氏に2005年の郵政民営化解散について石破首相に話をしてほしいと要請していたという。
石破首相は参院選での惨敗を受けての党内圧力や参政党の台頭を受け、「ポピュリズムに負けるわけにはいかない」と述べた。結局、総裁選前倒しの勢いに抗えず、自民党総裁と首相を辞任することになった。党の分裂を懸念したというのは建前で、覚悟もその後の勝算もなかったのである。一度手にした権力や地位を手放したくないという心理は理解できるが、小泉氏のような解散戦略を石破首相が踏襲するのは無理があった。
視点を福岡県内に移すと、政令市を含む60の自治体でも首長を巡る問題が相次ぐ。近年、自民・公明などが推薦する現職やその後継候補が新人に敗れる市長選が県内でもみられるが、それは強大な権限を持つ首長の存在ゆえに歪みが生じるからだ。国政と同様に地方政治にも刷新が求められている。
伊東市長に似たケースでは、以前当社でも報じた宮若市長のハラスメント問題が挙げられる。23年11月、塩川秀敏市長によるパワハラが9件あったとして、市公平委員会に改善を求める要望書を出されたことで明らかになった。
ハラスメントの内容は、幹部職員に「私と働くのなら家庭と決別するよう家族に伝えなさい」と言ったほか、課長がつくった書類の不備を叱り「耐えきらんかったら辞めろ」と発言。また、女児が死亡した水難事故で意見した女性職員に、「あんたは子どもがおらんから親の気持ちがわからんだろう」とも述べたとされる。
出産経験のある市職員に「女は子どもを産んで初めて女になる」と発言した疑いも発覚したが、最終的に辞職を否定。3月議会で自らハラスメント防止条例を提案し、改善をアピールしたが、否決され、現在開会中の9月議会に再提出している。
塩川氏は、元県立高校教師で、自民党の県議会議員を4期務めている。21年に県議を辞職したが、当時の教育長に「職を辞して教育委員になりたい」という意向を伝え、服部知事は、県教委が出した人事案を当初、塩川氏を教育委員に任命する人事案を示したが、政治的中立性への疑いなどの批判があがり、知事も人事案を取り下げた。そこで、市長選に出て、市長に就任したが、市職員とのコミュニケーションがうまくとれず、上から目線の発言を繰り返した。元教師でもあり、本来なら辞職してしかるべきだが、地位にしがみついた。議会も、不信任決議までは可決しなかったのが救いになった。
議会との関係では、県南の大川市でも、昨年9月の市長選以来、市長が提案した副市長や教育長の人事案件が3度否決されている。これも旧態依然とした議会側の問題もあるが、議会をうまく取り込めない市長の調整能力の問題がある。
どこの自治体も大なり小なり問題を抱えるが、首長の役割を自覚しない人が就任すると、伊東市長や、宮若市長のように、職員が翻弄されるだけでなく、当該自治体のイメージが低下し、結果として市民生活にも影響が及ぶ。
福岡市も以前、空港出資問題などで、市長と議会の対立が先鋭化した時期があったが、その後のコロナ対策は市長と議会が協力して対処したことで、関係は改善された。あくまで首長と議会は二元代表であり、緊張関係を保つ存在である。大事なことは、問題が出た際に自治体のトップがどのような姿勢を示すかである。今回の伊東市の問題は、他人事ではないと肝に銘じるべきである。
【近藤将勝】