「人口減」「空き家増」など課題山積 住生活のこれからとまちづくり(前)

 少子高齢化が進行するなか、住生活をめぐる環境が大きく変化している。たとえば、空き家や空き室の増加がその代表例だが、一方で近年は物価や資材価格が高騰。所得の伸びがそれにともなっていないことから、住宅取得の困難さが増している状況だ。また、自然災害の頻発・激甚化や、増え続ける外国人との共生の在り方への懸念もある。住まいやライフスタイルに対する人々の価値観や考え方も、かつてとは大きな変化が見られる。これらは住生活の持続可能性が強く問われていることを表しているが、住生活に関わるこれらの変化にどのように対応すべきなのか、とくにまちづくりの観点から考えていく。

住生活基本計画の見直し議論が進む

 今年で戦後80年を迎えた。日本社会、なかでも国民の住生活は、これまでに大きな変化を迎えてきた。国民の暮らし方は大家族から核家族化、単世帯化が進み、今では高齢者を含む一人暮らし世帯も増加している。また、国民1人ひとりの豊かさや利便性の追求も、以前より強まっている。その一方で、住宅政策もそれに合わせ、現在までに「大量供給を重視する時代」「質を重視する時代」、そして「ストックを重視する時代」へと変遷。供給する住まいのかたちも変えてきた。質やストックを重視することはいまだに対応すべき政策課題となっているが、近年は少子高齢化のさらなる進行、温暖化対策などといった社会課題への対応などが、住生活の分野に強く求められるようになってきた。【図①】

【図①】 次期住生活基本計画に係る議論の前提となる社会 (国土交通省作成の資料より抜粋)
【図①】 次期住生活基本計画に係る議論の前提となる社会
(国土交通省作成の資料より抜粋) 

 さて、現在の住生活に関わる政策課題を抽出・分析、今後の社会情勢の変化を先取りし、社会への対応の在り方を示すのが、「住生活基本計画(全国計画)」だ。同計画は2006年施行の住生活基本法に基づいて策定された、日本の住宅政策の基本となるものであり、計画は約5年ごとに見直される。直近では21年に閣議決定された基本計画(対象期間は21年度から30年度)とされているが、中間時点である25年度を迎えたことから、見直し案が示され、分科会で今後の当面10年間を対象とする基本計画について議論が行われている。

 議論しているのは、国土交通省の社会資本整備審議会住宅宅地分科会で、その第65回の会合では、住生活基本計画の見直しに向けて「中間取りまとめ(素案)」を提示した。特徴的なのは、2050年の住宅政策の方向性を見据え、「ヒト(居住者)」「モノ(住宅ストック)」「プレイヤー(担い手)」の3つの視点から、人口減少や高齢化を軸に、これらの社会変化に対応する住宅・住環境の政策課題や方策が議論されていることだ。

 大きな論点となっているのは、若年・子育て世帯の希望する住まいの確保、過度な負担なく住生活を実現する環境整備、空き家などの既存住宅流通促進(官民連携や買取再販など)、高齢化への対応と技術者育成(大工・建築士の減少、高齢化など)、DX(デジタル化)の活用による住生活の質向上、頻発・激甚化する自然災害、外国人居住者の増加などについても議論されている。

 なかでも興味深いのが、「過度な負担なく住生活を実現する環境整備」だ。議論においては、上がらない所得、物価高、そして建設費の高騰などにより、マイホーム購入が難しいと感じる国民が増えており、そうした状況に対応する政策の必要性が話し合われている。

注目度が高まるアフォーダブル住宅

 国の議論に先立って取り組みを行っているのが、東京都だ。官民連携のファンドによる「アフォーダブル住宅」を供給することを計画し、賃料を市場価格の約80%程度にする案などが議論されている。提供開始は26年度を見込んでいる。

 「アフォーダブル住宅」とは、市場価格より抑えられた賃料・価格で提供される住宅を指し、所得の中位~低めの人・子育て世帯などが住みやすくすることを目的とするものだ。空き家・既存ストックの活用を促す議論があり、アフォーダブル住宅供給と空き家の利活用がセットで論じられることが多い。

 東京都はなぜ、アフォーダブル住宅という住宅政策を推進しようとしているのか。それは、新築の戸建住宅・マンションの価格が激しく高騰しているからだ。25年の東京都における公示地価は、東京都内の住宅地で前年比5~6%台の上昇。とくに東京23区では上昇率が高く、7.9%前後の地点もあり、都心5区(千代田・中央・港・新宿・渋谷など)ではさらに上がっている。利便性・ブランド性の高い区域がとくに顕著で、中央区は地価上昇率13.9%などとなっている。

 (公財)東日本不動産流通機構の調べによると、新築戸建の都区部における成約価格上昇率は、15年比で40%超の上昇。23区の新築マンションは25年上半期に平均価格が前年同期比約20.4%増加し、1戸あたりの平均価格は約1億3,000万円にもなっている。建築コストの高騰(資材費、人件費など)、土地取得コストの上昇、事業者による供給の抑制などが要因とされるが、いずれにせよサラリーマン世帯には高嶺の花といえる状況だ。また、既存(ストック)住宅も、戸建・マンションにかかわらず以前に比べて需要が高く、売買価格が上昇している。賃貸住宅も物価高騰を背景に値上がり傾向にあることから、子育て世代や年金暮らしの高齢者の住まい確保について、その先行きが懸念されている。

首都圏では新築・中古にかかわらず住宅価格の高騰が深刻化している
首都圏では新築・中古にかかわらず
住宅価格の高騰が深刻化している

「二地域居住」に関する議論も行われているが…

 こうしたことが、東京都でアフォーダブル住宅の議論が活発化していることの背景だが、根本的な問題は東京都や首都圏への人口集中だろう。大都市圏への人口集中は一方で、地方の過疎化および活力の低下を招いている。そうした状況を改善するために、住生活基本計画の見直しについては、「二地域居住」に関しても議論が行われている。

 二地域居住とは、都市と地方の2つの拠点に住居を構えて生活することをいい、具体的には平日は都市部で働き、週末や長期休暇には地方にあるもう1つの家で生活するスタイルを指す。「二拠点生活」や「デュアルライフ」とも呼ばれ、自然や食、レジャーなど地方の魅力と、都会の便利さの両方を享受できるなどの特徴がある。

 バブル期のリゾートブームを背景に、スキー場に隣接するエリアに分譲マンションを供給することで二地域居住を促す動きが民間を通じて行われたが、現状では居住者が少なく、地域が潤っているとは決していえない状況でもある。当時より人々のライフスタイルが多様化していることを考慮すると、一定のニーズが期待できる状況であるが、バブル期当時のように、国民が金銭的に余裕のある状況でもないことから、二地域居住の定着には相当の工夫が必要であると見られる。

バブル期に開発されたリゾートマンションの住戸が10万円台で取引されている越後湯沢の街並み
バブル期に開発されたリゾートマンションの住戸が
10万円台で取引されている越後湯沢の街並み

 話をアフォーダブル住宅に戻すと、現状では福岡県や福岡市において、その議論はいまだ活発化していない。しかし、とくに九州を代表し160万人の人口を抱える福岡市は今後、市民の住宅確保に向けて、よりシビアな状況に直面する可能性が高い。市がまとめた「将来人口推計」(24年4月)によると、40年ごろに総人口は約170万2,000人になると見込んでいる。また、25年の公示地価で、福岡市は住宅地の地価上昇率で2年連続の日本一になるなどしており、このままの状況が継続していくならば、人口の増加も合わせて、住宅取得の環境がより厳しくなるものとみられる。【図②】

【図②】 福岡市の人口推移(福岡市発表の「将来人口推計」より抜粋)
【図②】 福岡市の人口推移
(福岡市発表の「将来人口推計」より抜粋) 

 さて、アフォーダブル住宅については、公共住宅の活用も強く意識して議論されている。公共住宅とは、自治体などが供給した(する)団地などであり、そのなかには老朽化や空き室の増加、住民の高齢化などによるコミュニティ喪失などの問題が顕在化しているものが多い。もともと団地は一定の所得条件などを満たせば割安な家賃で入居でき、かつ学校や公園が近くにあるなど、住環境が整備されている。そこで、団地再生の取り組みが一部で行われるようになってきた。

【田中直輝】

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