「人口減」「空き家増」など課題山積 住生活のこれからとまちづくり(後)
少子高齢化が進行するなか、住生活をめぐる環境が大きく変化している。たとえば、空き家や空き室の増加がその代表例だが、一方で近年は物価や資材価格が高騰。所得の伸びがそれにともなっていないことから、住宅取得の困難さが増している状況だ。また、自然災害の頻発・激甚化や、増え続ける外国人との共生の在り方への懸念もある。住まいやライフスタイルに対する人々の価値観や考え方も、かつてとは大きな変化が見られる。これらは住生活の持続可能性が強く問われていることを表しているが、住生活に関わるこれらの変化にどのように対応すべきなのか、とくにまちづくりの観点から考えていく。
福岡県住宅供給公社が団地再生に取り組み
福岡県住宅供給公社の取り組みがその1つだ。同公社は賃貸住宅67団地(8,977戸、ほかサービス付高齢者向け住宅18戸)、県営住宅202団地(2万8,374戸)を管理している。その1つである福岡市東区にある「名島団地」(5階建の12棟、総戸数330戸)は高度経済成長期に建てられたもので、23年3月末時点で空室率が33.6%となっていたが、再生の取り組みを行うことで19.7%(25年8月末時点)にまで改善された。「数字だけを見ると大きな変化ではないように思われますが、何もしなければ退去ばかりが増え、空室率はさらに高まっていました」(賃貸事業部部長・濵田徳郎氏)と話す。

この改善が実現できたのは、23年冬から取り組んでいる(株)グッデイとの「グッデイ団地プロジェクト」による影響も小さくないだろう。最大の特徴は、入居者自身がDIYで改装できる「DIY賃貸」モデルを導入した点である。壁や棚の塗装・造作など一定のルール内で自由に手を加えられ、退去時の原状回復義務の要件も減らすことで、とくに子育て世帯などの若い入居者の居住促進を狙いとしたものだ。
プロジェクトの展開による新たな入居者は、当初の狙いとは異なり幅広い年齢層となったが、自治会の関係者から団地周辺に活気が出てきたなどとの反響があったという。同公社は目に見える改善効果を確認できたことから、同じく東区にあり空室率が53.3%(25年8月末)にまで高まっている舞松原団地(390戸)でも、グッデイとのコラボレーションによる再生策を展開。10月中にはモデルルームを公開する予定となっている。「プロジェクトの問題点がすでに明らかになっているため、今後もこうした団地再生の取り組みを進めていきたい」(濵田部長)と話している。
同公社ではこのほか、公的管理から除外し民間事業者に所有する団地をサブリースして再生する取り組みも行っている。東福間団地(福岡県福津市)で18年から展開し、民間事業者がリノベーションや家賃設定、入居者募集、管理を行うもので、契約期間が満了してすでに公社に管理が戻っているものもある。公社だけで団地再生に取り組むのは、人員や予算などに制約がある。グッデイとのプロジェクトとこのサブリースの取り組みは、民間のアイデアや人的・資金的リソースを活用することで、コスト低減や遊休不動産の活用などの効果も期待されるという側面からも注目される。
ホームセンターの商材で室内を一新
名島団地のプロジェクト
名島団地では、グッデイが手がけたDIYによるモデルルームが公開されていた。玄関の外回りは一般的な古びた外観だが、一歩室内に足を踏み入れると、洗練された住空間が広がっている。全体のデザインは、「和モダン」がベース。キッチンダイニングは、台所仕事に必要な家電製品やモノがコンパクト、かつ機能的に配置され、居間は押し入れのフスマが取り払われ、内部を作業机と収納スペースとして活用できるようになっていた。寝室は暗色の壁紙を貼り、間接照明を取り入れるなど、質の良い睡眠を誘う籠もり感のあるベッドルームに模様替えされていた。
壁紙やカーテン、家具などのインテリア、家電製品、観葉植物などの小物などのすべては自社のホームセンターで販売しているもので、トータル費用は約100万円になるという。資材価格や人件費の上昇により、専門業者が工事を行うと非常に高額になるケースがあるが、入居者自らDIYを行えばこの金額で可能というわけだ。商品には値札を付け、部分的にDIYを行う際の金額もイメージしやすくしていた。入居希望者や団地住民向けのワークショップも定期的に開催していた。壁塗装や床補修といった基礎技術の習得や、DIYに適した商品選定のサポートなど、実践的なノウハウを住民と共有する仕組みが好評だった。なお、今後は舞松原団地でワークショップの開催が予定されている。
ニュータウンの衰退も空き家増加の要因
団地を含む公共住宅も同様だが、日本の住宅は高度経済成長期に一斉に供給されたため、現在はその弊害が現れている状況だ。一斉に住宅供給が行われる「ニュータウン」開発というまちづくりが行われたことで、それから50年が経過した現在、住民が一斉に高齢化し、亡くなったり転居したりするなどで人口が減り、空き家も増加。結果的にまちの活力が喪失されてきたという経緯だ。空き家になることは、その所有者の資産にならないどころか、負の遺産になることもある。このことは、「日本人が貧しくなった」ことの要因の1つと指摘される。解体費用などを含めた諸費用の負担が、地域自治体運営の重荷になっていることはいうまでもない。
国土交通省による「全国のニュータウンリスト」(18年作成)によると、ニュータウン(1955年度以降に着手された事業、計画戸数1,000戸以上、または計画人口3,000人以上の増加を計画した事業のうち、地区面積16ha以上であるもの)は日本国内に2,022地区あるという。広さは合計約18万9,000haで、これは大阪府の面積(19万ha)に匹敵する規模だ。ここで宅地開発量の推移を確認すると、ピーク時の1970年代前半(2万3,400ha)に比べて、2020(令和2)年度には約8分の1となる年間約2,524haにまでその量は減っている。このことから、大規模なニュータウン開発はほぼ行われなくなっているものの、中小規模の開発は依然としてあることが見えてくる。【図③】
問題は同世代の人たちが一斉に居住を開始し、一斉に高齢化するという従来の開発手法が行われていないかという点だが、必ずしもそうとは言いがたい。たとえば、地方自治体が現在、人口減少を抑制するため、主に子育て世帯に向けた宅地開発を行う政策を実行、あるいは打ち出していることは、従来の開発手法が行われていることの証左である。また、都市部におけるミニ開発(主に複数の狭小住宅による開発)も、居住面積などの観点から入居者満足度が高くなく、次世代に引き継がれる、つまりは短期間に空き家やスクラップ&ビルドされることを避けられる住宅であるとは言いがたい。
持続可能なまちづくりを展開する
「ユーカリが丘」
ところで、従来型の開発手法とは異なる、持続可能なまちづくりを行ってきた事例があることをご存じだろうか。千葉県佐倉市に位置する「ユーカリが丘」は、71年に開発が始まったニュータウン。多くの大規模住宅地が分譲後にデベロッパーが撤退し、自治体や住民に維持管理を委ねる構造をとるなか、ユーカリが丘は開発主体である山万(株)(東京都中央区)が継続的にまちの運営に関与している点で他に例を見ない。

(ユーカリが丘ポータルサイトより)
特徴は、住宅供給と生活基盤の整備を同時に進めてきた点にある。商業施設や教育機関、医療機関、緑地を総合的に配置し、さらに自社運営による交通システム「山万ユーカリが丘線」を整備するなど、交通インフラまでを含めた一体的な都市開発を行っている。鉄道インフラを自ら持つニュータウンは全国的にも希少であり、利便性の確保と資産価値維持に直結している。

なかでも注目されるのが、同世代の住民が一斉に住み始め、一斉に老いることのないように、段階的な開発を進めてきたことだ。これを実現するため、年間の新規住宅供給戸数を200戸程度にとどめている。住民のライフステージに合わせて、若年層向け分譲マンション、子育て世帯の戸建住宅、高齢者向けサービス付き住宅や介護施設を街中に配置。「生涯居住」を可能にしている。人口減少や高齢化による衰退リスクを抱える多くのニュータウンに対し、ユーカリが丘は比較的安定した居住需要を維持し、いまだに発展を続けている。
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かつてニュータウンを開発した企業が、その再生に取り組む事例も近年になって見られるようになってきた。たとえば、1970年に開発が始まった「上郷ネオポリス」(神奈川県横浜市栄区、約700区画)は高齢化率48.6%という地域課題を抱える郊外型戸建住宅団地だが、その開発を担った大和ハウス工業(株)は今、地元自治会や大学などと連携し、地域活性化につながる取り組みをしている。前述した福岡県住宅供給公社の事例では、プロジェクトに参加しているグッデイには団地再生のノウハウはなかったが、目に見えた空室率改善といった成果を上げている。このように、持続可能なまちの実現、まちづくりの実現には民間企業のノウハウを積極的に生かすこと、かつ中長期的なまちの在り方をより深く検討することではなかろうか。新設住宅着工が減少傾向にあるなか、住生活関連の事業者に依然として活躍の場が多く残されていることも指摘できそうだ。
(了)
【田中直輝】

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