武雄アジア大学は誰のための大学か 揺らぐ大義(後)学生確保の前に問うべき財務基盤
財務状況を確認しないまま学生確保を要請することは妥当か
このような旭学園の財務状況に対する武雄市の消極的な確認姿勢に関わるものとして、豊村貴司議員が問題視したのは、旭学園に対する武雄市の「学生確保の要請」である。
武雄アジア大学の初年度入学生が37名にとどまったことが判明して以降、小松政・武雄市長は旭学園に対して、次年度の学生確保を強く要請する姿勢をたびたび示してきた。そこには、学生募集そのものは大学主体である一方、学生確保を強く求め、働きかけることは市の責任だという小松市長の認識がある。その認識は、11日の朝長勇議員の質疑に対する下記のような小松市長の答弁にも表れていた。
(以下、発言の引用は武雄市議会の議事録速報版による。一部、話し言葉を読みやすいように編集した。)
「学生募集については、大学が主体となって行うべきものと考えています。私が高校回りをしたり、試験問題をつくったり、入試を実施したりする立場ではありません。ただし、学生確保をしっかり行うよう大学に強く求めること、働きかけることは当然すべき立場です。また、その学生確保の先にある政策効果の実現については、先ほど申し上げた通り、責任を負う立場であると認識しています。」(小松市長答弁、6月11日)
だが、豊村議員はこれに対して疑問を呈する。企画部長とのやりとりにおいて豊村議員は、学生の学びを支えるためには運営者である旭学園の財務状況が重要なのだから、学生確保の要請をする前に、まず旭学園の財務状況を確認することが市の責任ではないかと指摘した。大学における学生たちの勉学期間は少なくとも4年間におよぶ。その期間、学生に教育機会を提供するだけの財務的な基盤が旭学園にあるのかどうか、大学を誘致した武雄市として確認する責任を問うたのである。
大学誘致の大義「地域における教育機会の創出」
そもそも武雄アジア大学の誘致にあたって武雄市は、「佐賀県西部エリアには大学が設置されておらず、子どもたちが夢を実現できる選択肢を増やしていくことが必要だ」(小松市長のコメント、武雄市HPより)として、地域における教育機会の創出を大義に掲げてきた。さらに武雄市はその大学誘致を、人口減少対策を含めたまちづくり政策に紐づけるかたちで、総額約19.5億円(武雄市負担約13億円、佐賀県補助約6.5億円)の補助金や用地の無償貸与を決定した経緯がある。
豊村議員の問いは、直接には旭学園の財務状況と学生保護をめぐるものである。しかしそれは、武雄市が大学誘致時に掲げた「地域における教育機会の創出」という大義に照らしても、重要な意味をもつ。学生を集めることだけが目的ではなく、集めた学生が安心して学び、教育を継続して受けられる環境があって初めて、教育機会の創出といえる。その意味で、旭学園の財務状況を確認することは、すでに入学している学生だけでなく、次年度以降に武雄アジア大学へ入学してくる学生に対する責任でもある。
しかし、これに対する企画部長の回答は、先述の通り、将来的には「決算発表前の段階でも、市が確認できるよう、依頼はしていきたい」としつつも、基本的なスタンスとして示したのは、「市は旭学園の決算を通じて財政状況を把握したいと思いますので、決算の承認される理事会の後に確認したい」という極めて消極的なものであった。
では、小松市長自身の認識はどうか。最後に豊村議員は市長に対して次のように問うた。
豊村議員「この1年というのは、非常に大事なときだと思います。(先ほども)言ったように、状況次第では、学生が学びをスムーズに行えるか、武雄でいろいろできるようになるか、今後に関しても、そういったふうなところになると思います。(中略)運営が継続できないことにはやりたいことがあってもできないわけですよね。先ほど、部長の答弁のなかでも、旭学園自体いろいろなところが、短大とか、高校とかありますと。私が心配しているのは、そういったところにまで影響がおよぶことがあってはいけないと私は思います。(中略)そういったところに影響がおよばないようにしていくことも、これも市の責任の1つじゃないかと思うのです。市長に質問ですが、市長として現時点でのリスク認識、学生保護、公費13億円を投じた責任、次年度募集についての対応について、総括として答弁をお願いいたします」。
ここまでの質疑で豊村議員は、武雄市が配慮すべき学生として3つの層を意識している。1つ目は、すでに入学した武雄アジア大学の学生。2つ目は、次年度以降に武雄アジア大学へ入学してくる学生。3つ目は、旭学園が運営する他校の学生である。旭学園の他校の学生は武雄市には直接関係がない。しかし、武雄アジア大学の運営不安が、旭学園の他校の学生にまで影響をおよぼすことは、武雄市が大学誘致の大義として掲げてきた「教育機会の創出」に照らしても重い。教育機会を広げるための大学誘致が、結果として他校の学生の学びに影響をおよぼすようなことがあれば、本末転倒だからだ。豊村議員が問うたのは、そのような事態を防ぐために、武雄市にも責任(少なくとも道義的責任)があるのではないかという点である。そして最後に豊村議員は、企画部長への問いで問題視した「次年度募集」について、あらためて市長の認識を問うている。
出所:武雄市の公式YouTubeチャンネル
小松市長答弁で前面に出た「大学を生かしたまちづくり」
これに対して小松市長はどのような認識を示したのか。小松市長の認識を詳細に確認するために答弁の全体を引用する。
小松市長「これまで、大学誘致は市の将来にとって必要な政策であると判断をして進めてきました。大事なのは、大学誘致という政策の効果を実現するために、責任をもって取り組むということであります。学生確保については、法人が主体となって行うところではありますけれども、極めて重要なポイントでありますので、市としては引き続き、ここは確実な学生確保を強く促し、そして、働きかけをしていくと。あわせて、今後につきましても、市民の皆さんに損害を与えることがないよう、リスクにも備えながら、旭学園とは意見交換をし、そして、我々からもしっかり意見を伝えていきたいと思っています。あわせて、市の役割ですけれども、やっぱり、大学を生かしたまちづくりについて進めていくことだと思っています。学生や大学と、あと市民、企業、地域がいろいろなところでつながって交流をして、大学を生かしたまちづくりが進んでいく。そして、それによって市内全体に波及して、活性化が図られていく。そこに向けた取り組みというのを今後、進めていくのが大事だと、あわせて大事だと思っておりますので、引き続きやっていきたいと思います。最後ですけれども、やっぱり今の学生が、来てもらっている学生は守るというところは、議員もおっしゃって、そのために運営がしっかりしているのが大事だとおっしゃいました。ぜひ、私も同じように思っています。そのためには、運営へのリスク管理というところとあわせて、やっぱりせっかく来た学生をどうやって盛り上げていくのか。市民みんなで、どう、これを伸ばしていくのかという、やはりこの両面が必要だと思いますので、ぜひこの両面で、みんなで進めていきたいと考えています」。
答弁から分かることは、小松市長が、市の直接的な役割として「大学を生かしたまちづくり」を前面に置いていることだ。次年度の学生確保も、その政策効果を実現するための重要なポイントと位置づけられている。その後、小松市長は「リスクにも備えながら、旭学園とは意見交換をし」と述べるものの、それは「市民の皆さんに損害を与えることがないよう」という文脈で語られており、豊村議員が疑問視した「財務確認なき学生確保」に対する具体的な認識を示したものではない。リスク管理の具体的な対象として「財務」という言葉も出ていない。最後に小松市長は学生保護に言及するが、少なくとも答弁上、明示的に触れられているのは、「今の学生」「来てもらっている学生」、すなわち、すでに武雄アジア大学に入学した学生である。
このような小松市長の答弁と、学生の学びを支えるために旭学園の財務確認が必要ではないかと訴えた豊村議員の問題意識との間には、大きな隔たりがある。旭学園の財務状況の確認が具体化されないままでは、地域における教育機会の創出という大義も、結果として後景に退きかねない。たびたび小松市長が繰り返してきた旭学園に対する「学生確保の要請」も、学生たちに対する教育機会の創出を目的としたものというより、市の政策である「大学を生かしたまちづくり」を維持するための学生確保と受け止められかねない。
とすれば、武雄アジア大学ははたして、いったい誰のための、何のための大学なのか。武雄アジア大学に対して総額約19.5億円にのぼる支援を決定した武雄市の基本姿勢として、重大な懸念を抱かざるを得ない。
決算書と収支計画をもって武雄アジア大学の事業継続性の評価を
6月22日に武雄市議会の6月定例会は閉会となる。その後、旭学園は、理事会の承認を経て、2025年度の決算書をホームページ上で公開するだろう。しかし、それをもって旭学園に対する武雄市の財務確認が不要になるのではない。武雄市は25年度決算だけでなく、さらに旭学園に対して今後の収支計画の提出を求め、それをもって武雄市として独自に武雄アジア大学の事業継続性の評価を行わなくてはならない。その評価結果を市民に説明し、武雄アジア大学で将来的に教育機会が十分に確保される見通しを示したうえで、次年度の学生確保を求めるべきである。
これは莫大な公費を支出した武雄市として、市民に対する説明責任のみならず、すでに武雄アジア大学に入学した学生たちに対する責任でもあり、また、将来的に武雄アジア大学を進学先の候補にする地域の進学希望者たちに対しても重大な説明責任であることを、武雄市は自覚する必要がある。
▼下記のページで、武雄市議会の議事録と、豊村議員の一般質問の動画を視ることができる
令和8年6月定例会 本会議録(速報版)
武雄市議会 R8.6.15 一般質問 豊村 貴司(武雄アジア大学についての質疑は39:13から。)
▼当社では旭学園の財務リスクについて検証を行っている
『武雄アジア大学の収支計画が明らかに(3)懸念された旭学園の財務体質と、新設大学の採算ライン』
(了)
【寺村朋輝】








