国連ハビタット、国土交通省、内閣府、大和ハウス工業が
パネリストとして登壇
東京大学住宅都市再生研究センター(和泉洋人・センター長)は5月14日、地方圏における都市再生と郊外の再生をテーマにした国際シンポジウムを開催した。OECD(経済協力開発機構)による基調講演と、国連ハビタット福岡本部などの国際機関、国、民間事業者が一堂に会し、国内外の地方都市が衰退するなかで、地域特性に応じた新たな再生の方向性について議論を交わした。同副センター長である小泉秀樹・東大教授は、今後の予定として、世界的な地方都市・住宅地再生の取り組みを調査し、膨大な研究動向を可視化した分析結果を2026年度内に公表するとともに、関係機関への政策提言に結びつける方針を示した。
地域経済強化へ整備
東京大学住宅都市再生研究センターは、2025年秋に大和ハウス工業(株)による寄付を基に設立され、今年4月から本格稼働。シンポジウム開会にあたり、藤井輝夫・東京大学総長は、同センターで分野横断的な研究を進め、国内外の地方都市再生についてさまざまな観点で議論されるとあいさつ。続いて和泉洋人・センター長は、ストックの有効活用に政策の舵を切ったものの、有効な政策手段を確立できたとは言いがたい状況であると指摘。住宅・都市再生に関わる新たな学術領域の形成に取り組んでいくと話した。
シンポジウムに協賛した大和ハウス工業の芳井敬一・会長は、団地を再生する再耕事業、住宅を流通させる住み継ぎや、コミュニティ再生を軸にした持続可能なまちづくりに挑戦しているとした。来賓としてあいさつした宇野善昌・総理大臣補佐官は、政府が強い地域経済の構築のため、地域未来戦略の整備を進めている点を強調。地方都市の再生は難しい課題だが、OECDによる世界と日本における地方都市再生に関する基調講演が、「地方都市の未来を支える一助になることを期待している」と述べた。
突出した東京一極集中
ラミア・カマル・シャウイ
起業・中小企業・地域・都市センター局長
基調講演では、OECDのラミア局長が、国際的な視点から見た日本の地域特性と課題を述べた。OECD諸国全体で見られる共通の課題として、少子化、高齢化、そして若者が大都市圏へ流出し続けることにより、多くの地域や都市の在り方が再構築を迫られていると主張。OECD加盟38カ国全体で見ると、2000年代初頭以降、全都市地域の約20%で人口減少が進んでいるという。
日本では過去20年間、地方から東京圏に年平均10万人以上の人々が流入し続けている。この東京圏への一極集中の規模は、OECD諸国のなかでも突出した規模の国内移動だと指摘。人口減少は国全体の問題だが、過度な一極集中は大都市圏外の労働力の減少と高齢化を加速させているとした。その一方で、大都市(とくに東京)への若者の集中は生活コストを押し上げ、日本の出生率がOECDのなかで最低水準にあるこの時期に、これらの都市で家族をもち、家庭を築くことを非常に困難にしているとした。
本来、労働の流動性は良いものであるはずだが、その流動性が過度になり、特定の地域から若者や熟練労働者を一挙に流出させると、地方には労働力不足、ビジネスの縮小、行政・インフラサービスの弱体化、そして住宅や地域の衰退が残されるとした。
現在、欧州では「居住の権利(Right to Stay)」という新しいスローガンが生まれており、人々がどこで生きていくかについて、真の選択肢をもてるようにすることを意味している。若者や女性に焦点を当てた日本の「地方創生」は、まさにこれを実現しようとするものであると述べた。日本はOECD加盟38カ国のなかで「地域間の格差」が最も低い国で、これは住環境や住宅、健康、治安、教育、スキルなど、多くの指標においていえると指摘。日本の本質的な問題は、格差ではなく「一極集中」そのものにあるとした。
OECDの5つの提言
これを踏まえて、OECDが他国の多様な経験から得られた5つの提言を共有した。まず1つ目は、地域特有の強みの評価と指標の活用。地域の魅力を高めるためには、各地域の強みを精緻に評価する必要があるとした。OECDが開発した「OECD地域魅力度指標(コンパス)」による分析が示すのは、人材を引き寄せる際、経済的インセンティブだけでは長期的に機能しない。それよりも、優れた学校や質の高い住空間、手頃な住宅(アフォーダブル・ハウジング)、保育サービスなど、総合的な生活環境が整っていることのほうが重要となるとした。
2つ目は、中規模都市・連携都市への投資。政府は周辺地域のハブとなる「中規模都市」や「仲介・連携都市(インターミディエイト・シティ)」を地域成長の原動力として位置づけ、投資すべき時期にきている。適切な施策を講じれば、これらの都市はイノベーションやサービスの拠点として、一定の規模に達することができる。多くのOECD諸国は多極分散型の都市化を掲げ、これらの成長拠点と近隣の農村地域を結びつける都市・農村連携の構築を進めている。
3つ目は、スマート・シュリンキング(賢い縮小)という現実的選択。あらゆる地域で人口減少を逆転させることは不可能だという現実を、認めなければならない。しかし、人口減少が必ずしも生活の質の低下を意味するわけではなく、賢く縮小することは可能である。資源を集中・再利用し、機能を統合した多機能ハブを設けるなどしてコミュニティを再設計すれば、住民が少なくなっても豊かに暮らし続けることができる。
4つ目は、ビジネスセクターの巻き込みと産業政策。地域経済の再生には、民間企業の参画が不可欠である。近年注目される「地域密着型の産業政策」では、戦略的産業が地元の資産を基盤に、地理的集積(クラスター)を形成する。バッテリーや半導体などの戦略的産業を地方へ誘致し、雇用を生み出すためには、大企業だけでなく、それを支える地元の「中小企業」によるサプライチェーンの強化がカギとなる。
最後の5つ目は、ソフト・インフラへの投資。都市の持続可能な変革は、企業誘致や雇用数だけで測れるものではなく、コミュニティ内部の信念や誇り(シビックプライド)、ビジョンの共有といった要素から生まれる。これをもたらす最大の原動力が、ローカル・リーダーシップだという。
自治体、市民、企業、大学などの多様なステークホルダーが連携し、地域の豊かな食文化や美しい景観といった文化的資産を生かして前向きな物語(ナラティブ)を描くことが、その地域の経済的魅力を基礎づけるとした。
地方再生3つの視点
パネルディスカッションでは、小泉秀樹教授によるコーディネートのもと、「国際視点」「政策視点」「民間視点」の3つのアプローチから議論が深められた。
国連ハビタットの石垣和子・アジア太平洋地域統括福岡本部長は、アジア太平洋地域における劇的な都市化の裏で、人口25万人以下の中小都市(セカンダリーシティ)が「急成長する都市」と「衰退する都市」に二極化している現状を報告した。
とくに衰退傾向にある中小都市では、中央政府の関心が集まりにくく、投資不足やインフラの未整備、さらには無秩序な都市化(スプロール現象)による居住環境の悪化が深刻化している。これに対し国際機関では、単なる物理的な開発にとどまらず、気候変動リスクや社会弱者への配慮を盛り込んだ「統合的な空間計画」への支援を強めている。住宅は単なる商品ではなく、基本的人権の一部であるという認識に立ち、コミュニティが主体となったレジリエント(強靭)なまちづくりが求められていると述べた。
OECDのアレクサンダー・レンブケ氏は、大都市ではないものの、周辺地域のハブとして機能する都市を「中規模都市(インターミディエイト・シティ)」と定義し、その重要性を説いた。諸外国の成功事例を見ると、これらの中規模都市は自らの「ニッチな強み(独自の絶対優位性)」に特化し、地元の大学や民間企業(核となる企業)と連携することで、大都市に負けないイノベーションを起こしている。日本においても、地方のすべての場所を均一に救おうとするのではなく、人口20万~50万人の中核市クラスを経済やサービス提供の拠点として再編し、その恩恵を周囲の農村部へ波及させる視点が重要となるとした。
5位の愛知の約7倍の特許出願数と差が大きいのが特徴。
大都市以外でも大学や高度技術分野の中核企業、
スタートアップがイノベーション拠点として作用する
(出所=OECD資料)
日本の取り組み
国の行政組織からは、地方再生を後押しするための多角的な支援制度や最新ツールの活用状況が紹介された。
内閣府の高橋謙司・地方創生推進事務局長は、地域一律のルールを緩和して地域資源を生かす「特区制度」や、用途地域を白紙に戻して民間のアイデアを呼び込む「都市再生の特例」の成果を説明した。さらに、全国に約3,000カ所存在する大規模住宅団地の高齢化・空き家問題に対応するため、低層住居専用地域であっても生活利便施設を誘致できるよう、規制緩和を進めているとした。
国土交通省住宅局の田中政幸・市街地建築課長は、1981年の新耐震基準以降に建てられた質の高い既存住宅(中古住宅)が、今後大量に相続される時期を迎えると指摘した。新たな住生活基本計画で示した、これらを市場に流通させ、子育て世帯へ円滑に住み継ぐために、住宅の性能や資産価値の「見える化」を推進する重要性を説明した。
同じく国土交通省都市局の川合紀子・国際・デジタル政策課長は、これからの都市政策として「集積の向上」「固有の魅力の活用」「官民連携」「安全性と暮らしやすさ(ウェルビーイング)」の4つの柱を掲げた。これらを地域で議論し、合意形成を図るための強力なツールとして、3D都市モデル「Project PLATEAU(プロジェクト プラトー)」の活用を推進している。都市をデジタル空間に再現することで、将来のまちづくりのビジョンを視覚的に共有できるだけでなく、水害などの災害シミュレーションを通じた防災性の向上にも寄与しているとした。
民間セクターの視点として、大和ハウス工業の神田昌幸・執行役員から、同社が高度経済成長期に全国61拠点で開発した郊外型住宅団地「ネオポリス」の再生事業「リブネスタウンプロジェクト」を紹介。行政と包括連携協定を結び、企業版ふるさと納税を活用して多世代交流施設を建設・運営するなど、民間が地域に寄り添い、住民が主体となるまちづくりへ伴走するモデルを説明した。
モデレーターの小泉教授は、共通のアプローチで都市をどう再生できるのか、センターとしても積極的な提案、実証的な取り組みを行っていきたいとまとめた。
<プロフィール>
桑島良紀(くわじま・よしのり)
1967年生まれ。早稲田大学卒業後、大和証券入社。退職後、コンビニエンスストア専門紙記者、転職情報誌「type」編集部を経て、約25年間、住宅・不動産の専門紙に勤務。戸建住宅専門紙「住宅産業新聞」編集長、「住宅新報」執行役員編集長を歴任し2024年に退職。明海大学不動産学研究科博士課程に在籍中、工学修士(東京大学)。

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