(一社)山口県建設業協会 会長
住吉工業(株) 代表取締役会長
中村髙志 氏

資材高騰、担い手不足、働き方改革、建設DX、災害対応など、地域建設業を取り巻く環境は大きく変化している。一方、下関市では市営住宅の建替え、新市立病院建設、駅前再開発、長州出島の産業拠点化など、新たな建設需要も生まれている。(一社)山口県建設業協会の会長として、今年5月に2期目を迎えた中村髙志氏に、地域建設業の役割と今後の展望を聞いた。
地場企業が地域経済を支える
──(一社)山口県建設業協会の会長として、2期目を迎えられました。現在の建設業界をどのように見ていますか。
中村 建設業界は、資材高騰や担い手不足、働き方改革、DXへの対応など、多くの課題に直面しています。一方で、地域のインフラを守り、災害時には最前線で復旧を担うという役割は、これまで以上に重要になっています。
「地域に必要とされ続ける産業」として次世代へ引き継ぐことが、山口県建設業協会会長としての大きな役割だと考えています。平時には道路や橋、建物など地域の基盤を整え、有事にはいち早く現場に入り、地域を守る。その役割の価値を、若い世代や地域社会にもっと伝えていかなければなりません。
──下関エリアの建設需要をどのように見ていますか。
中村 現在、下関市内では老朽化した市営住宅の大規模な建替えが進んでいます。市からは、JV(共同企業体)を活用し、地場企業の力を結集してほしいという意向も示されています。これは単なる受注機会ではありません。地域の雇用を守り、技術を次世代へ継承するための重要な取り組みです。
また、下関市立市民病院と下関医療センター(旧・厚生病院)の統合による新下関市立病院の建設、下関駅前再開発、火の山公園(下関市みもすそ川町)の整備なども控えています。下関競艇場のリニューアルも重要です。競艇事業は市の収益事業であり、その財源は福祉や教育など地域に還元されています。
公共施設やインフラは、完成した時点で終わりではありません。道路も橋も建物も、長く使い続けるには維持管理が欠かせません。地場企業だからこそ、完成後の補修や災害時の対応まで含めて、責任をもって関わることができます。
──地域の建設業は、単に建物をつくるだけではないということですね。
中村 その通りです。地場業者がインフラを整えるということは、完成後の維持管理も含めて、長期的な安心を地域に提供するということです。地域を知る企業だからこそ、災害時にもすぐ動ける。その意味で、建設業は地域の安全保障を担っていると考えています。
建設業は、地域経済の循環にも深く関わっています。地場企業が工事を担えば、資材、運送、設備、協力会社など、地域の関連事業者にも仕事が生まれます。若い人を雇い、技術を教え、地域で生活できる基盤をつくる。建設業の役割は、目に見える構造物をつくることだけではなく、地域経済を支えることにもあります。
災害時に真っ先に動く存在
──「地域の守り手」としての山口県建設業協会の役割について、お聞かせください。
中村 豪雨や台風で道路や河川、ライフラインに被害が出たとき、真っ先に現場へ駆けつけるのは地域の建設業者です。山口県内には13支部があり、550社の構成企業が国、県、市と緊急時の即応契約を結んでいます。
災害時には、道路が寸断されることもあります。土砂が流れ込み、緊急車両が通れなくなることもあります。そのとき、最初に現場に入り、土砂を撤去し、通行を確保するのは、地域の建設業者です。これは行政だけではできません。重機をもち、現場を知り、すぐ動ける企業が地域に存在しているからこそ、初動対応が可能になります。

──550社という組織を、どのように機能させているのでしょうか。
中村 闇雲に動くのではなく、道路や河川ごとに担当ルートを割り振っています。「このルートはこのグループが担当する」と責任の所在を明確にしておくことで、災害時にすぐ動ける体制を整えています。初動の早さが、住民の生命と財産を守るうえで非常に重要です。平時からの準備がなければ、実際の有事の際にスムーズには動けません。どの会社がどの地域を担当するのか、どの機械をもっているのか、どのルートを確保すべきなのか。そうした情報を共有し、訓練や協議を重ねておく必要があります。協会としては、行政との連携をさらに強め、災害時に実効性のある体制を維持していきたいと考えています。
建設業は平時には道路や橋、建物をつくり、有事には復旧の最前線に立つ仕事です。地域になくてはならない存在であることを、もっと多くの人に知ってもらいたいと思います。
若者と保護者に伝える業界の実像
──担い手不足への対応について、どのような取り組みが必要でしょうか。
中村 工業高校からの採用だけに頼る時代ではなくなっています。商業高校や普通科高校など他分野の卒業生も、積極的に採用していきたいと考えています。入社後に一級施工管理技士などの資格取得を支援すれば、どの分野からでもプロフェッショナルは育ちます。
建設業には、現場作業だけでなく、施工管理、積算、営業、総務、ICT活用、ドローン操作など、さまざまな仕事があります。数字に強い人、コミュニケーションが得意な人、パソコンやデジタル機器に強い人も活躍できます。入口を狭く考える必要はありません。
また、子どもたちに建設業を知ってもらうことも大切です。たとえば、定期的に行っている「やまぐち建設フェス!」などで重機を体験してもらい、幼いころから「建設業って面白い」と感じてもらうなど、将来の進路選択につながる種まきが必要です。
──保護者向けの説明会にも力を入れていると聞きました。
中村 今の若者が進路を選択するときに、親御さんの影響は非常に大きいと考えています。そこで、保護者を招いた説明会を行っています。この説明会の特徴は、入社3~5年目の若手社員に参加してもらい、親御さんの前で本音を話してもらうことです。親御さんからの質問に対し、仕事の良い面だけでなく、苦労や悩みも隠さず話すことで、かえって安心感につながります。会社が一方的に良いことだけをいうより、若手の率直な声のほうが伝わるのです。学生本人だけでなく、家族にも納得してもらうことが、入社意欲を高め、離職防止にもつながると考えています。
建設業には、まだ昔ながらの厳しいイメージをもつ方もいます。しかし、実際には安全管理も進み、資格取得支援や休日の確保、働き方改革も進んでいます。保護者の方に現場の実態を知ってもらうことは、非常に重要です。
──外国人材の受け入れについては、いかがでしょうか。
中村 ブラジルやインドネシアなどから来る外国人材も、大切な仲間です。当社(住吉工業(株))の話ですが、彼らが安心して働き、技術を磨けるよう、24人が入れる独身寮も整備しました。単なる労働力ではなく、地域を支えるプロとして育てることが大切です。
外国人材に長く働いてもらうには、仕事だけでなく生活面の支援も必要です。住まい、言葉、文化、地域との関係づくりまで含めて、安心して暮らせる環境を整える。そうすることで、彼らも会社や地域に愛着をもち、技術者として成長していきます。
DX活用で働き方を変える
──2024年問題や働き方改革に、どう向き合っていますか。
中村 働き方改革は法律であり、守らなければならないものです。一方で、残業代で稼ぎたいという人がいるのも現実です。経営者として難しさはありますが、生活の質を高め、持続可能な業界にするためには、意識を変えていく必要があります。
そのために重要なのが、DXの活用です。ドローンによる測量や設計の効率化は、かつての重労働を大きく変えました。リモート会議も同じです。現場や車中から会議に参加できるようになり、移動時間を大幅に削減できました。
建設業は、現場に行かなければ仕事にならない面があります。しかし、すべての打ち合わせや確認を対面で行う必要はありません。デジタル技術を使えば、現場の写真や図面を共有し、離れた場所でも判断できます。移動時間を減らせば、その分を現場管理や休息に充てることができます。
協力業者も含めて、無駄な時間を減らし、実務や休息に充てる。これが定着すれば、働き方は大きく変わります。テクノロジーを使い、限られた時間のなかで最大限の成果を出す業界に変わらなければなりません。
DXは、若い人に選ばれる業界になるためにも欠かせません。スマートフォンやデジタル機器に慣れた世代にとって、紙と電話だけの仕事は魅力的には映りにくいものです。建設業こそ、最新技術を取り入れ、効率的で創造的な仕事に変えていく必要があります。
長州出島が拓く新たな産業基盤
──下関市の将来を考えるうえで、長州出島の動きも重要です。
中村 下関は、第二の関門橋となる下関北九州道路(通称:下北道路)や山陰道路の整備など、広域物流の結節点として重要な局面を迎えています。そのなかで長州出島では、大きな動きが出ています。大手造船会社が、既存の工場用地を買収・集約し、大規模な造船所を新設する計画を進めています。
長州出島は、物流や製造の拠点として整備されてきた場所です。下関は本州と九州を結び、アジアにも近い。港湾、道路、物流施設が一体となれば、産業の集積地として大きな可能性があります。造船や海洋関連産業が加われば、さらに新しい展開が期待できます。
──産業構造が大きく変わる可能性がありますね。
中村 まさに千載一遇のチャンスです。官民の大型プロジェクトが同時に動き、土地利用の在り方も変わろうとしています。建設業は、単に基盤を整備するだけではなく、変化する産業構造のパートナーとして、地域に新たな富を生み出す役割を担う必要があります。
道路や港湾、工場、物流施設が整えば、人が働く場所が生まれます。企業が進出し、雇用が生まれ、地域経済が動きます。建設業は、その最初の土台をつくる仕事です。下関市が次の成長局面に入るためにも、インフラ整備と民間投資をしっかり結びつけていくことが大切だと考えています。
一流のプロとして選ばれる人材へ
──次世代の経営者や技術者に伝えたいことは何でしょうか。
中村 私が常に伝えているのは、一流のプロとして、技術的にも人間的にも「あんたじゃないとダメだ」といわれる力を磨いてほしいということです。地域や顧客から信頼され、替えの利かない存在になること。それが、個人の幸せにも、地域の発展にもつながります。
技術だけでも、人柄だけでも不十分です。高い技術をもち、約束を守り、相手の立場を考え、最後まで責任をもつ。そういう人が、本当に信頼されるプロです。建設業は、完成したものが地域に長く残る仕事です。だからこそ、誠実さが問われます。
協会としても、技術研修や講習会を通じて、会員企業や技術者の成長を支えていきます。資格取得、技術力向上、安全管理、経営改善など、学ぶべきことは多い。業界全体で人を育てる意識が必要です。
建設業は地域のインフラを守り、未来の景色をつくる誇りある仕事です。当社(住吉工業)も今年で創業70周年を迎えますが、100年先も地域から必要とされるプロ集団であり続けたいと考えています。そして山口県建設業協会の会長としては、会員企業とともに技術と人材を育て、地域の守り手としての使命をはたし続けることが責務です。山口の建設業界の未来を、次世代とともに切り拓いていきたいと考えています。

【内山義之】
<COMPANY INFORMATION>
住吉工業(株)
代 表:中村成志
所在地:山口県下関市長府扇町1-23
設 立:1956年10月
資本金:9,800万円
URL:https://kogyo.smgp.co.jp
<プロフィール>
中村髙志(なかむら・たかし)
1947年、山口県宇部市出身。東京電機大学工学部建築学科卒業後、69年4月住吉建設(株)に入社。72年5月住吉工業(株)に入社。2015年11月、同社代表取締役社長に就任。19年11月に(一社)下関商工会議所副会頭、24年5月に(一社)山口県建設業協会会長に就任、現在2期目を務める。26年6月には(一社)全国建設業協会の副会長に就任した。

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