政治経済学者 植草一秀
『日本経済の終宴 絶頂株価後の最強投資戦略』(ビジネス社)を上梓して、ありがたいことに多くの読者から温かいコメントをいただいている。
この本の原稿最終締め切りは6月22日頃。日経平均株価は6月22日に7万2,831円の高値を記録した。株式市場について「いけいけどんどん」の論調が最高潮に達していた局面だ。
本のタイトル『日本経済の終宴』は「終焉」でなく「終宴」。日本の株式市場で13年半にわたって繰り広げられてきた「宴」がそろそろ「お開き」になるとの見立てで執筆した。
株式市場ではAI・半導体関連の銘柄が突飛高。半導体のキオクシアは時価総額でトヨタを抜いて日本一に躍り出た。米国の半導体大手エヌビディアの株価時価総額は一時5兆ドルを突破した。1ドル160円で計算して800兆円。日本のGDPを超える金額だ。
この局面で株価上昇の終局を記述する書は皆無に近い状況だった。本書は月2回発行している会員制レポート『金利・為替・株価特報』=TRIレポートhttps://uekusa-tri.co.jp/report-guide/の年次版。
TRIレポートではAI・半導体株価の推移が金価格推移と類似していることを指摘。絶頂に向かう動きだが、その向こう側に「ナイアガラの滝」が控えていると記述してきた。AI半導体株の推移を端的に示すのがフィラデルフィア半導体株指数(SOX指数)。予測通り、SOX指数は金価格同様の急反落を示した。
上掲書には参考銘柄21を掲載した。日経平均株価が7万2,831円の高値を記録した時点での参考銘柄掲載。平均株価が低迷しているときの銘柄提示は容易だが、絶頂株価の時点での銘柄提示は極めて困難である。しかし、21銘柄のほとんどは「非・AI半導体銘柄」である。すでに掲載銘柄から株価急騰を演じたものが多数生じている。
2012年11月の日経平均株価は8,600円。13年半経過した26年6月の日経平均株価高値は7万2,831円。日経平均株価は8.4倍の水準に上り詰めた。13年半続いた「宴」が「お開き」に近づいているとの「大局観」から本書タイトルをつけた。
果たしてこの「大局観」が正しいのかどうか。一瞬先は闇であるから断定はできないが、これまでの年次版TRIレポートは金融変動の大局観を間違ったことが一度もない。極めて的確に金融変動を予測してきたことはたしかである。
もうひとつ。本書で特記した重要事項がある。それは為替市場の潮流変化についての指摘。為替変動をもたらす主要因が三つある。
1.経常収支不均衡の変化
2.内外金利差
3.政策当局の政策スタンス
近年の為替変動で中核的影響を発してきたのが金利差。正確に言えば「実質短期金利差」。現時点でもドル短期金利が実質で円短期金利よりも2%高い。これが根強いドル高圧力を形成している。しかし、実質短期金利差が3%を下回ると為替変動に与える影響力が縮小することが実証的には確かめられる。
その際に、主導的な影響を与えるのが政策当局の為替政策スタンスである。これも正確に表現すると、「米国の為替政策スタンス」である。本書では、この点に焦点を当てて、ドル円が「暴落」から「暴落是正」にトレンドを転換する可能性を指摘している。
金融変動に関する著作を上梓することには大きなリスクがある。提示した予測がすぐに現実の結果によって判定を受けるからだ。未来は常に不透明である。その不透明な未来に関する「予測」を提示する。時間は常に流れて、常に現実の結果を表出してゆく。予測を提示する者は常に現実の実績によって評定を受けることになる。
これまで予測を的確に的中させてきた身からすれば、各予測者の予測と実績の比較をしてもらいたいと感じる。これは経済政策論議も同じ。それぞれの局面で経済政策についての論争が存在してきた。各時点で私も政策提言を提示し続けてきた。このタイミングでの増税決定はリスクが大きすぎる(1997年度)。ゼロ金利解除は時期尚早である(2000年)。行き過ぎた緊縮財政は金融危機を再来させる(01年)。量的金融緩和政策だけでインフレは引き起こせない(13年)。消費税増税が日本経済を暗転させる(14年、19年)。日銀は金融政策運営を引き締め方向に転換すべきである(23年)。など多くの政策提言を示してきた。
それぞれの局面で大きな論争が生じてきたが、過去30年にわたる政策論争において、私が提示した主張が間違ったことは基本的にない。こうした政策論争とその後の実績の「検証」が極めて重要である。
経済政策運営が適切に行われてきたなら、まったく異なる現実が生まれている。経済現象は比較対照実験ができないから批評で終わってしまうが、日本経済の失われた30年をもたらした元凶は政策運営の誤りにあった。そして、いまも経済政策は誤りを続けている。
バブルの生成と崩壊もそのひとつ。バブル崩壊で多くの国民が塗炭の苦しみを味わった。経済活動においては「自己責任」が重視されるが、経済政策運営の失敗によって、政策が適切に遂行されていたなら回避可能だった苦しみが増幅された面は否定できない。しかし、政策運営者は責任を取らない。政策運営失敗のツケは国民の側に押し付けられる。
日本円暴落は日本の経済安全保障上の最大の問題。円暴落で日本が買い占められている。これを防ぐには日本円防衛が必要。高市氏は経済安全保障相を務めたが、日本円暴落に警鐘を鳴らしたことが一度もない。日本円暴落を放置、推進してきた。日銀の利上げにも妨害行動を繰り広げてきた。
米国もドル上昇、日本円暴落を推進してきた面がある。円暴落は米国資本が日本の優良資産を格安で買い占めるチャンスを提供するからだ。現実に巨大な投資が実行されてきた。巨大な対日実物投資を行うことによる利益を刈り取る最終局面についての戦略が「出口戦略」。この「出口戦略」の視点から米国が円高誘導を始めたのではないか。
円暴落を放置してきた高市内閣だが、米国が円高誘導に方針を転換すると、そのまま隷従する。これが日本の政策対応。『日本経済の終宴』に記述したのがこの点である。詳細は本書をご高覧賜りたい。
金融市場は大きな地殻変動を引き起こす時期に差しかかっている。このことを包括的に記述したのが本書である。時代を大局的に把握するために本書をご高読賜りたく思う。本書は同時に「絶頂株価後の最強投資戦略」も提示している。
<プロフィール>
植草一秀(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。経済金融情勢分析情報誌刊行の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門第1位。2002年度第23回石橋湛山賞(『現代日本経済政策論』岩波書店)受賞。著書多数。
HP:https://uekusa-tri.co.jp
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