毎年、8月のお盆ごろ密かに山で咲く花がある。絶滅危惧種のナツエビネである。淡い紫色の花で、春に咲くエビネ類と比べて涼しげで爽やかである。
ナツエビネのありかを知ったのは10年くらい前である。また、エビネ類は盗掘にあい、年々その数を減らしている。
8月18日(火)、いつもの仲間を誘った。筆者を入れ4名(女性1名)が集う。行き先は福岡県側の脊振山直下の沢ルートである。
集合場所までの林道が狭いので仲間の車を心配する。少し遅れ登山口に相乗りで来た。「ナツエビネの所までとりあえず行ってみて、体調をみて上まで進もう」と声をかけた。
上までとは脊振山直下にある自衛隊道路である。自衛隊道路は福岡市早良区の奥地の板屋から航空自衛隊脊振山分屯基地に続く道路で、10年前から完全舗装されている。自衛隊基地までは20分ほどの急カーブが続く自衛隊専用道路でもある。
脊振山周辺では2023年8月の豪雨により斜面が大規模崩落した。自衛隊道路の斜面は崩落した後、大規模工事で大きな砂防ダムができている。今も法面工事が続いており、通行止めになっている。脊振山直下にいくつもある沢ルートを通ると自衛隊道路に出る。
筆者たちは草ぼうぼうの林道を進んだ。棘のあるイラクサを一番用心しなければいけない。葉にある刺毛に刺されると腫れて痛痒くなるからだ。
林道をしばらく進み、細い作業道に入る。植林された杉の枝を左右にかき分け進むこと10分、脊振山直下からの沢に出た。沢のすぐ横の登り斜面は荒れた灌木帯である。
ところどころ、山好きがつけた赤テープがある。この赤テープは目印程度であり、信頼して歩くと目的以外の所を歩くこともある。したがって、自分たちで進路を確かめる必要がある。
鬱蒼とした樹木の枝を避けながら上部へ進む。苔むした石の上を何度も跨いで、感覚で進む。20分歩き、やっとナツエビネのある場所の近くに辿り着いた。筆者たちは盗掘を避けるためナツエビネの場所に目印は付けていない。
「確か、ここやった」「あった、あった」。ナツエビネは2年前よりも数を減らしていた。数が少ないのは今年の夏の異常な高温と雨が少なかった影響もあるのだろう。
ナツエビネは群生し、4株ほどが長い縦筋の葉から長い茎を伸ばし、淡い花を付けていた。茎は、春に咲くエビネ類より細長く、その長い茎にたくさんの淡い花を咲かせる。名前の通り、ランの特徴をもつ植物である。
ここのナツエビネは昔の炭焼き窯の石積みで囲まれている。仲間たちは石積みの囲いのなかに入り1人ずつ撮影した。
筆者は標準レンズやマクロレンズを使って撮影した。また風で花が少し揺れるので余計に時間がかかった。撮影が終わると、「どうぞ」と申し訳なく仲間に声をかけた。太陽光の影響もあり、撮影はうまくいかなかった。
随分前、ここに1人で撮影に来たことがある。いざ撮影しようとするとザックに下げていた三脚がない。木の枝に引っかかり落としていたのである。周辺を探したが見つからなかった。筆者はあきらめて手持ちカメラで撮影した。
後日、T先輩と山に行く機会があった。車での待ち合わせ場所に来ると、何やら長いものを下げていた。筆者の三脚である。「エビネのある場所あたりで落とした」とは伝えていた。先輩が山で見つけてくれたのである。中型の三脚で1㎏はある。「重いものを下げて歩いたバイ」とT先輩。感謝、感謝であった。
ナツエビネの撮影を終え、足場の悪い沢の上部へ進む。30分進むと崩落箇所に着いた。ここを流れる幅10m、長さ100mの美しいナメ滝(水が舐めるように流れる滝)は、上部から崩落し、200mほどの長さになっていた。女性Sは「いけるかな」と不安がった。ここから斜面を下る方が危険である。「怖がるな、足をしっかり地面に着け、ロープを確実につかめ」と励ました。
以前、自分たちが樹木に取り付けていた作業用のロープが10本ほど下がっていた。筆者は、先に進んだ後輩たちを滝の下方から確認していた。樹木や枝を握り、ロープを頼りに無難に進んでいた。
後輩たちに追いつき、水の少ない滝のテラス(比較的平らな場所)で一息ついた。可愛い山野草のミゾホオズキやミズタビラコが咲いていた。
テラスから下方の滝を眺める。崩落した滝は静かにどこまでも流れていた。冬は凍結して見事な氷瀑になっているだろうなと想像もした。冬に我々が来るには危険すぎる場所である。
ナメ滝横から藪漕ぎをして自衛隊道路へ向かった。青空のなかに道路の白いガードレールがみえてきた。灌木や熊笹を左右にかき分けやっと標高971mの自衛隊道路にでた。暑かった。所要時間は2時間20分。頑張りました。筆者を含め後輩たちも高齢化し、このルートに入るのはこれが最後だなと思った。
着いた場所は前回より50mずれていた。アスファルトの道路を脊振山から気象レーダーに続く道路へ向かった。工事車両が行き来する道路で休みたくなかったからである。
春には枝いっぱいに白い花を咲かす(自衛隊道路脇にて)
青空のなか、脊振山系の金山や糸島方面の十坊山が見えていた。道路の左右に紫色のゲンノショウコが咲き、蛤岳に見に行ったコバギボウシも一輪咲いていた。また道路側に自生しているゴマギやヤブデマリが赤い実を付けていた。春に咲く灌木類の白い花は夏から秋にかけて赤い実を付ける。
葉を擦るとゴマの匂いがする。(自衛隊道路脇にて)
脊振山系は自然豊かな地である。これらの樹木を見ると季節の変化を知ることになる。
自衛隊道路から気象台の作業道路に入り、日陰で風のある道路に座って休憩した。道路上で昼飯を食べるのは初めてである。後輩Hからブドウをもらった。火照る体には最高である。仲間からも菓子類が回ってきた。
しばらくすると、日焼け予防で頭から布を被り、サングラスをした中年の女性2人が近づいてきた。「こんにちは!」と声をかけるが、女性2人は黙って脊振山方面に通り過ぎて行った。
休憩後、10分ほど作業道路を歩き矢筈峠(標高900m)から登山口方面に下った。オオキツネノカミソリの大群落がオレンジの花を咲かせ我々を待っていた。
次回、オオキツネノカミソリへ続く。
脊振の自然を愛する会
代表 池田友行









