トランプ指名で、今後のアメリカ大統領選挙はどうなるのか?(3)
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副島国家戦略研究所(SNSI)研究員 中田 安彦
民主党のヒラリー・クリントン候補の課題は、彼女自身が国民から驚くほど信頼されていないという問題をどう乗り越えるかということと、対抗馬のバーニー・サンダースの支持者となった白人貧困層を中心にしたリベラル派や無党派層の取りこぼしを防ぎ、同時に黒人かヒスパニック系の票を確実にする人物を副大統領に指名することだ。
サンダースを副大統領候補にして国内の福祉政策を任せてしまうのが一番手っ取り早い気がするが、現在は、女性上院議員のエリザベス・ウォレンの名前が急浮上している。ウォレンは、サンダースが出馬表明するまではヒラリーの有力対抗馬としてリベラル系が担ぎ出そうとしていた政治家で、アメリカン・インディアンの血も引いているそうだ。サンダース同様、ウォール街規制に積極的な立場である。一方で、ヒスパニックの票を確実にしたいのであれば、オバマ政権で住宅都市開発庁長官の座にある、テキサス州サンアントニオ市長の経験がある、ジュリアン・カストロという若手だろう。彼は2012年の民主党大会で、名誉ある基調演説者として登場した。オバマ大統領も04年の党大会でこの演説をすることで、注目されたことがある。女性とヒスパニックのどちらかになるとみるのが妥当だ。それ以外の白人政治家では、党内的には重鎮であっても、ヒラリーの弱みを補完することができない。
共和党にとって、ヒラリーを攻撃する材料はいくつかある。まず、ヒラリーは、国務長官時代に、国務省ではなく、自前のメールサーバーを使って機密情報を含むメールをやり取りしていたことが共和党によって追及されている。この問題では、側近が事情聴取されているほか、ヒラリー自身も近くFBIの聴取を受けることになっている。また、この側近の1人で、ヒラリーの選対本部副委員長をしているフーマ・アベディンというイスラム教徒の女性が、「特別政府雇用」扱いでヒラリーの副補佐官という公職にありながら、民間のコンサルタント会社やクリントン元大統領が設立した民間財団のコンサルタントをしていたことも批判されている。国務省、コンサル会社、財団を自由に出入りしたこの側近が、民間のクライアントに便宜を図った事実があるのではないかと共和党は疑っている。
そもそも、メール問題やヒラリーの側近の行動に焦点があたったのは、12年9月11日のリビアのベンガジ領事館襲撃事件に対し、ヒラリー国務長官が適切な対応をしたのかどうかを調査する議会の動きの最中のことだ。領事館の警備を含め、国務長官が適切に職員の安全を守る配慮をしていたかどうかが、共和党から追求されている。この問題では公聴会も去年秋には実施され、ヒラリーが数時間におよんで質問攻めにあっている。
今のところ、メール問題、財団問題、ベンガジ問題と、いずれもヒラリーに対して決定的に打撃になる材料は見つかっていない。しかし、かつて「偉大なる右派の陰謀」とリベラル派を戦慄させた共和党の反ヒラリー調査団が、何かを見つけてくる可能性はゼロではない。
さらにはサンダース候補が厳しく追求したように、ヒラリーとウォール街との関わり、具体的には高額報酬を受けてどのような演説をゴールドマン・サックスで行ったのか、ということについても、引き続きトランプが攻めて来る可能性もある(ただ、トランプ選対の全国財務委員長となったのは、元ゴールドマン・サックスのファンドマネジャーである)。(つづく)
<プロフィール>
中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。関連キーワード
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