2024年12月19日( 木 )

炎上する韓国、民主主義が失敗し、「夜郎自大」が没落する

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 パク・クネ大統領の前代未聞の醜聞で、炎上中の韓国をよそ目に、僕は10日から台湾にいる。僕が離日後の展開は、予想通りだ。大衆デモが燃え上がるが、大統領は「下野」する気はない。ここは我慢のしどころだからだ。支持率が0%になっても、彼女は辞めないだろう。

 「パク・クネの醜聞」は、大韓民国の民主主義の失敗である。1980年代末、ほぼ同時に民主化を達成した台湾が、今春、民進党政権が再執権して「台湾人のための台湾国家」を目途に雄々しく前進しているのとは対照的に、韓国は今回の事態によって、民主主義という名の「左翼主義」に歯止めが掛からなくなった。米国にトランプ政権が誕生し、東アジア情勢はさらに流動化する。韓国の左傾化は確実な情勢だ。

「悲劇」の始まりは1974年の銃弾

bench 悪魔の高笑いする声が、僕には聞こえる。
 日韓のマスコミは、なぜ、このことを書かないのか。あの「テロリストの銃弾」が、朴槿恵を狂わせたことを。

 1974年8月15日、朴槿恵の母・陸英修女史は、北朝鮮が放った在日韓国人の銃弾によって殺害された。これが、今回の「悲劇」の始まりである。娘・朴槿恵の心の空白に侵入した男が、醜聞の女の父親である崔太敏だ。陸英修女史の夫・朴正煕大統領(当時)も最愛の妻を失くし、孤独だった。後妻を勧める声もあった。しかし朴正煕は常に「槿恵が……」と健気にファースト・レディ役を務める娘を思いやった。そして朴正煕もまた、部下の銃弾に倒れた。

時代は流れ、娘もまた大統領になった。国家に殉じた父親は常に胸の中にいたが、依然として孤独だった。周囲にいる政治家もマスコミ出身者も信じるには足りなかった。その結果、「不通大統領」と批判された。

 1人だけ心を許せる女がいた。崔太敏の娘・崔順実である。テロリストの銃弾が撃ち抜いた心の隙間で、悪魔の癌は増殖していたのだ。それが2人の父娘二代の大統領の「死」を招いた原因だ。

 「屍のような女」。醜聞が発覚する1週間前、北朝鮮の通信社は朴槿恵を嘲笑った。彼らは今、韓国に再び左派大統領が登場する日を待ちわびている。

「朴槿恵の真実」とは、何だったのか?!

 呉善花の同名新書(文春)を読み返した。案の定、今回の醜聞で明らかになったことは、ほとんど書かれていた。多くの韓国人が知っていた話である。

 今回の事態は、政治の側面から見れば前回の大統領選挙の勝者(朴槿恵)が失墜し、敗者(文在寅:ムン・ジェイン)が再浮上したということだ。朴正煕の権威が暴落し、盧武鉉の亡霊が再浮上したということだ。文在寅とは何者か。彼が秘書室長を務めた盧武鉉の対北言動も、すでに明らかになっている。
 朴槿恵が言っていた。「人生は演劇だ。脚本まで変える権限は、人にはない」。サイビ(偽物)が退場し、ゾンビ(左派)が再登場するのか。韓国人は何を選択するのか?

 「憲政史上初めて」。大統領捜査~不起訴が法規上明白な状況で、韓国のマスコミははしゃぎすぎだ。シラケて見ている近隣諸国民の姿は、彼らに見えているのだろうか? 僕が毎日新聞ソウル特派員時代、「我が国ではネタに困らないでしょう?」と、韓国人から自嘲気味に聞かれたのを思い出す。

 文在寅。次期大統領の有力候補をめぐる僕の関心は、この男にある。韓国の政治局面は、この野党リーダーを中心に観察すべき時期が早くも到来した。世論調査でも、支持率が保守派のバン・キムン(国連事務総長)を上回った。左派の台頭が確実な韓国情勢で、日本人が注目すべきなのは、すでに、この人物だ。

 「我が国は、誠実に生きて報われる、国家なのか?!」
 フェイスブックに投稿される韓国の友人たちの心境は、察するに余りある。僕の韓国人のフェイスブックフレンドたちは、大分での大学教授時代に知り合った若者たちが少なくない。立命館アジア太平洋大学(APU)や日本文理大の元韓国人留学生たちだ。彼らは、韓国の良さも日本の良さもわかっている。前述の言葉は、ある元留学生が書き込んだものだ。

 今回のパク・クネ醜聞で僕が心配するのは、韓国という国家の基本が問われていることだ。国家というフィクションには、神話が必要だ。日本には「皇室」という神話がある。現代韓国の神話とは何か。その神話の1つだった男、朴正煕の評価が、娘の醜聞とともに崩壊しようとしている。過去の先人たちの苦闘の時代を否定し、現在の価値観を最上のものとして賛美する者たちは、常に未来によって裏切られてきたのではないか。

 「誠実に生きて報われる国家」。海峡の向こうから届いたメッセージは、現在の日本をも撃つ。

 12月に、僕はソウルに行く。
 実に1年ぶりだ。去年12月に行った時に、本当にガッカリした。3年ほど前から、韓国は全盛期を過ぎた、と韓国の友人たちに言ってきたが、昨年末の訪韓で、本当に行き詰まったと思った。

 今年になって、韓国の惨状は、誰の目にも見えるようになった。在日コリアンの友人は「僕の韓国批判が過ぎる」、と言ってきた。僕は「1980年代後半の韓国はもう存在しない」と言った。この国がやることは、学びの対象にならなくなったのだ。そして、今回の醜態である。

 来年は民主化宣言(1987)から30年目である。僕が韓国に行き始めてからだと、42年目になる。韓国の何が退歩したのか、再確認したい。

<プロフィール>
shimokawa下川 正晴(しもかわ・まさはる)
1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授、大分県立芸術文化短期大学教授(マスメディア論、現代韓国論)を歴任。国民大学、檀国大学(ソウル)特別研究員。日本記者クラブ会員。
メールアドレス:simokawa@cba.att.ne.jp

 

関連キーワード

関連記事