2024年12月23日( 月 )

驚くべき勢いで公約を実現するトランプ新政権(後)

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副島国家戦略研究所・中田安彦

 米国土安全保障省(DHS)のデータ(※1)によると、第二次世界大戦後、アメリカに対する合法移民(永住権取得者)は増え続け、1950年代には約25万人だったのが、2000年代に入って103万人台に達している。また、ピューリサーチ・センターの調査(※2)によれば、アメリカ国内の不法移民も、2000年代半ばに1,220万人に達した後、数は減り始めているものの、2014年段階でも1,100万人はいると言われている。しかも、10年以上不法滞在している人の率が上昇しており、2014年では65%を超えているという。

sekai トランプ政権の屋台骨であるチーフ・ストラテジストのバノンの古巣である「ブライトバート・ニュース」はそのような現状に危機感を覚える「オルト・ライト」という白人至上主義的傾向のあるグループに熱烈に支持されている。日本ではネット右翼や「行動する保守」を標榜する団体が、在日韓国人に対してヘイトスピーチを行ったことが問題になったが、大量に移民を受け入れているアメリカの問題はその比ではない。マイノリティになるのを恐れたアメリカ白人たちが、レーガン政権時代のアメリカの絶頂期を思い起こさせるトランプを支持したことにはそういう背景もある。

 トランプのいう「アメリカ・ファースト」(アメリカ国内問題優先主義)が、かつてのようなアイソレーショニズム(孤立主義)に向かうという声は今のところ少ない。実際、トランプ政権の国防長官となったジェイムズ・マティスも、上院での指名公聴会で「同盟国との緊密な連携」を打ち出している。通商政策でも、トランプ一流の恫喝戦術は、最終的に落とし所を有利な方向に持っていくディールの一手法だという可能性はある。ただ、それでも報道官の挑戦的な姿勢や、大統領就任後も止まらない激情的なツイッターの嵐や、ネット右翼あがりの戦略家たちの行動は多少の気がかりを感じざるを得ない。

 我が国の安倍晋三首相は、当面はひたすら下手に出て、新大統領に取り入って激発させないようにする方針のようだ。ただ、それでも為替政策や通商政策、外交安保政策でトランプから突き上げを食らう時が遠からず来るだろう。また、中国に対する通商政策の圧力が、安全保障上の対立に結びつくことは、安倍政権の予想をも超えた危機をアジアにもたらすかもしれない。そのことは今から十分に覚悟しておくべきだろう。

(了)

(※1)Persons Obtaining Lawful Permanent Resident Status: Fiscal Years 1820 to 2015
(※2)5 facts about illegal immigration in the U.S.

<プロフィール>
nakata中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。

 
(中)

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