ホワイトハウスの「権力闘争」のさなかに起きたシリア攻撃(1)
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SNSI・副島国家戦略研究所 中田安彦
フロリダのパームビーチにあるトランプ大統領の別荘に中国の習近平国家主席が訪れて、出迎える晩餐会で米中首脳が友好関係の構築を演出していたそのさなかで、地中海に浮かんでいたアメリカ海軍の駆逐艦二隻は、シリアの空軍基地に向けて60発の巡航ミサイルを発射していた。すでにトランプ大統領はイエメンへの軍事介入を実施し、その際にオスプレイの墜落事故で米軍の特殊部隊の一人を死なせていた。ただ、この作戦の計画自体はオバマ政権からの持ち越し。その他、シリアへの反イスラム国(ISIS)の武装勢力の支援などで小規模の特殊部隊を派遣してはいたが、今回4月6日に実施したシリア攻撃がトランプ大統領の最高指揮官としての「初仕事」となるといって良い。
米軍需産業のレイセオン社の生産するトマホークミサイルによる攻撃では、シリア空軍基地で兵士数名が死亡しているが、深夜の攻撃だったことや、事前に反ISISの作戦のために駐機していたロシア空軍には連絡があったこともあり、犠牲者は最小に留められた。この軍事攻撃は今週の火曜日早朝にシリア国内のISIS支配地域で起きた、化学兵器サリンによる病院の爆撃に対する「報復」ということになっている。目撃情報から、この化学兵器による攻撃は、ロシア製のシリア軍機による攻撃として断定されているが、実際にそうだったのかはわからない。ただ、トランプ大統領はそのように認識している。
大統領になる前にオバマ前大統領が同様にシリア国内での化学兵器攻撃があったときには、トランプは「オバマは軍事行動を行うな」と繰り返し意見を表明していたほか、大統領になってからも今週の初めまでは、トランプ政権の国務長官や国連大使も、アサド政権の継続を容認する動きを見せていた。ところが、火曜日の攻撃の様子を記録した映像や犠牲者の赤ん坊の写真をみて、態度を一変させた。アサド大統領がアメリカからの体制保証を得られる兆しが見られた直後に、化学兵器攻撃を民間人に対して行うということは、アサドに全く利益がないように見えるが、これについてはアサドがアメリカの姿勢を読み誤ったという解説がなされている。しかし私は、アサド政権の継続を快く思わない勢力がシリア政府内におり、その勢力が責任をアサドに押し付けて政権交代を図ろうとしたのかもしれないと思っている。ただこれは私の憶測だ。
トランプ政権の行方を予測する上で極めて重要なのは、このシリア国内での化学兵器による攻撃が、ホワイトハウス内での権力闘争のさなかに起きたことだ。もっとも重要な動きは、シリアでの化学兵器攻撃が起きたのと相前後して、選挙期間中にトランプをメディア戦略などの面でサポートし、彼の「ポピュリスト」としての思想的振り付けを担当した、主席戦略官のスティーブ・バノンが、国家安全保障会議(NSC)の常勤メンバーから外されたほか、バノンが主導したとみられるNSCからCIA長官や統合参謀本部議長を常勤メンバーから外すという方針を撤回し、これまでの政権どおりのNSCの構造に戻している。トランプが、かつて批判していたシリアへの軍事攻撃に踏み切ったことと、このバノン更迭とは大いに関係している。
(つづく)
<プロフィール>
中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。関連キーワード
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