2024年12月23日( 月 )

久留米市・欠陥マンション裁判1審判決、構造設計の専門家の見解は?(前)

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協同組合 建築構造調査機構 仲盛 昭二 代表理事

 福岡県久留米市の分譲マンション「新生マンション花畑西」の構造・施工の欠陥を巡り、設計事務所と施工業者(鹿島建設)に損害賠償を、建築確認を行った久留米市に建替命令の義務付けと損害賠償を求めた2つの裁判。4月13日、久留米市に関する裁判の判決が福岡地裁で言い渡され、原告(マンション管理組合、区分所有者)の請求が棄却された。全国的にも注目されている同裁判の今後の展開について、原告側の建築技術アドバイザーとして支援を続けている、協同組合建築構造調査機構・仲盛昭二代表理事(構造設計一級建築士)に電話取材を行った。

「すべての建築関係者への冒涜」

 ――1審の判決では、原告の請求が棄却されましたが、判決の内容について、仲盛さんはどのように受け止めていますか。

仲盛 昭二 氏

 仲盛昭二氏(以下、仲盛) 今回の判決は、法律や規準を無視し、建築確認制度を軽んじ、被告である久留米市を勝たせることだけを目的とした内容のように、個人的には感じました。知人の法務関係者も同じような受け止め方でした。法令や規準、建築確認制度を蔑ろにすることは、司法が行政を否定することであり、建築確認制度のなかで法令や規準を遵守している建築関係者全員に対する冒涜であると思います。この点において、構造設計一級建築士として、私は納得できません。

 また、弱者であるマンション住民や近隣の市民の身の安全をまったく配慮していないと感じています。このように、一方的な行政寄りの判決がまかり通るのであれば、弱者である市民は泣き寝入りするほかありません。原告たちは、到底、判決を受け入れられるはずもなく、判決の3日後、4月16日に、弁護士同席のもと、マンション管理組合の臨時総会を開き、満場一致で控訴を決議したと聞いています。

 ――判決は、行政の除却を命じる権限については検討の余地はあるが、建替を命じる権限まではないとしています。

 仲盛 建物が危険だと判断されれば、除却など適切な是正措置を行政が命令することは法に規定されています。裁判所の判断は、建替えることまでは規定されていないということだと思います。また、このマンション全92戸のうち、原告に加わっているのは3分の2です。ですから、「原告以外の区分所有物を取り壊すよう命じることはできない」という指摘は理解できます。

 ――翌日(4月14日)、設計のU&A設計、木村建築研究所や施工の鹿島建設を相手取った裁判が開かれました。久留米市との裁判の判決が影響することはないでしょうか。

 仲盛 私の個人的な考えとしては、久留米市に対する訴訟については、行政訴訟である以上、このような判決になるであろうことは、当初からある程度想定はしていました。久留米市に対する訴訟の目的は、久留米市と鹿島建設・木村建築研究所の責任を世に問うことであり、行政に市民の安全を守るという、自らの責務を果たすように迫ることでした。今回の判決は、建物の設計と施工の瑕疵を問う鹿島建設らとの裁判とは争点が異なるため、影響を与えるものではないと思われます。

 久留米市に対する訴訟は、欠陥マンションを建設した鹿島建設らに償いをさせ、安全なマンションだと信じて購入した、何ら落ち度のない被害者を救済するという目標のために提訴したものであり、原告が控訴することで1審の判決は凍結状態となります。

 鹿島建設らの裁判では、年度替りの異動で裁判長が交代しました。裁判長の引継ぎの過程で、争点があらためて整理されているようです。原告は残された争点について主張を展開することになると思います。技術的な部分の主張について、私どもも弁護士に協力をしていきたいと思っています。

鹿島建設への訴訟

 ――久留米市の裁判の判決は、U&A設計、木村建築研究所、鹿島建設らにとって、後押しとなるのでしょうか。

 仲盛 まだ審理中であり、私の立場から言えることではありません。知人の法務関係者の話によれば、日程的には、「U&A設計、木村建築研究所、鹿島建設」との裁判は、6月22日の次回期日を経て結審し、その後判決に至ることになると思われます。設計関係の被告はこれまでに工学的、技術的な反論を一切行っていません。従って、原告が指摘した、設計における瑕疵をすべて認めたと判断していいのではないかとのことです。

 施工に関しては、鹿島建設の手抜きと思われる、図面に明記された外部階段とのつなぎ梁を各階合わせて30カ所も意図的に施工していないことや、鉄筋のかぶり厚が法規定に足りず、なかには、かぶり厚さがゼロの箇所があるなど、明らかな瑕疵が判明しています。知人の法務関係者の話では、主に建築確認を軸とする久留米市との裁判とは争点が異なるため、設計と施工については、被告の瑕疵が認められるのではないかということでした。

 また、仮に、鹿島建設や設計事務所との裁判の判決が出た場合、被告が控訴するかどうかという点について、先の法務関係者は、設計事務所側が判決を不服とした場合においても、設計関係者の控訴の可能性は低いのではないかという見解を述べています。

 設計と施工の瑕疵について、原告側は当初より、共同不法行為を主張しています。U&A設計、木村建築研究所、鹿島建設が連帯して損害を賠償するというものです。過去の欠陥マンションの裁判でも、デベロッパー、設計事務所、施工業者の共同不法行為を認める判決が下されています。

 鹿島建設が控訴するかどうかは、私が推測することではありませんが、控訴をするためには、新たな事実が判明するなどの諸要件が必要となると思います。これまで長時間かけて審理を尽くしてきたので、今後、鹿島建設側としても、新たな事実を持ち出すことは困難ではないかといわれています。

(つづく)
【聞き手:山下 康太】

 
(後)

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