2024年11月23日( 土 )

耐震性に疑問、豊洲市場の黙殺された致命的な問題(3)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

協同組合建築構造調査機構 理事長 仲盛 昭二 氏

豊洲市場の計画通知審査は妥当なのか

 前述のように、建築基準法施行令第82条の2に定められた層間変形角の基準を下回っていた日建設計による設計について、JSCA会長である森高英夫委員は、擁護する発言をしています。豊洲市場の発注者・建築主であり、同時に計画通知により設計内容を承認した建築確認機関でもある東京都から異論が出ていないということは、東京都も、日建設計や森高委員と同じ考えであると推測されます。

 計画通知も建築確認も、建築関係規定への適合を厳格に審査されることが、建築基準法第6条に定められています。

 建築基準法第6条(※1)では、建築確認について、「その計画が建築基準関係規定、及び、条例、その他、建築物の敷地、構造又は建築設備に関する法律、並びに、これに基づく命令、及び、条例の規定に適合するものであることについて、建築主事の確認を受ける」ことを義務付けています。
 基準法第6条に示された「条例、その他の法律、命令」などは、建築基準法ではありません。また、「建築基準関係規定」については建築基準法施行令第9条に示されていますが、建築確認においては、建築基準法以外の消防法などの法律に適合していることを確認しなければならないとされています。

 建築確認では、上記に示した建築基準法第6条に規定されているように、「建築基準関係規定、及び、条例、その他、建築物の敷地、構造又は建築設備に関する法律、並びに、これに基づく命令、及び、条例の規定で、政令で定めるものに適合すること」を確認するのです。建築基準法以外の法令、国土交通省(建設省を含む)告示、各自治体が定めた独自の条例、日本建築学会規準など、適合させるべき告示や規準の類は枚挙にいとまがありません。

 建築に携わる方であれば、誰でも分かっていることですが、建築基準法だけに適合すれば建築確認済証が交付されるなどということは、現実にあり得ません。

 豊洲市場水産仲卸売場棟の構造設計では、最も重要な基準項目の1つである「層間変形角」が建築基準法施行令に定められている「200分の1以内」の規定に反していることを日建設計は認めていて、構造計算書に手書きで言い訳めいた苦しいコメントを追記しています。
 層間変形角の規定に反していることは、問答無用で法令違反です。この明確な法令違反を、東京都の審査は意図的に見逃したということであり、このような違法な設計が罷り通るのであれば、建築行政における秩序は崩壊してしまいます。建築行政の崩壊を主導しているのが東京都ということになりますから、東京都には、建築行政を担う資格が無いということは明らかです。
 日建設計や森高委員が、層間変形角の規定を満足していない設計を正しいと主張していることは、建築基準法施行令が東京都の建築確認や計画通知に審査の範囲外であることを示すものであり、建築基準法施行令の否定です。他の法令・告示・条例・学会規準等も、審査の範囲外というものです。

 たとえば、建築行政を支援する一般社団法人建築行政情報センターは、「建築物の構造関係技術基準解説書Q&A」を公開しています。これは、国土交通省が監修し、構造設計や建築確認の判断の目安とされている「建築物の構造関係技術基準解説書」の内容に関する質問と回答をまとめたものです。ここに示された回答と相違した設計となっている場合には、建築確認機関から指摘を受けますので、設計を訂正するか、設計の根拠を示し確認を得なければ建築確認を通過することができませんが、Q&Aと相違した設計の根拠・説明は非常に難しい場合が一般的です。

 建築確認の現場において、どういう法令・規準等を根拠に審査が行われているか、実際に建築確認申請を経験している建築士や、建築確認機関に実態を尋ねれば良いと思います。
 PTにおける日建設計の説明では、既製品柱脚を採用した場合の、保有水平耐力計算における構造特性係数「Ds値」について、「割増しは不要」と説明しており、東京都も、日建設計の見解を容認しています。しかし、私が指摘し、問題として取り上げているのは、「Ds値の割増し」ではなく、「Ds値が不正に低減された設計が行われていること」です。これは、国交省監修の「建築物の構造関係技術基準解説書」(2007年版:豊洲市場の設計当時は2007年版)に規定されていることです。
 両者は異なる要素によるDsに関する規定です。日建設計も、東京都も、不正な設計と審査を正当化するために、このような醜い論理のすり替えを行っているのです。

 私が指摘した、「保有水平耐力計算における構造特性係数Ds値が不正に低減された設計が行われていること」については、告示(建設省告示(昭和55年)第1792号)を不正に拡大解釈し、鉄骨鉄筋コンクリート造に認められるDs値の低減を、適用外の鉄筋コンクリート造に強引に適用したものです。

 非埋め込み形柱脚の場合、ベースプレートより下の部分には鉄骨がないので、鉄筋コンクリート造としてDs値を決定すべきなのです。なお、不正な係数により行われた構造計算では、建築基準法第20条に定めた構造耐力を正確に判断することができません。

 たとえば、福岡県や愛知県の適合性判定機関では、判定の目安である判定事例集に、「鉄骨鉄筋コンクリート造柱脚が非埋め込み形である場合、保有水平耐力計算のDs値は鉄筋コンクリート造としてDs値を決定すること」と明記されており、これが守られていなければ、勿論、修正を求められます。福岡県や愛知県の適合性判定機関のチェックは建築基準関係規定である告示に沿ったチェックであり、これは、東京都であっても、必ずチェックすべき項目なのです。

 行政や設計関係者が、いかなる理由で、建築確認の実情と正反対のことを主張し、黒を白といった主張をするのか? それは、彼らが守らなければならない何かがあるからに他なりません。
 日建設計による設計の間違いを認めれば、過去に設計された物件の構造検証も当然必要になり、社会的に大混乱が予想されるので、混乱を避けたい、責任を回避したいということでしょう。
 現実に、日本最大手の設計事務所である日建設計は、公共工事の受注割合が非常に高く、大型物件が大半です。それらの建物の設計が、豊洲と同じ手法で行われていたとすれば、全国の無数の建物について安全確認をしなければならず、場合によっては是正措置も必要になるでしょう。

 建築確認業務は「羈束行為(行政庁の行為のうち自由裁量の余地のない行為)」です。東京都と福岡県・愛知県など他の行政庁との間で、法的手続きとして行政の行為に差が生じてはならないのです。各地の行政庁の間で、建築確認審査に大きな差が生じている事態は放置できないので、国土交通省が指導し、早急に、統一を図るべきです。

(つづく)

※1 建築基準法 第6条 建築主は、第一号から第三号までに掲げる建築物を建築しようとする場合(中略)、当該工事に着手する前に、その計画が建築基準関係規定(この法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定(以下「建築基準法令の規定」という。)その他建築物の敷地、構造又は建築設備に関する法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定で、政令で定めるものをいう。以下同じ。)に適合するものであることについて、確認の申請書を提出して建築主事の確認を受け、確認済証の交付を受けなければならない。(以下省略)

 
(2)
(4)

関連キーワード

関連記事