2024年11月24日( 日 )

日本への影響は?トランプ大統領によるイラン制裁再開(2)

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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏

根拠なき楽観論

 実は、本年7月にはテヘランを訪問し、ロハニ大統領と首脳会談に臨む計画が進められていた。実現していれば、日本の現職首相の40年ぶりのイラン訪問となっていたはずだ。ところが、トランプ大統領による「イラン制裁再開」の決定を受け、急きょ、イラン訪問をキャンセルしたのが安倍首相であった。まさに「トランプ大統領最優先」を信条としているようだ。しかし、トランプ大統領は甘くない。間近に迫った11月の中間選挙や2年後の大統領選挙での再選を目指し、「強いアメリカ」を選挙民に売り込むことにのみ全精力を投入しているからだ。

 イランの脅威は北朝鮮ほど差し迫っていないこともあり、強気一辺倒の姿勢を取っているのがトランプ大統領である。第一、アメリカはイランの原油を輸入していない。せいぜい輸入できなくなるのは絨毯や食品、それにグラファイトなど一部のレアメタルに過ぎない。もちろん、アメリカ製の航空機などはイランに売れなくなるだろうが、大勢に影響はなさそうだ。

 そうした経済的なつながりの希薄さもあり、いくら頻繁に安倍首相と電話で話し合う仲とはいえ、「それとこれとは別」というのがトランプ流。早く目を覚まし、アメリカの自分勝手な制裁発動を転換させなければ、日本は1970年代、石油パニックに陥った「油断」の再来に直面することになりかねない。
 日本では外務省も経産省も「最後はアメリカが折れてくるはず」と、根拠なき楽観論に立っており、極めて危ない道を歩んでいる。国会の場においても、こうした問題はほとんど議論されていない。当然ながら、国民の関心も薄いままだ。これでは気づいた時には「手遅れ」になりかねない。

 最大の問題は、自国の経済や安全保障をアメリカに丸投げしているような体制にあることだろう。エネルギー資源に乏しい日本にとって、イランとの関係はアメリカとは別の意味で欠かせないもの。そのことに日本政府も企業も国民も気付かねばならない。これまで国連総会の場を利用し、安倍首相は毎年のようにイランのロハニ大統領と会談を重ねてきた。今こそ、アメリカの一方的な核合意破棄や経済制裁の動きの非合理性をトランプ大統領にも国際社会にも訴えるべき時である。

 2019年、日本とイランは国交樹立90周年を迎える。その直前に長年の信頼関係を御破算にしかねないようなアメリカの独善的な圧力には断固として「自由貿易」という正論を主張すべきではなかろうか。イランからは日本企業に対し、「イランにとどまってほしい」との要請が相次いでいる。日本はイランにとって7番目に大きな貿易相手国だ。イランは中東地域においてはサウジアラビアについで大きな市場を形成しているのである。世界銀行によれば、経済成長率も4.6%と好調である。

イラン政府の対抗策

 もちろん、最も危機感を抱いているのはイランであろう。イラン国内では物価の値上がりが顕著で、国民の間では重苦しい雰囲気がまん延しているようだ。11月に制裁範囲が拡大すれば、イランの国家収入の3割を占める原油取引も対象となるため、イラン経済はかつてない危機に直面する。それ以外にも、イラン第2の産業である自動車部門や、すそ野の広い鉄鋼分野も標的とされているため、イラン経済の先行きには暗雲が立ち込めている。通貨リアルはこの1年で80%も価値が下落した。
 こうした不安感からイラン各地では反米デモに限らず、現政権を率いるロハニ大統領の政治、外交手腕を批判する抗議デモも相次ぐようになった。実は、アメリカとすれば、経済悪化にともなうイラン国内での反政府デモが拡大し、内部からイランが崩壊に至ることを期待していることは明らかである。現に、デモ参加者への支持を打ち出しており、さまざまな支援も行っていると見られる。

 そうしたアメリカの動きに対抗するため、イラン政府はアメリカ以外の5カ国との間で核合意にとどまることで国際社会からの支持を得たいと考えているはずだ。実は、「イラン核合意」をまとめたのはオバマ前大統領であった。そのため、オバマ前大統領は今回のトランプ大統領の決定に猛反発をしている。曰く、「こうしたトランプ大統領の一方的なやり方は中東情勢を不安定化させるだけでなく、アメリカとヨーロッパとの関係もおかしくさせる」。
 たしかに、欧州連合(EU)のモゲリーニ外相は英独仏3カ国の外相とともに「アメリカの制裁再開は非常に遺憾である」との共同声明を発表し、イランとの原油取引を継続する姿勢を強調している。なぜなら、2015年に成立したいイラン核合意を受け、欧州企業はイラン産原油の輸入を再開し、今日に至っているからだ。もし、アメリカの制裁が発動されれば、これらの欧州企業は甚大な被害を受けることになる。

 そのような欧州企業の権益を守るため、EUはアメリカとの交渉に加えて、防衛策の構築にも取り組み始めた。アメリカが行う制裁によって欧州企業が損害を被った場合には、EU内の裁判所での審理を経て、アメリカ側に賠償させる措置を導入するという。さらには、欧州企業への支援強化策として、欧州投資銀行(EIB)の融資を活用する案も検討されている。
 しかし、こうした声に一切耳を傾けないのがトランプ大統領である。見方を変えれば、オバマ前大統領が成し遂げた成果をすべてご破算にしないと気が済まないようにも見えるほどだ。

(つづく)

<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)

国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。16年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見~「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。

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