2024年12月26日( 木 )

日本への影響は?トランプ大統領によるイラン制裁再開(3)

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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏

中ロとの関係強化へ

 イラン政府は苦境を打開するため、中国やロシアとの関係強化に軸足を移し始めた。というのも、イラン産原油の最大の輸入国は中国にほかならないからである。
 何しろ、直近のデータによれば、イラン産原油の35%は中国向けと急増中である。中国もアメリカのトランプ政権が繰り出す関税政策や通商戦争を平気で押し付ける強圧姿勢には辟易しているため、「アメリカの要求には一切応じる考えはない」と、断固としてイラン擁護の姿勢を明らかにしている。
 イランのザリフ外務大臣は中国やロシアとの協議を進めており、これら両国との対米共闘に自信を示している。思い起こせば、2015年の核合意以前の制裁中にも、イランは中国やロシアとは貿易を継続していた。しかも、近年、イランは中ロ両国との間で軍事訓練を実施するなど関係強化に努めてきている。

 このままいけば、イラン制裁の本格化を機に、アメリカと中国との間でも貿易戦争が火を噴く可能性が高い。世界第1と第2の経済大国が正面衝突することになれば、世界経済が混乱することは間違いないだろう。中国としても、そうした事態は避けたいであろうが、トランプ大統領の通商政策の動向次第では「対決も辞さない」との考えに傾いているようだ。

 興味深い点は、そうした状況下であるがゆえに、中国は日本にも共闘をもち掛けようとしていることである。日本にとってアメリカの対イラン経済制裁がもたらす影響を想定したうえで、「アメリカの一方的な行動を押さえるために手を結ぼう」という提案にほかならない。水面下で中国からは日本のみならず韓国、インドなど、イラン産原油の輸入国への働きかけが加速している模様だ。

本音は中国の影響力排除

 しかし、日本として理解しておくべきは、なぜトランプ大統領はこれほど一方的な対イラン制裁に傾いているのか、という理由である。表向きには、シリアやイエメンなど中東各地を不安定化させるイランの活動を停止させることに置かれている。というのも、イラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」などがシリアを筆頭にイエメン、イラク、レバノンといった国々で活動する武装組織を支援しているからだ。さらには、イスラム教シーア派大国のイランとスンニ派大国のサウジアラビアの宗教対立も影響している。トランプ大統領に言わせれば、「核開発を凍結し制裁解除で経済的利益を得ているイランが各地の武装勢力を支援するような現状は不公平で容認できない」というわけだ。

 とはいえ、本音の部分での最大の理由は「拡大する中国の影響力を排除すること」にほかならない。習近平主席の進める、21世紀最大のインフラ事業と目される「一帯一路計画」にとってユーラシア地域は要(かねめ)となる。イランは地政学的にその中心的位置を占めているからだ。
 遅まきながら、この世紀の中国主導のプロジェクトに対抗する可能性を模索し始めたのがトランプ大統領である。その観点から、イランの経済力を削ごうとの思惑が見て取れる。たしかに、イランにとって中国との関係は重要であろう。原油の最大のお得意先であるに止まらず、自動車産業の分野でも中国の存在は大きい。イランにおける自動車市場の1割はすでに中国が押さえている。そして、イランが輸入する自動車部品の5割は中国製だ。
 それだけ、イランに影響力をもつ中国をトランプ大統領は関税戦争で敵に回している。そのため、中国はアメリカの意向に反し、イラン産原油の輸入禁止には同意しないと明確に「反トランプ色」を鮮明にしているではないか。これではアメリカによる対イラン経済制裁は骨抜きとならざるを得ない。

 中国の影響力を押さえようとしながら、かえって中国の影響力を拡大させているのである。これではロシアどころか、ヨーロッパの主要国もアメリカのいうなりにはなりそうにない。こうした中国の親イラン策に対して、トランプ大統領はどのような手を打つつもりなのか。そもそも打つ手があるのかどうか。日本としても冷静に見極める必要がある。

(つづく)

<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)

国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。16年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見~「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。

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