日本への影響は?トランプ大統領によるイラン制裁再開(4)
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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏
日本の役割
もう1つ、トランプ大統領がイランを敵対視する理由がある。それはサウジアラビアやイスラエルとの関係である。アメリカ製の兵器や武器を最も買ってくれているのがサウジアラビアである。また、最新鋭の軍事技術をアメリカに提供してくれているのがイスラエルだ。これらアメリカにとって最も大切なお得意様がいずれもイランと敵対関係に陥っている。
オバマ時代には最大の敵国はロシアであった。しかし、今や最大の敵国はイランなのである。そうしたイランと敵対するサウジアラビアやイスラエルの意向を受けて、アメリカはイランへの経済制裁の道を歩んでいるわけだ。こうした代理戦争的な発想では中東の安定も繁栄もありえない。
アメリカブロックと中国ブロックが通商戦争という泥沼にはまり込むのではなく、共存共栄の道筋を見出すべく、和解と協力の方策を提唱、実現するのが日本の役割である。そうした観点での日本の平和外交と「日章丸事件」で発揮された日本企業のサムライ魂が、いま改めて求められている。出でよ、現代の出光佐三!幸い、この8月、新たに着任したイランの駐日大使と面会した麻生副総理は「日本はイランの原油輸入を継続する考えだ。アメリカから例外措置を得ることになるだろう」と述べ、イラン側への配慮をにじませた。麻生副総理によれば、「アメリカ政府に日本とイランの歴史的友好関係とイラン原油の重要性を説明している」とのこと。はたして、そうした日本政府が抱く楽観論が通用するものかどうか。これまでのトランプ大統領の流儀を知れば知るほど、日本にとっては厳しい向かい風が吹いてくるように思われる。
実際、日本の企業は総合商社や自動車業界はもとより、石油関連企業もイランでの事業縮小や撤退を検討し始めている。日本政府があてにならないと踏んでいるからであろう。残念ながら、そうした動きはイランと経済関係の太いほかの国々にも波及し始めている。ドイツ、フランス、イタリアの企業もイラン市場からの順次撤収の方針を明らかにするようになった。そうした流れのなかで、イラン産原油の最大の輸入国である中国とインドは「イランからの原油の輸入を断固として続ける」と宣言。日を追うに従って、アメリカ対中国の貿易戦争の様相が色濃くなるばかりだ。実は、ロシアもイランの油田開発には深くかかわっている。そのため、アメリカの経済制裁が本格的に稼働すれば、アメリカとロシアの関係もギクシャクせざるを得ない。すでに述べたように、EUとの対立も深まる一方である。
さらには、アメリカ人牧師の拘束を巡り、トルコとアメリカの対立も抜き差しならぬ事態となりつつある。問題は、このトルコが食料輸入の面で大きく依存しているのがイランという点だ。このようにイランが接点をもつ多くの国がアメリカと対立する構図となっており、日本にとっては極めて難しいかじ取りが求められることになる。いずれの側に大義があるのか。アメリカは対決姿勢を見せる中国とも水面下では妥協点を探る動きを絶やしていない。万が一、全面対決となれば、中国からのレアアースなど希少金属が入手困難となる。ホルムズ海峡の航行確保の頼みの綱となるアメリカ海軍も創設が決まった宇宙軍にしても、中国からのレアメタルがなくては成り立たない。この相互依存性が認識されている限り、米中の全面戦争はあり得ない。その隠された現実を踏まえたうえで、日本はアメリカとも中国とも巧みに渡り合う知恵と覚悟をもたねばならない。目前のイラン危機は、その日本の力が試される場にほかならない。
(了)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。16年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見~「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。関連キーワード
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